言霊が帰す水泡(前編) Mermaid bubbles(マーメイドバブルス)——夢野幻太郎を襲った違法マイクは、そんな小洒落た俗称を獲得しているらしい。
それを彼に伝えることすら、今はこの世の誰にも、できないのだけれど。
ガラス戸を開け放した縁側に、一人の男が腰を下ろしている。ヨコハマのコンテナヤードでひと騒動あってから、少し経った頃だった。
その身を包んでいるのは、一目で誰かわかるあの書生服ではない。地味な着流しを着たその背中を、帝統は居間の戸口からじっと見つめていた。
吹き抜けていく風のように心地いい声が、思いつくままに物語の切れ端を語っていく。それは地続きの物語であったり、まったく別の物語であったりと、実に様々だった。
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