こころころころ「エルベとハンザとラナークって、いつも一緒にいるよね」
きっかけは、ふとしたカステルちゃんの一言だった。
エルベくんの赤い目が、ハンザくんの黄緑色の目が、ラナークくんの紫色の目が、カステルちゃんを捉える。ついでに、テーネも、3人の方を見る。
「あぁ、いや、大した意味はないんだけど。仲いいなと思って」
「それを言ったら、カステルとセーヌだって、仲が良いだろ」
エルベくんが返す。まるでお付きの従者みたいにカステルちゃんのそばに居たセーヌちゃんが、ほんのちょっとだけ顔を赤くした。カステルちゃんが、笑う。
「そりゃ、アタシとセーヌはフィジカル枠だからね。ヌビア復活学に付き合わされるときだって、大体一緒なんだから」
セーヌちゃんの目がちょっとだけ泳いだ。そこは、「アタシとセーヌは親友だから」とか「アタシはセーヌのこと好きだから」とか、言ってほしかったんだろうな。
「それで言うんやったら、ラリベラやって一緒やん?でもラリベラは二人ほど一緒におらんやんけ」
「あぁ、まぁね」
「それってやっぱ、二人が別格仲ええ証拠やと思うけど」
助け舟を出したのはラナークくんだった。もしかしたら、本当にセーヌちゃんが(私と仲が良いから、って、言ってくれないかな)と、そういうふうに願って、それをラナークくんの【優しさ】がキャッチしたのかもしれない。
テーネは【カリスマ】だから他の人の願いを直接感じ取ることはない。けれど、なんとなく近いところがあるのか、(今、ラナークくんは願いを察知したんだなぁ)と分かる時がある。前世は同じ【ヌビア】だったからなのかな。それか、単にテーネがすごい子なだけかもしれない。
「うーん、そうだね」
「せやろ、やっぱり」
「とはいえ、別にラリベラと仲が悪いわけではないよ。ラリベラは弟や妹の世話で忙しくて、一緒にいないのも仕方ないことだから」
カステルちゃんの一言一言で、セーヌちゃんの顔色がコロコロ変わって面白い。カステルちゃんに特別扱いされたいセーヌちゃんと、ラリベラくんを低く見ているように感じるのがイヤなカステルちゃん。どちらの気持ちも、分からないこともない。
人間関係の、こういう、ユラユラした感じを客観的に見るのは、嫌いじゃないの。だって、アイちゃんとテーネは、放っといたって、突き放したって、皆に好かれるから。
人と人とのスキキライ的なところで言うと、若干鈍感なところがあるのか、カステルちゃんは一生懸命にラリベラくんとセーヌちゃんを対等に扱おうとしている。その度に、セーヌちゃんの顔にちょっぴり影が落ちて、ラナークくんが困った顔をする。
「ほら、それだけ一緒におって疲れへんねんから、気が合っとんのとちゃう?」
「そ、そそ………そ、ね、カステル……」
いよいよ痺れを切らしたかのように、セーヌちゃんが小さく口を開いて応戦した。セーヌちゃんの声が入ったこともあってか、カステルちゃんは大きく目を開いた後、照れたように笑った。
「うーん、まぁ、そうかな、そうだね。アタシも、カステルといると気が楽だから」
「…、!!カステル、わ、わた、わたし、わた、しも………」
セーヌちゃんの長い前髪の下、真っ白なほっぺが真っ赤になった。こういう何気ない可愛さも、テーネは嫌いじゃない。
「せやろ、せや、よかった」
「そうそう、それで話を戻すけどさ、エルベとハンザとラナークは仲がいいよねって話」
場が、というか、ラナークくんとセーヌちゃんが固まった。
これまで空気に徹していたかのようなハンザくんと、自然に相槌を返していただけのエルベくんが弾かれたように顔を上げる。二人共、読めない表情をしている。
「せ、せやな、オレ達なんとなく仲良えよな」
「ン、そうだな。ラナークがよくオレとハンザのことを誘ってくれるから」
「………」
エルベくんが肯定して、ハンザくんは小さく頷いた。カステルちゃんはほんの少し首を傾げる。
「でもさ、高校生の席順じゃあるまいし。【記憶】と【記憶力】と【優しさ】……ヌビア学でもあんまり見ない組み合わせじゃないかな」
「単に、波長が合っただけやん」
「そうなの?前にリヨンが、『ハンザはあんまり他人と関わりたがらない』って言ってたから」
「でも、一緒にいたいって思うもんやろ、す、」
そこで、なにかに首を絞められたみたいに、ラナークくんは黙った。カステルちゃんが訝しげに眉をひそめる。
「…どうした?ラナーク」
「…や、何でもあれへん」
その応答に、カステルちゃんは一応納得したようだった。
その向かい側、ラナークくんからは見えない角度で、エルベくんが何度も首をひねっていた。
(あの、急ブレーキみたいな感じ、きっとラナークくんは誰かの願いを察知したんだろうな)
(エルベくんには【優しさ】の記憶があるからこそ、なんで今?って思ったとか)
さすが【カリスマ】のテーネちゃん、人の心がわかるすごい子。あくまで推測でしか無いけど。もしヌビアの子達みんなで、雪山のペンションの殺人ゲームに巻き込まれたら、探偵役は是非ともアイちゃんとテーネにお任せ願いたいくらい。
(と、すると)
願ったのは、多分ハンザくん。
表情少なな彼だけど、ちょっとだけ、さっきよりも緊張したように力が入ってる、気がする。
(そういえば)
前に、リヨンちゃんから、自分たちは地方の旧家の育ちで、しかもハンザは本家の長男だから、何かと古い因習で苦しいんだ、と言われたことがある。
パズルをカチカチ組み立てて、ピンポン、なるほど、テーネは一つの結論を出した。それから、彼ら3人の方を改めて見る。
(男とか、女とか、そんなの気にしなきゃいいのに)
うちのアイちゃんみたいに。
【カリスマ】の力で何とかしてあげたいような気もするけど、他人の先入観の操作まではしたことがないから、やめておこうかな。
「あ、ところで。今度のヌビア復活学の計画、博士から聞いた?」
「博士?どの人だ?」
「フマナ博士」
気分の切り替えの早いカステルちゃんが、あっけなく話題を切り替えた。エルベくんがそっちに興味を持ったから、多分この話は終わるんだろう。
ハンザくんとラナークくんの緊張が少し解れた、ような気が、した。