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    YuugiriSizu

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    YuugiriSizu

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    倫理と正義の出会い

    正義と倫理とドミノマスクこの世界は不自由だ。
    真面目なやつが馬鹿を見る。

    「この事件、明日までに資料を用意してくれ」

    仕事に打ち込むこと
    勉強に励むこと
    規律を守ること
    社会倫理では正義とされる行いも行き過ぎると理解されない。

    「織田さん、まだ仕事するのかよ」
    「あの人、真面目すぎるんだよな…」
    「早く帰りたいのに、本当に上司ガチャ敗北w」
    部下たちの陰口が部署に蔓延る。

    ・・・・・・・・

    時刻は22時を回っていた。
    誰もいない部署を見渡し、息をつく。

    「少し休憩するか」
    ポケットに入れていた煙草を確認して、屋上へと向かう。

    屋上から見える景色が好きだった。
    この街を見ていると自分の行いが報われたような気持ちになる。

    真面目に生きて得たものは多くの陰口と終わらぬ仕事、そして目の前の夜景だ。
    「私の生き方は間違っているのか」
    その問いに帰ってくる答えはない。

    「おっと。。。」
    指先にたどりつきそうなほど短い煙草が地面に落ちる。
    その火は弱弱しく灯っている。

    「…戻るか」
    仕事が待つ部署に戻るため、落ちた煙草を足で潰そうとした。
    その時だった、後ろからそれを止める声が響いた。

    「ポイ捨てはあまり関心しないな、織田巡査部長」
    目の前にいたのは、眼鏡を掛け背筋がピンと伸びた男だった。

    「…浅倉刑事」
    「俺のことを知っているんですね。少し意外です」
    目の前の男は嬉しそうに笑っていた。

    「捜査一課の浅倉正義刑事ですよね。どうしたんですか、こんな夜中にしかも屋上で」
    浅倉のことは知っていた。直接話したことはないが、よく噂されている。
    馬鹿が着くほど真面目だが、周囲から信頼されている人物だ。

    「織田さん、あなたに折り入って頼みがありましてね。今日ここにあなたが来るとわかったので会いにきました」
    「頼み?浅倉さんが私にですか。それに来るのがわかったって、どういうこと・・・」
    浅倉の言葉に困惑したが、すぐにある可能性が浮かんだ。

    「異能の力ですか・・・」
    「えぇ、今日あなたがここに来ることを予知させてもらいました」
    数年前まで創作のなかにしかなかった荒唐無稽な力。
    それがいまでは犯罪にも使われるほど、世界に蔓延していた。

    「織田さん、頼みというのは今度設立するDAPについてです。あなたにそこの副チーフしてもらいたい」
    「…ン!?」
    「突然の話で申し訳ないですが、先日の適正検査であなたは非常に高い数値を出しています」
    「その力を是非我々に貸していただきたい」
    曇りのない瞳で浅倉はこちらを見ている。

    「…浅倉さん、申し訳ないですがお断りします。私にはそんな大役担えません」
    「適正検査の結果は知りませんが、きっと私以上の適任者はいるでしょう」
    その言葉に偽りはなかった。
    ただ、DAPに加入すること自体気が進まない理由もあった。

    「そうですか、、」
    浅倉はふっと息をもらす。
    「俺が知る限りあなた以上に適任者はいないと思います」
    「検査の結果もそうですが、私はあなたが仕事に対して真面目に取り組む姿を何より評価しています」

    「・・・・ッ!」
    浅倉の言葉にも嘘偽りは一切ない。そう信じられるほど彼の表情は柔らかかった。
    自分のこれまでの生き方を受け入れられた気がした。

    「真面目に生きるなんて不自由なだけですよ」
    「DAPだって、裏ではいろいろ言われてます。浅倉さんだって・・・」
    その後に続く言葉が詰まる。
    『汚れた正義』
    誰かのために真面目に生きている人間を陥れる凄惨な言葉を飲み込んだ。

    「…DAPや、俺が陰でどう言われているかは知っていますよ」
    浅倉は静かに目を伏せ言葉を続けた。
    「だけど、俺は周囲がなんと言おうと任された役目を全うします」
    「それが、俺にとっての正義ですので」

    曇りのない瞳にはさらに熱を帯びている。
    まっすぐに伸びた姿勢は、とても堂々としていた。

    「…浅倉さんはとても強い人ですね」
    率直な感想だった。
    その真っ直ぐな正義が眩しすぎた。

    「俺は別に強くはないですよ。ただこの生き方に誇りを持っているだけです」
    「今日は突然失礼しました。もし気が変わったら、いつでもDAPでお待ちしています」
    最後にそう告げると浅倉は屋上を後にした。
    その背中はいままで見てきた誰よりもかっこいいものだった。

    「真面目に生きることが正義ね」
    そんな考え持ったこともなかった。
    誰かのための、この幸せな明かりで照らされる世界のための、小さな犠牲。
    真面目に生きることとは、そういうことだと思っていた。

    「私にとっての正義とはなんだ・・」
    浅倉に出会い、普段考えもしないことを考えている。
    その問いに対しての答えもまた返ってはこない。

    ただ、あの真面目で真っ直ぐな男の背中が脳裏にちらつく。
    彼のような人が幸せに自由に生きられる世界になればとふと思った。

    地面に落ちた煙草の火はすでに消えていた。
    「ポイ捨てはたしかにダメだな」
    その小さな吸い殻を拾い上げ、浅倉に続く形で屋上を後にした。

    ・・・・・・・・・・・・

    DAPの部署は今日も静かだ。
    発足間もないこともあり、部屋にいるのは浅倉正義だけだった。
    浅倉が打っているキーボードの音だけが部屋に響いている。

    コンコン
    そこに扉をノックする音が混ざる。
    浅倉は立ち上がり、扉を開けた。

    「こんにちは、織田さん。お待ちしてました」
    浅倉の表情は初めて会った時と変わらず、柔和な笑みを浮かべていた。

    その表情に答えるようにこちらも口角を上げて答える。
    「正式にDAP配属となりました。織田倫理です。これからよろしくお願いします」


    『真面目に生き続ける浅倉正義』と『真面目に生きる彼に憧れた織田倫理』の話


    ・・・・・・・・・・・・・・

    「ところで、その手に持っているマスクはなんですか?」
    「真面目な浅倉さんと私だとチームの雰囲気が固くなってしまうと思いましてね」
    「私はここではこれを着けて自由に伸び伸びやらせていただきます」
    「??????」
    「真面目な人間でも自由に生きられるような世界を作るのが、私の正義なのでね」
    「まずは私が誰よりも自由になってみせる…なんてな」
    「はは、まったく。せめて警察官にふさわしい恰好にしてくれよ」

    マスクを手に持ちニヤリと笑う倫理と苦笑交じりだが心から笑っている正義。
    静かだった部屋には二人の笑い声が響いていた。
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