Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    goto_510_mama

    主食は文ストの国受けです。
    推しが右なら、何でも美味しく頂けます。固定、リバ等方は、ご注意ください!!!

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 9

    goto_510_mama

    ☆quiet follow

    【包帯無駄使い装置の生誕祭記念】
    文ストのダザイ オサムの誕生日を祝う為の連載企画最終日です!

    【Who are you?】
    別れの日は、ダザイの誕生日だった。誕生日を祝う名目で、実質のお別れ会が探偵社で開かれていた

    #文スト(腐)
    literature
    #太国
    taikoku
    #包帯無駄使い装置の生誕祭

    【七日間】【七日目】

    「太宰さん。お誕生日おめでとうございます」
    「みんな、ありがとう」
     クラッカーが立て続けに鳴らされ、社内へ軽やかに響かせた。
     今日で最後だという事は、皆、うすうす気が付いていて、誕生日という名目ではあるが、実質はお別れ会が探偵社で行われていた。
    「ふわぁ」と、欠伸を噛み殺した国木田君へ、私はしたり顔で近付いた。
    「随分と眠そうだね。国木田君。昨夜は眠れなかったのかな?」
    「ぐぬっ……」言い返す事も出来ずに、国木田君が苦虫を噛む。
    「ここじゃキスしたくても、皆の目があるからね。二人っきりの時に」
     わざと冗談を言って、国木田君を真っ赤に茹でさせると、私は皆の輪に入った。
     今日までの日々は、本当に楽しいものだった。
     国木田君の食事が私を生かし、皆との穏やかな時間は傷だらけになっていた心を癒やした。
     最高のバケーションだ。これ以上ないくらいのご褒美だ。
     だからこそ、高望みをしてはならないのに。
     どうしてもと、願ってしまいたくなる。
     宴は朝から晩まで続いた。後半になればなる程に、皆は潰れて、屍のようになっていた。
    「後は、どうにかするから、お前達は帰っていいぞ」
     累々と積み上がっている屍の山を達観するように見つめて、乱歩さんが言った。
    「いいんですか?」
    「このまま、夢を見てたみたいに消える方がいいだろう?」
     記憶もそうやって、消されるのだろう───、言葉にせずとも、そんな声が聞こえてきそうだった。
    「今まで、ご苦労だったな」
     社長まで現れて、乱歩さんにするように、頭をぽんと撫でた。撫で方が国木田君に似ていると思ったのは、彼もこんな風に撫でられた事があるのかもしれない。
    「ありがとうございました」
     二人に見送られながら、私と国木田君は右目の私の自宅を目指していた。
     私が此方へ来て最初に居た場所が、そこだったからだ。
     探偵社を出てから、国木田君は無言だった。
     話かけるのも憚られて、私も釣られて無言になる。
     二人きりになったら襲われると思って、緊張でもしているのだろうか?
    「ああ。何だか、懐かしいね」
     ずっと国木田君んちに転がりこんでいたから、初日以来の訪問だ。
     上がり込んで辺りを見回しても、私が着ていた首領の衣装が転がってるだけで、何も変わってはいない。
    「日付が変わる頃には、私はもう、此方にはいない」
     無論、あちらの世界にさえ存在しない。完全な存在の消失だ。
    「だ、ざい……ッ」
     ずっと無言を貫いていた国木田君が、切羽詰まった声で私を呼んだ。
     昨日の私と立場を入れ替えたようにして、国木田君が私の手首を取り、引き寄せた。その胸に抱き止めて、唇が私の上を掠める。
    「……いく、な。太宰。いかないでくれ」
     『行くな』なのか、『逝くな』なのか。言葉の響きからは判断がつかなかった。
     日付を変えるまで数時間。君に情で訴えて、このまま抱く事だって出来るだろう。
     でも、強引に繋がって、最後に見る国木田君の姿が笑っていなかったら、私は死んでも死にきれない。
    「国木田君。笑ってよ」
     自分だって泣きそうになりながら、私は無理矢理に口角を押し上げた。
     掠めただけの唇を押し当てて、深く君を求めた。応えるように開いた口へ、舌を滑り込ませると、舌に舌を絡めた。結び、解き、また絡み、甘く痺れる応酬は続く。
    「ん、ふっ……、んぁ、……だざ、ぃ……、ん、ぁ」
    「はぁ……、ん、ん、……くに、き、だ、く……ん……」
     両手で頬を包み、時に耳を塞いで、脳内に水音を響かせてやりながら、角度を変えては何度も貪る。
     そのうち、膝が笑いだした国木田君の体を畳に押し倒して、舌をもつれさせるように、上や下へ、体を入れ替えさせながら、長く長く口付けた。
     どれくらいの時間、そうしていたのだろう。二人で、降参とばかりに仰向けに寝転がった。
     唇が熱を持っていて、二倍に腫れ上がってる気さえする。
    「ありがとう。国木田君。好きだよ。ずっと好きだった」
     天井のシミを見つめながら、私は言った。
    「俺が好きなのは、お前ではない」
    「うん……」
    「それでも、お前に居なくなって欲しくない程には、好きだ」
    「うん……」
     天井に向けていた視線を、横に向けると、国木田君もまた、こちらを見ていた。
     その顔は笑ってくれていたから、私はもう充分だと思った。
    「さよなら、は言わん」
    「うん……」
     私は徐ろに立ち上がり、寝転がる国木田君を残して、洗面所へと向かった。
     鏡には、包帯のない私が居た。
    『お別れは済んだのかい?』
    「ああ。ありがとう。お陰で、最高のバケーションだったよ」
     それは良かったと、右目の私が笑う。
    「ところで、此方での私の記憶は共有するかい?」
     記憶の引き継ぎは、別の世界線にいる私達の共通の役目だ。
     右目の私は、首を横に振った。
    『そちらでの君の記憶は、君だけのものだ。私からのささやかなプレゼントだよ』
    「ありがとう。素敵な誕生日プレゼントだ」
     右目の私が鏡に向って右手を伸ばした。私もそれに倣うように右手を伸ばす。
     鏡を挟んで、二つの手が重なると、辺りを眩い光が包み出した。
     二度目の死を迎えると言っても過言ではないのに、ビルから飛び降りた時よりも、ずっと清々しい気持ちだ。
     七日間の日々を胸に、私は完全なる消失を迎えた。



    「さようなら……、左目の私」
     眩い光の後で、自分自身の部屋に戻って居た。
     日時は、私の誕生日当日。どうやら、今日をリセットされ、やり直す所から始まるらしい。
     昨日まで左目の私が熟していた業務は、情報として刻まれているのに、誕生日当日の情報は、鏡の前で会話した部分しかなかった。
     今日の記憶だけは、私が望んだ通りに誕生日プレゼントとして渡せたようだった。
     洗面所から部屋へ行けば、当然のように国木田君の姿はなかった。
    「おっはよーう。諸君!」
     私は金のプレートの掛かった扉を開ける。実に一週間ぶりの出勤だ。
    「太宰さん。おはようございます。」
    「敦君。おはよう」
    「おはようございます。遅刻ですよ、太宰さん」
    「おはよう。谷崎君。賢治君もおはよう」
    「おはようございます!」
     男性調査員の間をクルクルと周り、女性達にも愛想を振るった。
    「おは、よう」
    「おはよ。朝から元気だねぇ、太宰」
    「おはようですわ。太宰さん」
     それから勿論、乱歩さんや社長への挨拶も忘れない。
    「乱歩さん。おはようございます」
    「おはよ。やっと、来たのか」
    「おはようございます。社長」
    「うむ。おはよう」
     そして最後に、自机にたどり着いた途端、雷が落ちた。
    「おはよう。国木田君」
    「何が『おはよう』だ。完璧に遅刻だ。馬鹿者めが!」
     国木田君の怒号が嬉しく感じてしまう。思わず、ヘラヘラと笑っていると、国木田君が目を丸くさせていた。
    「お前……、左目はもう大丈夫なのか?」
    「え? 何がだい?」
     私が小首を傾げると、国木田君はハッと我に返った。自分が一体、何を口走ったのか、本気で驚いているようだった。
    「あっ、いや……何でもない。勘違いだ」
     完全に記憶は消されてるはずだよ。
     ああ。本当に、国木田君のそういう所がさ。
    「……本当に、好きなんだよなぁ」
    「ん? 何か言ったか?」
     私は何でもないと、首を振った。
    「国木田君。今日、君に話したい事があるんだ。仕事終わったら、聞いてくれないかい?」
     臆病だった私の、大いなる決意。背中を押してくれたのは、左目に包帯を巻いていた、もう一人の私。
    「それじゃ、ウチに来るか?」
    「え? いいの?」
    「たまたま、お前の好物のカニが安く手に入ったから、カニ鍋にしようと思ってた所だ。一人で食うには持て余していて……」
     冷静そうに言ってはいても、落ち着かない様子なのがわかる。
     私はつい、吹き出した。
    「たまたまって、今日が私の誕生日だからじゃないの? 国木田君ってば、私が好きなんじゃないか」
    「なっ……! た、たまたまだと言ってるだろ!」
     言い訳も虚しい程に、国木田君の顔は真っ赤だった。


     世界は、幾つもの可能性を秘めている。
     打ち捨てられたはずの二者択一の、もうひとつの世界。
     選ばれなかった、もしもの世界にも続きが存在していたら?

     どちらが正解だなんて誰も知らない。
     ただ、私はここで生きていく。

     この世界での役目を果たす、その時までは───。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖👏😭🙏❤❤💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works