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    goto_510_mama

    主食は文ストの国受けです。
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    【包帯無駄使い装置の生誕祭記念】
    文ストのダザイ オサムの誕生日を祝う為の連載企画6日目です!

    【Who are you?】
    クニキダへの恋心を改めて意識したダザイは……

    #文スト(腐)
    literature
    #太国
    taikoku
    #包帯無駄使い装置の生誕祭

    【六日目】【六日目】

    「ふわぁ〜」
    「随分と大きな欠伸だな。寝てないのか?」
     トーストを受け取りながら、曖昧に頷く。
     今日のメニューはチーズオムレツとベーコン、キュウリとトマトのサラダ。ポタージュスープは、粉末をお湯に注ぐタイプだ。
     右目の私に遠慮して、自制を保てていたけれど、君からの牽制が逆に私を意識させた。
     それで普通に国木田君の隣りで寝てなんていられなくなって、この有り様というわけだ。

    ───バケーションに、ワンナイトラブなんて付き物なんじゃない?

     冗談半分に言った台詞が、自分を追い詰める事になろうとはね。

    「元々、夜型だからって、昼間働いておきながら、夜寝ないというのは体が持たんぞ。でも、……」
     国木田君の手が伸びて、私の蓬髪を長い指先が掻き上げた。
    「来た時よりは、顔色はよくなってるな」
     皮膚が包帯のない額に触れて、覗き込む顔には眉間の皺もなくて、ただそれだけの事で、突き上げてくる衝動に狼狽える。
    「実は夜中に、あちらの世界へ入れ替わった右目の私と話が出来てね」
     衝動を追い払うかのように、私は話を逸した。
    「なに? 連絡を取り合えるのか?」
    「取り合うのとは少し違うのかもしれない。まぁ、仕組みはともかくとして、右目の私が言っていたよ。『向こうの件は片付いた』ってね」
    「それじゃ、お前は……」
     国木田君の瞳に、困惑が走る。
     私が思ったのと同様に、国木田君もまた、私が今日にでも消え去ると思ったのだろう。
    「残務処理もあるから、あと二日はこのままって事になったよ」
    「そう、なのか……」
     困惑が安堵に変わった事に、私は嬉しさを隠しきれなかった。
     私の存在が消えてしまう事を、惜しむ気持ちが国木田君にはあったのだ。
    「お前と入れ替わった太宰が、元の、この世界に来たとして、そうしたら、お前はどうなるんだ?」
    「そんなわかりきってるだろう? 私は、元々死んだ人間なのだから。今度こそ、消えるだけだよ」
     バン───。八つ当たり宜しく、国木田君の掌がテーブルを叩く。
    「どうにも、ならないのか?」
    「私が二人居たら、国木田君の胃痛も二倍になっちゃうよ」
     冗談めかして笑うが、国木田君は笑ってくれなかった。
    「今更、お前が一人増えようが、二人になろうが構わん」
    「そんなの、右目の私に恨まれるよ」
     目の前の人間を死なせたくない、という理想は、こんな私にでも思って貰えるのだね。
    「ありがとう。国木田君。その気持ちだけで充分だよ。……さっ、食べよう」
     すっかり冷めてしまっていたけれど、国木田君の作ったチーズオムレツは美味しかった。


     午前中のうちに、幾つかの案件を片付けて、その報告書作成と昼食を兼ねて、私と国木田君は事務所に一度戻って来た。
     先に昼食を食べてしまったのが、良くなかった。睡眠不足と相まって、満腹感も上乗せされると、私は睡魔に誘われていたのだ。
     それから、どれ程の時間が経っていたのだろうか。頭を撫でる掌の感触で、意識が浮上して来ていた。
     指先の長い大きな掌。この感触を、覚えている。
    「本当に、お前は消えるしかないのか?」
     ああ。やっぱり、頭を撫でているのは国木田君だ。
     優しくて、愛おしそうに、慈しみに溢れていて、───私は溜まらなくなる。
     死ぬのを惜しんだ事はないが、この時ほど死にたくないと思った。
    「国木田君……」
     右手首を掴み、衝動に突き動かされるまま、その身を抱き寄せていた。
     寝ていると思っていたのだろう国木田君の顔は、驚愕に目を見開いている。
     その瞳に左目に包帯を巻いた自分を見た。その映像が、更に迫っていき、吐息が頬を撫でる。
     唇に触れるか、という間際で、柔らかな手の平の感触がした。
    「ふににはふん?」
     口を塞がれて、間抜けな声が出た。
    「だ、ダメだろ……、こんな、のは……。お前は、俺の知る太宰じゃ、ない」
     驚いていた顔は既に、真っ赤に塗られていた。怒りよりも、戸惑いと、見え隠れする感情。
     塞いでいた手を払い除けた。
    「君の知る右目の私ではないから? じゃあ、私がもしも、右目の私本人なら、キスさせてくれたの?」
    「それは……、」
     見え隠れしていた感情が、ふいに顔を覗かせて、目が合ってしまった。
     何だ、そうだったのか───。

     他の皆が、右目の私と左目の私を殆ど一緒くたにさせていた中で、国木田君だけは、ハッキリと区別をつけていた。
     最初から私を、似て非なる別の世界線の太宰 治だと認識し、それでも尚、平等に扱ってくれていた。
     どうして、そんな事が出来るのだろうと思っていたけれど、答えはシンプルだったんだ。

    「国木田君は、私が好きなんだね。正確に言えば此方の世界にいた『右目の太宰』である私を」
     だからこそ、自分の好きな人と似て非なる私を区別する事が出来、混同させる事なく、違う人間として扱えたのだ。
     国木田君は誤魔化す事も言い訳する事も出来ず、恋する乙女のような顔付きで、顔を赤くさせるばかりだった。
    「……その通りだ。だから、お前とはキスは出来ない」
     意を決して、国木田君は白状した。
    「私はいずれ消え去る身だよ。そして、私が消えると同時に、皆からの記憶からも消える」
    「なっ……!」
    「乱歩さんには、もう見抜かれていたよ」

    ───お前がおしゃべりなのは、僕達の記憶が消されるからか?

     あの時、そうハッキリと耳打ちされた。
     国木田君が気付かないままなら、こんな処置はされなかったのか。気付いたからこそ、こんな風に書き換えられたのか。神様の気まぐれは判断つかないけれど。
    「だから、国木田君。どうせ忘れてしまうんだから、消えぬゆく私に最後の思い出をくれないかい?」
     こんな懇願するだなんて、これじゃ私の方が乙女のようじゃないか。
    「でも、お前は……、彼奴だって、覚えているだろう?」
    「それじゃ浮気になっちゃうって?」
     国木田君の首が縦に動く。何とも真面目な君らしい。
    「でも、許されると思わない?」
     ジリリと迫ると、国木田君は気圧されているようだった。
     押しに弱くて、絆されやすい君だから、折れてくれるんじゃないかと、淡い期待を抱く。
    「ねぇ……、国木田君」
     再び、その唇に迫った時だった。

    「お疲れ様です。今、戻りました」
    「お疲れ……様……」

     敦君と鏡花ちゃんが出先から帰って来た。
    「うあああっ」
     焦った国木田君が取った行動は、実に国木田君らしかった。私の腕を取って投げ飛ばしたのだ。
     二人のキョトンとした顔を眼下に眺めた後で、私の背中は無情にも床に打ち付けられる。
    「いっ、たあぁっ!」
     打ち上げられた魚か、と思わんばかりに、私は床の上でのたうち回った。こんな事を実体験するなんて夢にも思わなかった。
     罪悪感を匂わせた顔を私に向けつつ、国木田君は振り払うように資料室へと逃げ込んでしまった。
    「もう、太宰さん。国木田さんに何やったんですか?」
    「あはは。ちょっと、ね」
     右目の私では見慣れた風景のせいか、さほど気にも止めずに立ち去ってくれたのは有り難かった。
     国木田君は助け船とばかりに立ち去ってしまったけれど、結局のところ───。

    「帰って来る場所は同じなんだよね」
    「……おかえり」
     僅かな緊張を滲ませて、国木田君が答えた。
     少しばかり遅く帰宅してみた食卓には、しっかり二人分の夕飯が用意されていた。
     メインの鶏肉の照り焼き、茄子の味噌炒め、小鉢には小松菜のお浸しがあった。
    「ただいま。美味しそうだね」
     手を洗って食卓に付くと、国木田君はまだ緊張をしているみたいだった。
     意識されてる事は、少し嬉しくもありながら、さすがに緊張続きなのは気の毒だ。
    「国木田君。寝込みを襲ったりしないから、そう緊張しないでよ」
    「緊張など……」
     ブツブツ言いながら、国木田君はご飯をよそってくれた。
    「でも、あと一日あるからね。諦めたわけじゃないよ」
     そう付け加えたら、国木田君はうっかりとご飯茶碗を落としそうになっていた。
     せめて私の誕生日になるまで、私の事を考えていればいい───、そう思いながら、私は白米を頬張った。
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