Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    はまおぎ

    男女CP二次文
    📘https://www.pixiv.net/users/1154499
    📮https://wavebox.me/wave/7ia7akulf0gay9gt/
    💬@ysas_reed

    .

    ☆quiet follow Send AirSkeb request
    POIPOI 111

    はまおぎ

    ☆quiet follow

    呪専ご+う

    宴席 開宴時間を迎えても庵の隣の膳は一人分空いていた。席に名札などはない。主催が対応を決めかねている。始めるか、待つか。
     庵が風邪をこじらせて寝込んでいる父の名代を頼まれたのは、四半期に一度の頻度で執り行われるそれなりに大規模な席だった。欠席が許されないというものではない。しかし一度出席と答えた以上は代理を出したいというのが父の意向だった。あくまでも任務が優先、招集がかかればそちらに行ってよいと母は言い添えた。
     不謹慎かもしれないと思いつつ任務が入ることを祈ったものの、祈りが通じることはなかった。結局庵はうららかな週末の午後、とある料亭の宴会場で呪術界のお歴々と並んで正座する羽目になっている。母にはお料理はおいしいからとも言われたが、これでは味わう余裕などない。
     会場をちらと見渡して自らの場違いっぷりを再確認した庵は、緊張を自覚する。こわばりをほぐそうとこっそり深呼吸をした次の瞬間、「どーもー」とひょうきんな声が聞こえた。
     会場中が中庭に面したくれ縁に視線を向けると、庵と同じ呪術高専の制服を着た五条が立っている。「あれ、まだ始めてねえの?」と言ったかと思えば、案内されるより先に庵の隣席へずかずかどかりと座り込んだ。
     対して立ち上がったのは主催だった。今なら分かる、考えてみれば五条の当主がこの場にいなかった。あいさつした覚えがない。御三家を欠いて始めてしまってよいのかと主催は悩んでいたのだ。
     御三家系列の家々で持ち回りであるというこの宴席の主催は、今回は加茂の系譜の者だった。彼が季節の挨拶の後で乾杯の音頭をとれば、あとは食事と歓談だ。隣の男がさっそく声をかけてきた。
    「和服のおっさんたちの中で俺たちだけ制服着てると、お揃い感増すな」
    「制服なんだから、揃ってなきゃおかしいでしょう」
    「せっかくの俺とのオソロイだぜ、もっと喜んで享受しろよ」
     かわいくねえのと言った五条は、お吸い物の蓋を開けて、飾り麩すげえ色してるとつぶやいている。美しいもみじ麩ではないか、失礼なやつだ。お歴々を待たせておいて詫びの一つもない方がよっぽどかわいくない、と思いながら、庵も茶碗蒸しを手に取る。
    「そうだ歌姫、帰りは俺と相乗りね」
    「えっヤダ!」銀杏を取り落としかけた。「どうしてよ」
    「目的地は高専で一緒じゃん。車呼んであるから、定刻になった瞬間二人でフケよーぜ。どうせ歌姫はあいさつなんかとっくに済ませてるだろ」
     五条の言う通り、席に着く前に一通りのあいさつ回りは済ませてある。帰る先が一緒なのも否定しないが、必要もないのに車という空間を五条と二人で共有するのはできれば避けたい。出発から到着までいじり倒される未来が見える。
    「そもそもね、なんでアンタここにいるの」
    「親父の名代でえ、出なくちゃいけなくてえ」
    「いや、そっちの理由も少し気になったけど」
     持ち上げたままだった銀杏を、冷めないうちに口へ迎える。ほくほくしていてシンプルにおいしい。なめらかな茶碗蒸しの温かさはおなかから全身に染み渡るようで、銀杏の食感も相まってほっとする味だった。
    「席次おかしくない? 腐ってもアンタは五条のご当主の名代なんでしょ。こんな下座にいちゃダメなんじゃないの」
     改めて会場を見る。やはり御三家当主たちは最上座に座していた。次に主催、さらに家格に従って上座から下座へと面々が配されていると分かる。しかし五条の当主は上座にいない。それに当たるだろう空席もそこにはない。
     高専生をひとかたまりに並べたのかとも考えたが、その場合、庵たちはもっと下座にいるはずだ。今、二級の庵よりも上級の男性陣が庵に対して下座にいる。それは庵や彼ら個人の事情には全くよらず、ひとえに家の序列と歴史の問題だ。であるからにはやはり、五条家が庵家と肩を並べるこの席次はおかしかった。
    「三分の二が向こうにいるわよ」指はささないが、視線を上座に向ける。
    「メンツ聞いたときに、ちょ〜っと、お願いしといた。タヌキとしゃべるより、歌姫つつく方がマシなんだよな」五条の次期当主とされる御令息は、庵の横で煮浸しをぱくついている。
     何が『ちょ〜っと』なのだろうか。家格も序列も、庵からしてみれば『ちょ〜っと』の『お願い』で覆るようなしがらみではない。
    「この煮浸し、うまいよ。味、しみっしみのじゅわじゅわ」言いながら五条の箸は煮付けに進む。「歌姫、全然食ってねえじゃん。残すならもらうけど?」
    「やめてったら、行儀が悪い」庵も煮浸しの小鉢を手にした。「せっかくのお料理なんだから、ちゃんと食べるわよ」
     まずは茄子を一切れ。色がいい。嚙み締めた瞬間に茄子はほろりとほどけ、優しい出汁の味が口に満ちる。ああ、しみっしみのじゅわじゅわ、ね。聞いたときには子どもらしい感想だと思った五条の言葉を、内心でつい復唱してしまう。
     味なんて分かりそうになかったほどの緊張は、いつの間にかどこかへ消えていた。

    (2111221006)
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🍆❤🍆❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works