無題 複数人の呪術師による一級呪霊複数体の大型祓除があった。夕刻に開始したその任務は、夜も明けるころには幾人もの怪我人が高専に運び込まれる結果となった。祓除完了の報を携えた帰還であったことが救いと言える。
別の地点でこれまた一級呪霊を相手に、こちらは単独での任務をけろりとこなしてきた五条は、帰還するが早いか、担架にのせた負傷者を運ぶ頭数に計上された。立っている者は御三家でも使え、とは同期の女の弁である。負傷者を搬送する車と医務室とを何度か往復し、ベッドの上、床の上、廊下の端、指示に従って血と泥にまみれた身体たちを並べていく作業に従事する。
重傷者が担ぎ込まれる医務室の外、軽傷者たち——相対的なものさしではあるが——は廊下で治療の順番を待つことになる。反転術式の施術者は一人だ。どんなに迅速に対応しようとも、スピードには限界がある。
痛みを逃してうめく声、荒く繰り返される呼吸音。いくつもの命が鼓膜を揺する空間の端に、庵はいた。