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    主食は文ストの国受けです。
    推しが右なら、何でも美味しく頂けます。固定、リバ等方は、ご注意ください!!!

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    【包帯無駄使い装置の生誕祭記念】
    文ストのダザイ オサムの誕生日を祝う為の連載企画2日目です!

    【Who are you?】
    外回りの疲労に悶絶するダザイ。ふと、敦の表情に見入っている、その理由とは?

    【3日目】【三日目】

     ギシギシと錆びついたロボットみたいな音が、身体から聞こえて来る。人間、慣れない事はするものじゃない。
    「うう〜。身体中が筋肉痛だよ〜」
    「情けない。一日外回りして、引ったくり犯を捕まえただけじゃないか」
    「私、ずっとデスクワーク専門で、こんな大立ち回りなんてしてこなかったのだよ。移動は運転手付の高級車だし……。あっ、敦君。もうちょい右」
    「は、はいっ」
     椅子の背凭れに向かい合う形で座り、シャツをお腹辺りまで捲って、敦君に腰へ湿布を貼って貰っていたのだ。
    「全く、仕方がない。今日は事務仕事でもしていろ。まずは、昨日の引ったくり犯の報告書の提出な」
     そう言って、国木田君は資料とファイルをドサっと、私の机に置いた。
    「ちょっとぉ、『右目の太宰』は仕事サボりまくってたのだろう? 私も同じくサボりたいよ! 此方の世界ではバケーションするつもりでいたのに!」
     こんなに仕事漬けにされては、計画が台無しだ。
    「戯け者めが! 何がバケーションだ。探偵社員になったからには働くに決まってるだろう」
    「私、あっちでは本当に頑張ってたのだよ。たった一人で、やりたくない事までやってさ」
     自分がした事に後悔はない。
     そうしなければ、織田作が小説を書ける未来を守る事は出来なかった。その未来を守れるのなら、私は何度だって、同じ未来を繰り返すだろう。
     ただ、守る為に失ったものも多かった。
     信頼、理解者、穏やかな時間、仲間、そして───、
    「太宰さん。僕も手伝いますから、がんばりましょう」
     湿布を片付けた敦君がそう言って、穏やかに笑った。
     私はそれを微笑ましく、珍しいものを見るような気持ちで見つめた。
    「何ですか? 僕、おかしな事でも言いました?」
     余りにも見つめすぎてしまったのか、敦君がアワアワと狼狽え始めてしまった。
    「いやぁ、ね。あちらの敦君は、こんな風に笑った事ないもんだから、何だか珍しくて」
    「そう、なんですか?」
     敦君は驚いたように、目を丸くさせた。
    「片腕として側に居た鏡花ちゃん相手には、もしかしたら、見せていたのかもしれないけど。少なくとも、私は見た事がないね」
     尤も、敦君と鏡花ちゃんの関係は、片腕や相棒といえ表現では現しきれない。兄妹や恋人以上に、それは魂同士がつながっているように思えた。
     それを利用していた所が、私自身自覚があるのだから、本当に悪い人間だったなと思う。
    「ん? という事は、『左目の太宰』さんの他にも、此方の世界にいる人があちらにも居るという事ですか?」
    「そりゃ、居るさ。基本的に登場人物は同じで、舞台設定が違うという感じかな? 敦君は私と同じポートマフィアでね。白い死神と呼ばれているんだよ」
     懐かしく昔語りをする私とは裏腹に、敦君は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
    「えと、誰がポートマフィアで、白い死神?」
    「君だよ、敦君」
     人に指を差したら叱られそうだけど、ニコリ笑って鼻先辺りを指差した。
    「えええー! な、何で? 僕がポートマフィアって。嘘ですよね?」
    「マフィアの私が芥川君ではなく、君を選んで育ててしまったからねぇ。つくづく子育てには向いてない質だよ。その点、探偵社に入った芥川君は、国木田君からも探偵社員としてお墨付きを貰っていたし」
    「あ、あああ芥川が探偵社員? ほ、他の皆はどうなんですか?」
    「君と私以外は、ちゃんと探偵社員だよ。鏡花ちゃんは君の片腕として共に活躍してるから、安心したまえ」
    「そんなぁ、安心出来ないですよぉ」
     あちらの世界の話だというのに、敦君は頭を抱えて苦悶している。想像が追いつかないというより、想像するのを体が拒否しているかのようだ。
     敦君は、コロコロと表情を変えて、素直な感情を体いっぱいに現している。私はそれを、机に頬杖をついて楽しげに眺めた。
     失ったものは、本当に多くて───。そのうちのひとつが、思わぬ形で手に入って、心躍らないはずはない。
    「おい。太宰。それがお前の事実だとしても、余り揶揄ってやるな」
     国木田君が軽く小突いて注意した。
    「はいはーい」
     忠告を効く気もなく、口先だけの返事をする。国木田君は、私へ物言いたげな視線を送りつつも、事務員に呼ばれて行った。
    「随分とおしゃべりじゃないか? 太宰」
     それと入れ替わるようにして、乱歩さんが私の元へやって来た。
    「あちらでは、なかなか口数は少ない方だったんで、反動ですかね」
     ニコリと、微笑みをひとつ。
    「それで誤魔化せるのは、他の奴らだけだぞ。太宰」
     けれど、飄々としながらも、乱歩さんの瞳はしっかりと私を見ていた。眼鏡を掛けた状態で───。
    「此方の世界の僕達があちらの世界を認識するのを避けてたくせに、そんなに話してもいいのかって事だ」
    「もう、正体もバレてしまいましたし、今更黙っていても変わらないかと」
     ニコリと、更に微笑みを深くさせる。最初に危惧していた通り、乱歩さんは鋭い。
    「ふぅん。正体を隠してバレなければ、それでそれで問題なかった。でも、バレた時の保険も存在していたんだな」
     乱歩さんは、口に咥えていた棒付きキャンディを外し、私の耳朶に口を寄せた。
    「お前がおしゃべりなのは、─────からか?」
     ニコリと、私は微笑みで返す。
     肯定も否定もしない。頭の良い乱歩さんになら、それで充分だろう。
    「それがお前の答え、ね。まぁ、いいや」
     途端に興味も無くしたとみえて、乱歩さんは眼鏡を外すと、再び棒付きキャンディを咥えた。



    「昼間、乱歩さんと何を話していたんだ?」
     定時を過ぎた事務所に残っているのは、仕事人間の国木田君と、一緒に帰る為に残っていた私だけだった。
     帰り支度の手を止めて、国木田君が言った。すっかり帰るつもりで、ドアまで向かっていた私は、虚をつかれる。
     そんな風に聞かれるとは思っていなかった。国木田君は立ち去った後だというのに、いつの間に見ていたのだろう。
    「別に大した話じゃないよ。あちらの世界でも、此方の世界であっても、乱歩さんは変わらずに名探偵だって事さ」
    「お前がそう言うなら、それでいいが……」
     国木田君はきっと、これ以上は追求してこない。君はそういう人だ。真実は知らなくても、本質を見誤ることはない。
    「なぁ、太宰。お前は言ってたな。ある目的の為に、マフィアのボスになったのだ、と。その目的というのを聞いてもいいか?」
     まるで、触れた途端に傷口が開いてしまうのを恐れているかのように臆病に、
     そして、傷付けたくないと優しく触れるように慎重に、
     国木田君が尋ねる。
    「他人から見たら、己の命を掛ける程のものかと、失笑に付すだろう。でも、私にとっては、この目的の為ならば、何を失っても構わない。命だろうと、命以上に価値あるものだろうと、何でも持っていけばいい」
     私は、心臓のある左胸を押さえた。失敗は何度もした。いっそ、死んだ方がマシたとさえ思える経験も、した。
     それでも、私は────
    「たった一人の親友が、小説を書くことが出来る未来を守る事。それが、私の目的だった」
     国木田君は、笑わなかった。
     帰り支度を済ませて、ドアの前までいた私の側まで歩いて来た。
    「目的を達成したという事は、その親友は小説を書くことが出来たのだな」
    「読む事は出来なかったけどね」
     スッと、国木田君の手が伸びて来て、私の頭に触れた。軽く叩くようにして、撫でられた。
    「頑張ったんだな……」
    「やめ、てよ……、そんな。泣いて、しまうじゃあないか」
     情けない程に声は震えていた。
    「ふっ……、ぅ、うあああっ」
     声を上げて、子供が泣くみたいに泣いたのは、きっと生まれて初めての事だ。
     誰かに褒めて欲しかったわけじゃない。
     ただ、織田作が生きて、小説を書いてくれれば、それだけで良かった。
     それなのに、この溢れんばかりの気持ちは、何だろう。
     国木田君は、泣き止むまでずっと、私の頭を撫で続けた。
     
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