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    はまおぎ

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    はまおぎ

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    ご×う。
    「マグカップ」後日談。浸食される歌先生宅。

     五条がひょいと開いた割り箸は、意外に往生際が悪かった。こんにゃろと力を込めると、ぱきっと軽妙な音をたてて不細工な割れ方をした。思わず「ええ……」と声がもれる。その小さな嘆きをテーブルの向かい側で聞きつけた庵が「あらら」とつぶやいたのも耳に届いた。
    「アンバランスな割り方したわね」
    「割ったんじゃない、割れたんだって。別に、このまま使うけどさ」
     所詮、コンビニでタダでついてきた割り箸だ。
     普段箸を持つ位置だと、斜めに割れた部分が指に当たって違和感が大きい。単に太い細いというだけでなく、割ったまま縁の処理もされていないのだからなおさらだ。
     それを避けるならば、少し短めに持つしかなかった。ただでさえ五条の手のサイズに比して割り箸は短いというのに。物をつまめないということはないが、短く持つのは重心のバランスがいやに偏っていて気持ち悪い。
     結局、どう持ったって違和感があるんじゃないか。そう気づいた五条は開き直って、通常の位置で箸を持ち直した。もう、目の前の食事を食べられればなんでもよかった。
     不細工な割り箸で、汁椀のみそ汁から銀杏切りの大根を拾いあげて食べる。割り箸の割れ方がどうであれ、味に影響はない。だったら、料理が冷めてしまう前に箸を進めることの方が大事だ。次は大皿盛りにされたチキンソテーを一切れ。キャベツの千切りには胡麻ドレッシング。小鉢のほうれん草のおひたしに続いてまたチキンソテー。
    「ごはんも食べなさいよ」
     呆れたように言ってから庵も食事に手をつけた。とはいえ、庵の手元にあるのはご飯茶碗でなく缶ビールだ。汁椀もない。おかずをアテに飲んで、締めにご飯とみそ汁にありつくつもりなのだろう。いつものことだ。
     お互い、口に物を入れた状態ではしゃべらない癖がついている。二人で卓を共にしてぽつりぽつりとした言葉を拾い合う姿は、飲み会などの席で外野から普段の熱いラリーからは考えられないと言われる。しかし五条と庵にしてみれば普段も食事時も、それぞれ自然体の在り様だった。
     五条が箸を置いて傍らの黒いマグカップを手に取ったとき、庵は缶ビールを置いた。
    「長めのやつがいいのかしら」
    「何が」
    「お箸。アンタの分を置いとくなら、手大きいし、長めのがいいのかなって思ってさ」
     缶ビールから離した手で五条の手元を指さす。その先には五条がしばらく前に持ち込んだマグカップがある。カップボードにしまわれている白いマグカップは、食後に活躍の機会があるはずだ。
    「それがあるのに、アンタ、お箸はずっと割り箸でしょう。こうやって見てると、結構ちぐはぐで気になる」
     なるほどね、とカップを左手に、箸を右手に考える。五条のカトラリーとして割り箸を出し続けていたのは庵だが、どういうわけだか、ここにきて意識改革が起きたらしい。乗らない五条ではない。
    「せっかくだし夫婦箸にしよっか」
    「私のお箸、こないだ替えたばっかだから、嫌だ」
     でも今度来るときにでもお箸持ってきなさいよ、と庵は二本目のプルタブを上げた。
     僕に任せるあたり詰めが甘いんだよ、とは言わない。『替えたばっか』じゃなければ夫婦箸もありってことかな、とも言わない。夫婦箸を同時に使い始めなきゃいけない法律はないよね、とも言わずにおいた。

    (2112061502)
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