くだらない事で喧嘩するロイドとランディの話支援要請の数も比較的少なく、またようやく全員揃ったメンバーにとって手配魔獣など敵ではなく。
夕方、比較的早い時間に仕事が終わった後、それぞれくつろいでいたところで突如響き渡った大声に、エリィは驚いて一階へと下りた。
するとキッチンの入り口では既に騒ぎを聞きつけて下りて来ていたらしいティオが中を覗いていて、その後ろからエリィも覗き込んだところ見えたのは、ロイドとランディが睨み合い、その間でノエルがおろおろとしている光景だった。
「ねえ、ティオちゃん」
「何でしょう、エリィさん」
「今日の夕食当番って、確かロイドとノエルさんだったはずよね?」
「ええ、そうです」
「なら、どうしてこんな事になっているのかしら?」
「それについては僕が説明してあげるよ」
エリィがティオと話をしていると横から口を挟んだのは、面白そうな顔をしたワジだった。
「ワジ君!? 一体いつの間に後ろに来たの?」
「今だよ。けどこの騒ぎが起きた少し後くらいまではそこにいたから、原因なら知ってる」
「そ、そう。……なら、教えてもらえるかしら。この騒ぎの原因を」
ワジの言葉に、仲裁しようとしているノエルを置き去りにどこへ行っていたのか、と聞きそうになったエリィだったが、どうせはぐらかされるか面白がられるだけかと気にしない事にして、続きを促す。
そして原因を聞いて、そんなくだらない事で、と額を押さえる羽目になった。
「カレーだよ」
「えっ」
「カレー、ですか?」
「そう、カレー。甘口のルーの買い置きが切れてたらしくてね。ロイドがランディにお使いを頼もうとしたんだけど、めんどくさかったのかランディが断ったのさ」
「それだけ、なの?」
「いや、もう少しだけ続きがある」
「なら勿体ぶらずにさっさと吐いてください」
「てぃ、ティオちゃん……」
「やれやれ、せっかちだねえ。……ロイドが、だったら自分が買いに行くからその間に下ごしらえをしてくれって頼んだんだ。けどランディはこれも断って、そろそろキー坊にも大人の味ってやつを教えても良いんじゃねえかって言ったのさ」
「はあ、なるほど。話が見えてきましたね」
「ロイドは、キーアちゃんには甘いものね」
「それを言うなら君たち全員彼女に甘いと思うけど。まあでも、ロイドは確かに一番甘いかもしれないね」
はあ、とため息をつき、キッチンを見れば、未だにロイドとランディは睨み合っている。
そして聞こえてきた会話に、本格的に頭が痛くなってきたわ、と呟いた。
「……だから、キーアにはまだ早いって言ってるだろう! あの子はまだ、9つくらいなんだぞっ」
「だからどうしたってんだよ。俺がそんくらいの頃にはもう辛いもん平気で食ってたぜ?」
「それはランディの話だろう!?」
「だが案外キー坊も平気かもしれねえじゃねえか。大体中辛くらい、んな大した辛さじゃねえだろうに」
「おふたりとも、落ち着いてくださいっ! ていうか、皆さんも見てないで助けてくださ~い」
話は平行線を辿り、このままでは当分決着がつきそうにない。だがそろそろ、キーアも課長も帰って来る頃のはずだ。
もういっそモルジュでパンでも買ってこようか、とエリィが考え始めた頃、ただいまー! と元気な声が聞こえてきた。
「あれ? ねえねえ、みんな何してるの~?」
「やあ、お帰り。ちょっとね、ロイドとランディが喧嘩してて、どうやったら止められるか考えてたんだ」
「けんか? けんかはダメだよ?」
「うん、そうだね。だから君が、めってしてきてくれるかな?」
「わかった!」
帰って来たキーアを流れるように喧嘩の仲裁に向かわせたワジに、さすがね、とエリィは苦笑しティオは感心する。
そしてワジに誘導されてロイドとランディの元に向かったキーアに、けんかはだめだよ、めっ! と言われ、ヒートアップしていたロイドとランディは気まずげに顔を見合わせる。
その様子を見てほっと胸をなでおろしたノエルを他所に、なんでけんかしてたの? と尋ねるキーアに、これ幸いとランディが大人の味に挑戦してみねえか? と丸めこみにかかり。それに目を輝かせて、おとなの味!? ちょうせんするっ! と元気よく答えたキーアにはロイドも逆らえず、渋い顔をしながらも中辛のカレーを作る事で決着はつき。
その後、少しだけ遅くなった夕食の席で、ちゅうから、すこしからいけどおいしい! とにこにこするキーアと、それなら良いんだ、と相好を崩すロイド、単純だねえ/な、とからかうワジやランディ、そして苦笑するエリィやいつもの無表情が少しだけ崩れたティオの姿が見られたのだった。
なお、ツァイトは人間の争いごとには関知しないとばかりに喧嘩の途中で出ていき。コッペも途中で餌をねだりにキッチンへと来たものの、貰えそうにないと察するとさっさと退散し、結構ドライよね、とエリィが呟いていた事だけ、付け加えておく。