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    はまおぎ

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    はまおぎ

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    お歳暮 任務への引率を終えて学生たちと分かれた庵がスマートフォンを確認すると、輸送業者からの不在配達連絡が入っていた。配送の詳細によると東京から発送された荷物らしいのだが、庵には何かを通販した記憶はない。情報をよく見れば荷物の発送者は東京の百貨店で、庵の頭に浮かぶ疑問符はさらに増えた。
     今日の業務は先ほど終えたばかりの引率がラストだ。時間を見て、今日の最終枠で再配達を依頼すれば受け取りできそうだと判断する。便利な時代になったものだと思いつつオンラインで再配達依頼を登録した。手早く荷物をまとめて着替えを済ませ、同僚の教員や補助監督たちに挨拶を残して高専を後にした。
     自宅に帰り着いてからしばらくして、指定した時間枠の通りに業者は来た。サインをしながらチラリと段ボール箱に添えられた伝票を見ても、確かに庵の住所と名前が書かれている。業者を見送った庵は、改めて何だろうなこの荷物は、と段ボール箱をテーブルに置いて伝票をまじまじと見る。届け先、庵の住所と名前。品名、食品。そして依頼主は東京のどこかの住所と五条悟の名前。
     五条悟。あの五条悟?
     慣れた名前だが、配達物の伝票で見たのは初めてではないだろうか。つまり、この東京都云々の住所は五条の拠点か。
     カッターを持ち出して開封する。五条が送りつけてくる食品などまったく身に覚えはないものの、伝票の届け先は何度見ても庵のそれだ。とにかく開けてみて、中身を確認しないことには対応もできない。
     中にはお歳暮とのし紙を添えられた包みが入っていた。包みも開ける。果たして庵の目の前にあるのは、寄せ鍋セット二人前だった。確かに食品だ。パンフレットを手に取ると、どう考えても一般人の食卓には縁の薄そうな牛肉の写真が目に入ってくる。
    「私、一人暮らしなんだけど」
     ここに五条がいるわけでもないのに呟いてしまう。一人暮らしの人間に二人前の鍋セットは当然多い。かといって学生たちを巻き込んで寮で振る舞うには到底足りない。肉をはじめとした具材を足そうにも、この肉に並べられるだけの追加具材を仕入れる当てなど庵にはない。
     絶妙に困るものを送ってきやがる。
     とりあえず冷蔵庫だ。空きつくれるかな、とパンフレットをテーブルに置いた瞬間、ポケットのスマートフォンが震えた。一度、二度、三度……と震え続ける。メッセージの受信ではなく、通話の着信。引っ張り出してディスプレイを見れば、表示されているのは目の前の鍋セットの送り主の名前だった。すぐに受話のアイコンをスワイプする。
    『おいしそうな鍋セットでしょ』
     その第一声を聞いて、スマートフォンを持つ指先に力がこもった。みしりと音がした気がしたので慌てて力を緩める。
    「まるで見てるみたいなタイミングで電話してくるわね」思わず部屋を見回す。
    『見てるっていうか、チェックしたっていうか。配送状況見てみたら〝配達完了〟になってたから』
     そうか、とそこについては納得した。しかしまだ序の口だ。
    「お歳暮って何、急に。今までこんなことしてこなかったじゃない」
    『世話になった人に送るもんだって聞いてたし』
    「それ、つまり私には世話になった覚えがないって言いたい?」
    『でも最近はお取り寄せグルメくらいの気持ちで、自分の家とか帰省の手土産代わりに実家とかに送るって方向性でも売り出してるらしいよ』
    「うちはアンタの家でも実家でもないんだわ」
     上等な牛肉を頂く鍋セットは、かしこまったのし紙の割にかなりお気楽な心持ちで送りつけられたものであるらしい。感謝の念に端を発した行動でもないとすると、二人前という分量も相まって悪ふざけの線が濃くなる。ずいぶんと手の込んだ、そして金のかかる悪ふざけである。
    「私、一人暮らしなんだけど」
     数分前のひとりごとを、今度は会話のボールとして投げかけた。
    『そんなこと知ってるよ。だから二人分なんじゃん』きょとんといった様子の声が返ってきた。『歌姫と僕。ほら二人』
     庵と五条。二人。二人前。
    「私と、アンタ?」
    『てことで、今度の週末は鍋パだから!』
    「おい待て」
    『日時、土曜日の夜八時から。場所、歌姫宅ダイニング。参加者は僕、歌姫。連絡は以上!』
    「以上じゃねえよ」
     情報が多いような、足りていないような。
     鍋セットが二人前なのは庵と五条が食べるから。二人の内訳は分かったが、なぜ庵と五条なのかが分からない。
     アンタは送り主ではないのかという疑問は、お取り寄せグルメ感覚で自宅にという昨今のお歳暮コンセプトがフォローしてしまう。しかしその配送先が五条の家でなく庵の家である道理が見つからない。
    『ほかに情報いる? 締めはうどんもセットになってたよね。おつまみとかなら、僕のジュースと一緒にテキトーに買い出してくつもりだから任せてくれていいよ。ビールは自分で選んで用意しときなね。どうせストックしてんだから、まあ心配してないけど』
    「違う! 気を使うポイントが絶望的に違う!」
     五条には見えていないと分かっていても頭を抱えてしまう。ジェスチャーでも比喩でもなく、湧き出して止まらない疑問符に圧迫されたように頭が痛かった。

    (2112120028)
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