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    goto_510_mama

    主食は文ストの国受けです。
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    【包帯無駄使い装置の生誕祭記念】
    文ストのダザイ オサムの誕生日を祝う為の連載企画5日目です!

    【Who are you?】
    マフィアのダザイと入れ替わった探偵社のダザイは、暴れ狂う中也を前にしていた。
    ※※注意※※公式では公開されていない勝手なビースト設定が出て来ます。

    【5日目】【五日目】

     ヨコハマの街は壊滅状態であった。
    「全く、酷い有り様だ」
     美しい街並みが広がっていたはずの記憶の風景は、もはや目の前にはなかった。
     恐竜が踏み荒らしたか、さもなくば、一方的な蹂躙の戦争でも起こったか。
     街はそんな風にして、あらゆる建造物を破壊し、草木を薙ぎ倒し、生き物を瓦礫の上に沈黙させた。
    「異能艦隊三つ潰しても、まだ暴れ足りないなんてね。『私のいなくなった世界』で、荒覇吐を解放すればどうなるか、わからないはずないというのに」
     それだけ、中也は自暴自棄に陥っている、という事だ。
     命がけで守ってきたはずの街を今、自分自身で無に帰そうとしているのだから。
     探偵社は疎か、ポートマフィアも異能特務課も、異能すら持たぬ市民も関係ない。暴れ狂う巨大な脅威の前に、震え上がるしかなかった。
     過ぎた畏怖は、もはや神同然だ。
    「こんな風に追い詰めてしまったのも、『此方の私』の責任ではあるよね。余りにも、私に執着させ過ぎてしまった」
     だからこそ、別の世界線とはいえ、自分の役目を理解し、最前までやって来た。

     一日目で、状況の把握と情報収集。
     二日目に、ポートマフィア本部への侵入準備。
     三日目は、中也が荒覇吐の状態を確認。接近を試みるが失敗。
     四日目も、中也への接近を再挑戦。
     五日目の今日、やっとここまで漕ぎ着けた。

     その巨大な脅威であり、過ぎた畏怖でもある荒覇吐───中也は、焼け野原になったヨコハマの街を無感情に眺めていた。
     全て無くなってしまえ、と中也は思った。
     それでいいと思った。何故なら、この街にはもう、彼奴はいないのだから────。

    「もう休め、中也」

     誰かが、中也の頭に触れた。
     それは幼子の頭を撫でるかのような、慈愛に満ちた仕草だった。
     異能が解除されている。これは、まさしく───異能力『人間失格』
     こんな事が、出来る人間はたった一人しか知らない。でも、それが出来る彼奴はもう……。
    「うっ、あぐ、ぁ……」
     自我が舞い戻って来たと同時に、全身の骨が砕かれ、臓腑が張り裂けてくような痛みが、中也を襲う。
     中也は身体をくの字に折り曲げ、膝をついて呻いた。
     痛みのせいで、舞い戻った意識が、別の意味でとびそうだ。
    「だ、れ……、だ?」
     薄れ行く意識の中で、中也はその姿を必死に捉えようとした。
     唇に指を当て、ナイショだとでも言うように、かの人物は微笑む。
    「まさか、お前……は……、だざ、……」
     そこで中也の意識は、完全に途切れた。


     眠る中也を横たえて、事前に入手しておいた敦君の番号へ掛ける。
    『もしもし?』探るような声がする。
     酷く懐かしく感じてしまうのは、此処へ来てから誰とも接触しないようにしていた為かもしれない。
    「荒覇吐を解除した。もう安心だから、中也を迎えに来て欲しい。場所は……」
    『ちょっと待って下さい。解除って、あれは太宰さんにしか出来ないはずですよ』
     動揺は感じるが、冷静であろうとする緊張した固い声音だった。敦君から明るさを削ぎ落とすと、こうなるのかと、ふと思ってしまう。
    「だから、私がやったんじゃないか。後は頼んだよ、敦君」
    『え? まさか、貴方は、だざ……』
     最後に、ほんの少し彼らしさを感じて、私は電話を切った。
     このスマホはもう用無しだ。中也の側に電源を切って捨てた。
     残務処理と、その後の様子を見たいから、もう一日くらいは此方に居たい所だけど───。
    「あっちの私は、どうしているやら」

     死んだ後の世界など、死んでみないとわからない。
     終了したはずの人生にオマケが付いていたら、それは全てバケーションみたいなものだろう。
    「私が戻るまで、せいぜい楽しんでくれ給えよ」
     これはきっと、頑張った君への神様からのご褒美だ。
     神様を信じない私が、そう思うのだから間違いない。
    「さて、と。敦君に見つかる前に退散しなくてはね」
     瓦礫の上に横たわる中也を一瞥して、私はふらりと歩き出した。



    「どうした? 太宰」
     国木田君が私を呼んでいる。
     応えなくてはと思う反面、動く事が出来なかった。
     いつもなら、記憶とはまるで質の違う情報が、実体験したかのように、脳に刻まれていくのだが、それとは違うものが流れてくる。
     包み込むような慈愛に満ちた温もりが、胸いっぱいに広がっている。
    「そうか……。解決、したのだね」
     情報としてではなく、こんな風な形であっても、私は確信していた。
     けれども、それは愛するべきヨコハマの地が守られた事を意味すると同時に、私のバケーションの終わりが近い事も意味していた。
    「大丈夫。何でもないよ」
     心配そうにしている国木田君に、やっとの事で応えた。
     その日の夜の事だった。
     国木田君が予定通りの就寝を迎えた頃、私は導かれるように洗面所の鏡の前に立っていた。
     暗闇に浮かぶ鏡には、私自身を映し出している。
    『やぁ。こんばんは』
     私は口を開いていないというのに、鏡の私が話出したのだ。
    「……はじめまして、かな。『右目の太宰』サン」
     親兄弟よりも濃い繋がりを感じながら、こうして真正面から出会う事はなく、ましてや語り合う事はないだろう自分自身に、私は最初で最後の挨拶をした。
    『「右目の太宰」? 何だい、それは?』
     さすがの右目の私も、怪訝な顔をした。
     そこで、私は初日に起きた探偵社での出来事から話して聞かせた。
    『国木田君がねぇ。それは、驚いた。君も、その左目の包帯はやり過ぎたんじゃないのかい?』
    「私自身だから、わかっているだろう? これくらいの事でわかるはずないと思っていたのさ」
    『そして、包帯はしてなくとも、国木田君は気付くって事も?』
     少し意地の悪い笑い方で、右目の私が言う。
    「それで、中也の事は片付いたから、バケーションは終わりだとでも言いたいのかい」
    『確かに中也の件は片付きはしたけど、残務処理をしときたいからね。あと一日は最低でも欲しい』 「あと、一日……」
    『でも、安心したまえ。あと二日。君にはバケーションがある』
    「何故、そう確信が持てる? ここへ来たのも君の意思なわけじゃないだろう?」
    『そうさ。私の意思ではない。でもね、自信はあるよ。二日後は私の誕生日がある。終了したはずの人生にオマケをくれた神様だ。それくらいのサービスはあるんじゃない?』
     神様なんて一番信じてなさそうな私自身の口から、そんな言葉が飛び出してくるもんだから。私は吹き出してしまうかと思った。
     だが、実際の私は吹き出すどころか、妙に確信を得てしまっていた。
     このバケーションは、私へのご褒美であり、誕生日プレゼントなのではないか、と。
    『ところで、君さぁ。さっきから気になってたんだけど、その背後の見慣れた風景。まさかと思うけど、そこって国木田君の家かい?』
     もしかして、ずっと聞きたくてウズウズしていたのかと思うと、私は今度こそ吹き出した。
    「確かに、ここは国木田君んち、さ。此方の世界へ来てから、ずっと泊めて貰ってるし、何ならご飯も食べさせて貰っているよ」
     ふふん、と自慢気に語らうと、右目の私は悔しそうに顔を歪めた。
    『私だって、毎日はないって言うのに……。まさか、寝込みを襲ってはいないだろうね?』
    「そうだなぁ。残り二日しかないのなら、思い切って襲ってみるのもアリだよね。何せ、嫌われたってどう思われたって、二日で消えてしまうんだから」
     更に、右目の私の表情は苦悶に満ちていく。
     国木田君が私に対して、こんなにも無防備で無警戒なのは、性格が天然な部分もあるが、襲われるという自覚がないからだ。
     つまり、それは───
    「伝えるつもりはないの? 国木田君に好きだって」
    『私は良くも悪くも、君とは逆の立場だからね。ずっと一緒に居たいから、告白して関係が駄目になるのが怖いんだ』
     出会いさえ諦めた私と、何処か似ている。大胆なようでいて、私達はとても臆病だ。
    『だから、私がそちらへ戻るまで、くれぐれも襲ったりしないでくれ給えよ! いいね?』
     そうやって、念押しされると、逆に襲ってしまいたくなるよね。
    「バケーションに、ワンナイトラブなんて付き物なんじゃない?」
    『なっ!』と、右目の私が叫んだ所で、鏡は元のように沈黙してしまった。
     神様というのは、どうも意地が悪いらしい。
    「せいぜい、そちらでヤキモキしているといいよ」
     沈黙した鏡に向かって呟くと、私は国木田君が眠る布団の隣へと戻っていった。

     
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