見舞う 眠る庵の手が掛け布団の上に投げ出されている。
ベッドの傍らに座り込む五条は、つい、と指先でそれを転がした。抵抗する動きがあるわけもなく、ころりと素直に手のひらを見せる。
つい、とまた指先で、今度は掌線をなぞって柔らかな肉感のふちをたどる。彼女の手のひらに、ゆったりと弧を描く生命線。
さすがの五条も手相など知らない。この皺が彼女にどれだけの残り時間を告げているのか。横たえられて沈黙する彼女の姿が、この曲線のどこにどう表れているのか。当然分かりやしない。
ただ、庵の来し方と行く末をたどる。爪の先で。指の腹で。何度も、何度も。
——ちょっと、なに。
通りのよい庵の声が聞こえた気がした。
五条は視線をぐるりと彼女の顔へ向ける。
彼女の唇は薄く開かれたまま、動いてはいなかった。浮いたり沈んだりを繰り返す胸元に、ただ緩く呼吸を続けているのを見てとる。
なんだ、と肩を落としたとき、指先が触れる手のひらが一度ぴくりと跳ねた。懲りずに視線を手元へ向ける。
庵の手のひらがゆるゆると閉じて、五条の指先を包んでいくのを見守る。己の指を逃がすことはせず、素直に捕まってやった。
「くすぐったかった?」
文句があるなら起きなよ、寝坊助。
五条より小さな手のひらの、弱々しい戒め。彼が少し指を動かせば途端にほころぶ。
しかし五条は囚われ続けた。指先を包む体温が、どうにも惜しかったので。
(22.04.04 00:27)