嫌なことがあっても絶対に口には出さないロイド。態度にも出していないつもりだけどなぜかそういう時に限ってランディが自分の膝に乗っけてはガッチリホールドしてくる。「離して」と暴れても力では勝てず大人しくなるが、最終的にはランディの優しさと温もりに毎回ぽろぽろと涙を零してしまう。ランディは何も言わずにロイドの頭を撫でている。
ロイドは嫌な事があっても口には出さない。
リーダーだからという気負いや目標としている人物に近づきたい、そして仲間に心配をかけまいという強い思いがあるのだろう。
だが少し水くさいのではないかとランディは思う。
支援課が発足してから何か月も寝食を共にし、互いに背中を預け合って来たのだ。もう少し甘えてくれたっていいのに、と思い、しかし未だ自らの過去を全て打ち明けられてはいない事を思い出して、どの口がそれを言うのか、と苦い笑みを浮かべる。
しかしそれはそれ、これはこれだ。
やはりロイドを甘やかしたいし頼って欲しい。
そう思ったランディは、 頑固で意地っ張りなリーダーがどうしたら甘えてくれるだろうか、と考え、まずは自分のテリトリーに引き込んでみる事にした。
警察なんて信用出来ない。頼りにならない。
クロスベルに戻ってきてから、何度その言葉を聞いただろうか。
その言葉を聞くたびに悔しい思いをしたし、遊撃士が頼りにされているのを見て羨ましいと思った。
そして、自身が兄からはほど遠い実力しか持ち合わせていないのだという事を思い知らされるたびに、泣きたくなった。
だが、自分は支援課のリーダーなのだ。そんな泣き言をこぼしてはいけない。
そう自身を戒めるロイドは、ランディから時折心配そうな視線を向けられている事には気づいていなかった。
だから、たまには一緒に飲まないか、と誘いをかけられて素直に頷き、ソファに近づけば、途端に捕まえられ、抱き上げられて膝の上に乗せられて、酷く驚き、離してと言いながらバタバタと暴れる。
だがランディに力で敵うはずもなく。やがて諦めて力を抜けば、良い子だ、とばかりに頭をなでられ、涙がこぼれそうになる。
それをぐっと堪えていれば、耳元で優しい声が囁いた。
「なあ、ロイド。無理しなくても良いんだぞ?リーダーだって、たまには誰かにすがって甘えて良いんだ」
「ラン、ディ」
「お前も何か、重てえモン抱えてんだろ?無理に聞きはしねえけど、胸を貸すくらいならいつでもしてやる。だから俺に甘えてくれよ、ロイド」
その優しい言葉と温もりに、涙腺は決壊し、涙がとめどなく溢れる。そして嗚咽を漏らすロイドの頭を、ランディは優しくなで続けた。
「……なんで、俺が無理してるって思ったんだ?ランディ」
「ん?だってお前、目に感情が表れるからな。ほんの一瞬だから、お嬢やティオすけは気づいてねえだろうけど。俺の目は誤魔化せねえぞ?」
「凄いな、ランディは。態度には出してないつもりだったんだけど」
「ああ、お前我慢すんの、結構得意みたいだもんな。頑固っつーか、意地っ張りっつーか」
「頑固で悪かったな。……これからも時々、甘えに来ても良いかな?」
「おう。さっきも言ったが、胸を貸すくらいならいつでもしてやる。だから、遠慮なんかすんな、ロイド」
「うん。…ありがとう、ランディ」
「いいって事よ。あんま無理すんじゃねえぞ?」
「努力は、する」
「そこで努力するっていうのがな。まあお前らしいけど。しんどくなったらいつでも来い、ロイド」
「うん」