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    raindrops_scent

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    書けないので供養~~~~~
    自分の癖に素直に生きた結果(始めたばっかりのころ(ウン年前に書いた))

    7つの大罪パロ(本文)(書けるとこだけ)それが僕らの罪だとしても

    降りしきる雨は、先を急ぐ三人の目の前をいとも簡単にふさいだ。横殴りの激しい雨は、外套でも防ぎきることは難しく、色々なところがびしょ濡れになってしまっていた。
    さすがにこのまま雨に濡れて進んでは風邪をひくだろうと、どこか雨宿りする場所を探そうということでまとまった。しかしそのあとも進み続けて人家を探してかれこれ3時間ほど。家どころか人の住む住居すら見当たらない。
    もはやこの森を抜けた方が早いのではないのかとすら話し始めていたころに、それはあった。

    鬱蒼と生い茂る木々や草花の隙間から見えたのは、普通の外観の一軒家だった。こんな奥まった森の中に普通の家があるという、何とも不思議な光景だ。
    「ねぇ、あれ」
    唐突に声を上げたのは、三人の中で一番身長の低いものだった。ローブを羽織っているために骨格などははっきりわからず、また、その痩躯から出された高い声は男とも女とも判断がつかない。
    「あ、テンにも見えた? よかったぁ~。あんまりにもこの辺何もないから、俺の頭が勝手に作り出した幻覚かと思った」
    穏やかな声で返したのは、三人の中で一番身長のあるがっしりとした体つきで、声からも体格からも男性であると判断できる者だった。
    「もしかしたらその可能性もあるかもしれねぇぞ? モウ草の生育地とかな」
    意地悪く返したのは、三人の中では中間くらいの背の高さだが、声からも佇まいからも気品が感じられ、こちらもまた男性ということが伝わってきた。
    「二人ともいい加減にして。どちらにせよあるかどうかは近づいてみればいいでしょ。それに、このまま濡れ続ける可能性を少しでも減らしたい」
    そう口にすると、背の高い二人は言葉少なに応、と答え、静かに馬を走らせる。見えていた家は、三人の想像より些か大きなものだったらしい。遠くから見ていたからか思いのほか早く目当ての家まで着くことが出来た。雨のせいか、距離間隔がどうにも取り辛い。
    近づいてみれば、それが幻想や幻覚の類などではないことはしっかりと認識できた。近づけば近づくほどそれは普通の家だった。
    こんな森深くに存在していることを除けば。
    「すみません! どなたかいらっしゃらないですか!」
    そう声をかけて、何度か玄関の扉をノックする。雨の音が激しく、家人が存在している上で無言を貫いているのか、人がいても聞こえていないのか、そもそも人がいないのかもわからない。何度か声をかけていると、しばらくして中から足音が聞こえてきた。
    「はーい。どちら様ですか?」
    ギギ、とやや金属の鈍った音をたてながら開かれた扉の中から出てきたのは、杏色のぱっつん前髪の男の子だった。大きな瞳を見開いているのは、自分たちがずぶ濡れだからだろう。
    「突然すまない。俺たちはオカザキプロからヤオトメプロに帰る途中だったのだが、近道をするためにこの森に入ってから、3時間出られなくなってしまったんだ」
    「それで、できることならば雨宿りをさせてほしいんだけど、ダメかな……?」
    「Oh……、それは災難デシタネ。こんな家でよければどうぞ」
    突然降ってわいたかのように現れたのが、金髪青眼の花も盛りの少女たちが読んでいるような本に出てきそうな異国の王子のような風格を持った男性だった。
    「うぉ!? お前なぁ! いきなり出てくんなっつの!! はぁ……。とりあえず、入れよあんまり綺麗な家じゃねぇし、大したもてなしもできないけど」
    こちらが困ったように話していたこともあるが、少年は大変だったな、といい笑顔でこちらをねぎらう。しかし、突然訪ねた自分たちが言うことではないが、警戒心が薄すぎやしないだろうか。こちらは外套を被っていてよく誰が誰かわからないはずなのに、そんな人間を誰の許可も取らずこんな子どもが許可を出していいのだろうか。入れてもらっておいて言うべきではないとは思うが、家の中に大人がいた場合は警戒心という物を教えるべきだ、と進言することにした。
    「ありがとう!! 助かるよ!!」
    「悪いな」
    「ありがとう。ごめんね、タオル借りてもいい? 外套越しでもびしょ濡れになっちゃって」
    三人それぞれがそれぞれ言いたいことを抑えながら感謝の言葉を返していく。
    「お~ちょっと待ってろ。今持ってくるから」
    「お~い? 誰だったんだ?」
    杏色の少年は何枚持ってくるかな、と小さく続けた。そのとき、家の奥からだろう、声がする。今まで聞こえてきた声は男の物しかない。どんな家族なのか、ということが三人の頭をよぎるが、家庭の事情は詮索するべきではない、と緩く首を横に振ると深く考えるのをやめた。
    「旅の人! 部屋に案内してくるから、誰か風呂用意しといてやって! びしょびしょだから!」
    「ワタ~シが行ってきます。お客人たち、ぜひゆっくりして行ってください」
    そういって、ついてきていたその顔の整った青年は、バチンと音がしそうなほどきれいなウィンクを決めると家の奥へと入って行ってしまった。
    「部屋はここでいいか? 隣に今臥せっている人間がいるから、あんまり騒がないようにしてやってくれるとうれしい。うつることはないようにするつもりだけど」
    申し訳なさそうな表情ですまないというが、あのまま濡れ続ける可能性があったことを考えれば、雨風がしのげて、尚且つ濡れた服を着替えることができるゆとりをもらえただけ三人はありがたかった。
    「いいや。屋根があって、雨風がしのげるだけでありがたい」
    「タオル持ってきました。どうぞ……っ!?」
    タオルを持ってきたと部屋の中にふわふわのタオルを持ってきたのは、淡い紫色の髪の優し気な面差しの青年だった。自分たちの顔を見て驚いているのを見て、あぁ、ばれたのか、と思った。
    「とりあえず、風呂に入って一息ついたらリビングに来てもらえるか? 簡単に自己紹介とかしたいからさ」
    「何から何まで本当にありがとう。今は手持ちがあんまりないんだけど、今度この辺りを通った時にはちゃんと持ってくるから」
    客人の1人がそういうと、少年は一瞬ぽかんとした顔をしたのち、一気に破顔してこう言った。
    「言ったろ? 困ったときはお互い様だって。どうせ急な雨に降られて近道しようとして、抜けようと思ったこの森から抜けられなくなったってとこだろ? 自然には勝てねぇし、そんなことで一々金とるほどうちは困窮してねぇよ。まぁ、その心遣いは嬉しいけどなっ!」
    最後ににかりと笑みを浮かべ言い切ったこの少年に三人は自然と心がほぐれていくのを感じた。背丈はあまり高くないし、顔もどちらかと言えば幼げなこの子どもだが、見かけにそぐわず、とても男気のある言葉に三人はほっこりした。
    「ゆっくり温まってきてください。少し熱めにしてあるので、熱かったら水を足してください。着替えは僭越ながら大体似た体格の人のものを、と思ったのですが、さすがに一番大きい者でも……」
    そう言って、優しげな青年は申し訳なさげに一番身長の高い茶色頭の客人の方を見る。
    「いやいや!! 二人の分だけでも着替えを用意してもらえてありがたいよ!! 俺の分はこっちで何とかするから気にしないで。いろいろと準備、ありがとう」
    「それじゃ、ゆっくりして来いよ! しっかりとあったまって来いよな」
    そういうと、二人ともふわりとした柔らかな笑みを浮かべた。
    しばらく二人に言われたように三人とも風呂に入り湯を浴び、温まると着替えや身支度を済ませて言われた通りリビングに足を踏み入れた。
    見渡す限り、どうにも年若い男性しか確認することができない。ひとまず、先ほどから案内などを請け負ってくれていた彼を探すと、リビングの入り口にほど近い椅子に腰かけていた。
    「お風呂、ありがとう」
    「お~よかったよ。服もぴったりだな」
    ほっとしたような顔でそういうから、こちらもまじまじと服をみる。
    「うん。びっくりするくらいぴったり」
    そう返事をすると、杏頭の少年は軽く笑ってキッチンであろう場所へ向かう。何やら作っていたようだ。
    「これ、ホットミルク。あったまるぜ」
    差し出された三つのカップからは湯気が出ていて、仄かに香る甘い匂いは花蜜だろうか。こんなに優しい彼が変なものを混入させるとは露ほども思ってはいないが、職業柄一度は毒見をするべきかと思って軽くカップをゆする。ふわりと広がる甘いミルクの香りに、少し顔が緩んでしまう。
    一口口に含むと、柔らかなミルクの香りとともに花蜜の特有の甘さが口内に満ちる。温かなミルクは、お風呂でも溶かしきれなかった三人の心をほろほろと溶かしてゆく。
    「温かい……」
    「おいしいね」
    「そりゃあんだけ寒いところにいたらな。あったまったか?」
    「うん。どうもありがとう」
    心からお礼を返すと、杏色頭の彼は嬉しそうに顔をほころばせた。
    座ってと言われた場所に三人で腰をつけると、リビングの全容が見えた。その場にいたのは自分たちを除いて7人。ずいぶんと大所帯だ。しかし、見る限り女性の姿は確認できないし、全員顔のつくりが違って見えることから、血縁関係でもないだろう。どんな関係なのか、パッと見ただけでは一切わからない。
    「改めて礼を言わせてほしい。助かった」
    三人の中から代表するように灰色頭の青年お礼を言うと、案内をしてくれた一人の薄紫が慌てたように返事をする。
    「そんな。僕たちは当たり前のことをしただけなんで」
    「見ず知らずのはずのボクたちを家に招き入れてくれるのは少なくとも当たり前ではないと思うけれど。ボクの名前は、テン。テン・クジョウ。皆さんの向かって左にいるのが、」
    「ガクだ。ガク・ヤオトメ。よろしく」
    「右にいるのが、」
    「リュウノスケ。リュウノスケ・ツナシ。リュウって呼んでほしいな」
    先手必勝とばかりに自己紹介をしても、自分たちの正体に気づいたように反応する人がいない。うす紫頭の彼も、もしかしたら三人の顔を見て驚いただけなのかもしれない。
    すると、黙って聞いていた杏色の少年が確認を取るようにこちらを見る。
    「そういえば、ヤオトメプロに帰る途中って言ってたよな? なんでこの森通ったんだ? 近道って言っても、さすがに……」
    「? 近道にはここが一番だろう?」
    さも当然と言わんばかりのガクの言葉に、二の句が継げないのはこの森の性質を正しく理解している七人だけだった。
    「“入ずの森”、聞いたことありませんか。この森がそうなんです。オカザキプロから出るとき誰かから忠告を受けませんでしたか?」
    そう発言をしたのは、頬をほんのり赤くした黒に近い紺色の髪をした青年だった。よくよく見てみれば、目はうるんでいるし、息も上がっている。体調が悪い人がいる、と言っていたのはきっと彼のことだろう。何とはなしに三人とも彼のことを見ていたからか、彼は少し眉を寄せて三人の方を訝し気に見返してくる。

    “入ずの森”それはいくら幼い子供でも知っている有名な森だ。決していい意味ではないのは今までの話の流れ上汲んでもらえるだろう。

    「申し遅れました。私は、イオリ。今体調を崩しているので、あまり近づくことはお勧めしません。そこの深緑の頭の人間が一応私たちの責任者です。私は顔を見せに部屋から出て来ただけですので、これで下がります。何かありましたら、そこの緑に申し付けてください。では」
    それだけ言うと、イオリ、といった黒い頭の少年はふらふらしながら部屋から出ていった。慌てたようにイオリといった彼の後をついていったのは杏色の彼だ。しばらく全員が黙って閉まった扉の方を眺めていたが、どこかで扉の閉まる音がして、彼がこの部屋に帰ってくると、自己紹介を再開した。
    「わざわざ止めててくれたのか? 悪いな。今イオリのことは寝かせてきたから安心してくれ」
    にっと笑うと、無関心な風を装っていたと思われる他の四人はほっとしたように息を吐いている。いち早く通常を装ったのは、先ほどイオリから紹介された緑頭の青年だった。三白眼のせいか、どこか悪人のような顔をしているように見える。しかし、責任者だというのならばおそらくそれ相応の信頼を得ているのだろう。
    「悪いな。あいつ、愛想悪くて。体調悪いからそこまで頭回ってないみたいでな。ほんで、さっき緑みどり連呼されてた俺の名前はヤマト。まぁ適当によろしく。ほんでそこのちっこいのが、」
    「ちっこいって言うなおっさん!! 俺はミツキ・イズミ。イオリの兄貴だ。よろしくな。あ、先に言っとくけど、俺は成人してるからな? イオリは未成年だけど」
    にっこりと意味深に笑うミツキは、どうやら三人がミツキのことを子どもだと思っていたのがばれていたらしい。申し訳ないと思いつつも、じゃれ合っているかのような彼らの自己紹介の続きを聞く。
    「しょうがねーよ、ミッキー。俺も最初は、ミッキーん事、俺より年下だと思ってたもん。あ、おれ、タマキ・ヨツバ。ガックンの服は俺んだよ」
    けだるげにソファーの上で三角座りをして、足の間に何かのぬいぐるみを抱えているのは、水色の髪をした体格の良い青年だった。
    「タマキ君! まったく君は! 年上の人には敬意を表すようにと何度言ったら!!」
    そう言って、タマキと自己紹介した青年をたしなめているのは先ほど自分たちをお風呂まで案内してくれたうちの一人だった。
    「おーい、ソウゴ。タマキの小言はあとあと。お前さんの名前、向こうさんは知らないまんまなんだから」
    ヤマトと言った男にたしなめられ、薄紫の男は慌てて姿勢を正す。
    「はっっっ!! すいません!! お客さんの前なのに本当に申し訳……!!」
    「だからそーちゃん、名前」
    「あ、僕の名前はソウゴです。ソウゴ・オウサカ。お好きなように呼んでもらって構いません」
    ヤマト、タマキと二人の催促を受けてようやく聞けた彼の名前に、三人は苦笑いを返す。残る二人は、と顔を向けると、出迎えてくれたうちのもう一人である、金髪青眼の整った顔の彼が口を開いた。
    「ハーイ。私の名前はナギでーす。ナギ・ロクヤ。以降お見知りおきを」
    最後にどこか挙動不審気味に声を上げたのは赤い髪が天と対照的になっている少年だった。
    「俺は、リク、です。リク、ナナセ。よろしくお願いします」
    いうだけ言うと、さっと顔を伏せてしまった。恥ずかしがり屋なのだろうか、と思ったリュウとガクだが、テンがその時どんな顔をしていたのかは見ていなかった。
    「何にもないところだからあんまりもてなしはできないけど、歓迎しますよ、お客人。雨が上がるまで、うちでゆっくりしていきなさいな」
    最後のヤマトの言葉を皮切りにそれまで緊張しっぱなしだった空気はやっと弛緩した。

    それからはそれぞれがそれぞれの時間を過ごした。彼らはこちらが何かをしない限り基本的に干渉してこず、こちらもまた干渉しなかった。ただただ穏やかな時間が過ぎていたのだけれども。いきなりバタバタとミツキとソウゴが部屋から出ていくものだから驚いた顔をして二人を見送る。
    「ねえ、どうかしたの?」
    「あ、あ~。イチがな。ちょっと。体調悪いって言ってたろ? それであの二人が面倒を見てるんだ。あんまり人に弱みを見せたがらない子だから」
    「それなら——————」



    がちゃ、と開けた扉からはむわりとした病人独特の空気が漂ってくる。
    「イオリ、大丈夫か?」
    ミツキがイオリ様子をうかがうように顔を覗き込めば、はふはふと熱い息をしながらうるんだ瞳でミツキを見つめる。
    「にいさ、ふ、はぁ」
    はぁはぁと苦しそうに肩で息をしているイオリは、先ほど天たちの前に姿を表した時よりだいぶ熱が上がってしまっているようで辛そうだ。
    「イオリ君、大丈夫かい? まだ熱、高そうだね……。これ、飲めそうかな?」
    酷い汗をかいているイオリの唇は少しかさついていて、水分が足りていないのが一目でわかる状態であった。このままでは脱水してしまうから、と水分補給をさせるためにソウゴとミツキの二人がかりでイオリの半身を起こさせる。揺れる上体を支えるミツキは、触れるイオリの熱さに顔を顰めていた。
    ソウゴはそっとイオリにグラスを差し出したが、熱のせいで何かをつかむ力もあまりないのか、ソウゴにグラスを支えてもらいながら、飲みやすいようにと刺されたストローでゆっくりと喉を上下させていた。
    ある程度のみ終わると、ストローから口を離してソウゴに礼を言う。
    水分補給ができたからか、先ほどよりもしっかりとした様子ではあるものの、やはり熱のせいかやや覇気がない。
    「オウサカ、さん。ありがとうございます。っはぁ、すみません。仕事、最後までできなくて。明後日くらいになれば、回復できると思うんですけど、っふ、」
    ほんの少しの言葉を紡ぎながらも、熱のせいで上がってしまった息が言葉のつながりを断つ。潤んだ瞳が熱の高さを物語っているようだ。
    「無理しないで、イオリ君。いつも君には助けてもらっているからね。昨日だって一人で町まで行ってきたんだろう? 疲れて当たり前だよ。こういう時にしか君は休んでくれないしね」
    ソウゴは微笑んでそういいながら、汗で湿って張り付いたイオリの前髪をはらう。カンカンに熱くなっている額はそれだけでイオリの大変さを物語っていた。
     しばらく熱の高さに喘いで苦しんでいたイオリだったが、しばらくすると穏やかとは言えないながらも寝息を立て始めた。どちらからともなく視線を交わしたミツキとソウゴは、ほっと息を吐いた。
     不意に、扉をノックする音が静かな室内に響き渡る。この家にこんな丁寧なノックをする人間がいただろうか、と首を傾げながらも返事をするミツキは、三人が家にいることをすっかり忘れてしまっていた。
    「ちょっと失礼するよ」
    「ク、ク、クジョウさん!? どうしたんですか!?」
    入ってきたのは、テンだった。手には何やら鞄を持っているようで、平然とイオリのベッドの横まで来ると、そのまま床に座り込んだ。しかし、一目見ただけで顔を顰めたテンは、思ってたよりもひどいね、と一言静かに漏らした。
    「おいソウゴ、声がでかい。どうしたんだ、クジョウ」
    寝苦しそうなイオリを気遣ってか、ミツキの声がほんの少し冷たい。
    「泊めてもらってご飯までもらうんだ。さすがにただ飯食らいはいくら何でも君たちにおんぶにだっこすぎるからね。おかえし」
     テンはそういうと二人ににこりと微笑みかけた。
    「お返しって……」
    「ソウゴ。君なら僕の言いたいこと、わかるでしょう?」
    流し目でソウゴの方を見るテンは説明しろ、と目で言っている。
    「いえ、ですが……」
    なんといえば納得してもらえるのかわからず、困った様子でテンを見るソウゴだが、テンは違うようにとったらしい。
    「大丈夫。恩人に毒を飲ませるなんてことしないから」
    「そういうことではなくてですね!?」
    「おい、ソウゴいったん落ち着けって! 何をそんなに興奮してんのか知んないけど、あんまり大きい声は出すな」
    うとうと、程度ではあるが、水分補給したおかげで先ほどよりは穏やかになったイオリの寝顔を見ていたミツキはあまりのソウゴの声量に苦情を呈す。
    「、すいません。つい」
    きまりの悪そうな顔でミツキを見るソウゴだが、顔には未だ困惑が大きく表れている。
    「いや。こっちこそ悪かったな。で? 何をそんなに気にしてたんだ?」
    「知りませんか、ミツキさん。TRIGGERの名前」
    真剣な表情でミツキの様子をうかがうソウゴは、本当に知らないのか?という確認をしてくる。
    「ん~聞いたことあるようなないような……イオリが言ってたような?」
    よくわからないな、というミツキの返答にそれまで黙って何かの準備をしていたらしいテンがミツキとソウゴの方を向く。
    「あぁ、やっぱり。ソウゴ、キミはわかっていたんだね。そう。僕たちはTRIGGER。王立医師団みたいなものだよ。名前だけが独り歩きしてしまっているせいで壮大な名前を付けられているけれど、実際はほんの少し人より優秀でほんの少し魔力を持っているだけ。大したことはないよ。というわけで、ソウゴ、場所、変わってもらえる?」
    それまでガチャガチャと何かをいじっていたテンはようやく準備が終わったのか、ソウゴに声をかける。すごすごと場所を変わるソウゴを見て慌てて制止をかける。
    「ちょっと待ってくれ! 王立医師団って!? 見てもらっても診療代になるような大きな金うちにはねぇぞ!?」
    慌てて無理だ、というミツキの方を見て口を開きかけたソウゴであったが、テンに手で制される。
    「だから言ったでしょ。一宿一飯の恩のお返しだって。お金はいらない。そもそも王立医師団を君たちは何だと思ってるの」
    何の話だ、というようにテンは首をかしげる。
    「いや、王立って言って今までいくらつかまされかけたか……」
    これまでの苦労を思い出して遠い目になるミツキにテンは弁解する。
    「完全にあれとは別物だよ。王立医師団は、」
    「王立医師団、は、貧しい村々を回って、病に苦しんでいる者たち、を、無償で、診て回っている機関、です、貴族や豪商などもそうなのかは知りませんけど」
    言葉をぶつ切りにしながらも、何とか言葉を紡ぐ、第三者の声。
    声の方をみれば、荒い息のなかイオリが口を挟んできたらしい。
    「ごめん、起こしたか?」
    申し訳なさそうな顔をする実兄に、イオリはゆるゆると首を振る。
    「いいえ、ずっと、起きてはいました。眠れなくて」
    「あぁ、雨だもんな。そういや、タマキは? あいつ、平気なのか?」
    「昨日のうちに、対策は立てていましたよ。さすがにもう慣れた様子でした。イオリ君が何回も言ってくれたおかげかな」
    唐突にタマキの話をはじめた三人にテンはほんの少しムッとしながら話が終わるのを待っている。
    「ふ、」
    唐突に話し声が途切れたと思ったら、それまで平気な顔をして話していたイオリが、ぐっと眉間にしわを寄せ荒く息を吐きだしているようだった。
    「話、終わった? そろそろ本気で診ていい?」
    「あぁ。悪いなクジョウ。頼む」
    「とりあえず、二人は出てもらってもいい? 症状とかいろいろ、個人情報だから。大丈夫、そんなに心配しなくても、病人相手に変なことしないよ」
    「いや、うん。そうだな。じゃあ終わったらまたリビングに来てもらえるか? お昼ご飯の用意しとくから」
    何かを言おうとして飲み込んだのだろう三月は、辛そうなイオリを見て悲しそうな顔をしつつもテンの言葉通り、退室していった。
    「わかった。ありがとう」
    二人が部屋から出ていくと、す、と天は目をすがめる。
    「とりあえず、簡単に診察させてもらうよ。熱を測って、喉を見せてもらう。ここまではいい?」
    「、構いませんが、あまり動くようなことはやめてくださいね。今、体が動きにくいので」
    「すぐ終わるからそんなに警戒しないでよ」
    「するなという方が無理でしょう」
    「まぁ気持ちはわかるけど」
    そういいながら何かをイオリの額に何かを当てるとほんの少しテンも眉間にしわが寄った。
    「、っはぁ」
    「あーん」
    熱のこもった息を吐くイオリに、テンは棒とライトをもってイオリの方を向く。
    「喉、痛くないですけど」
    「さっきから咳してたでしょ。あの二人に気づかれないように」
    正確に自身の状態を言い当てられて、イオリは顔を顰める。先ほどから小刻みに肩が揺れている。それに加え、喘息のように喉の奥からぜーぜー言い出している。
    「ほら、あーん」
    「う、あ……」
    諦めて口を開くと喉の奥に異物が入ってくる感覚に顔をしかめる。咳が出てきそうになっても、押し付けられているせいでうまく咳き込めそうになく、涙目になってしまう。
    「ごめんね」
    イオリの顔を見ると、テンはそう謝るとすぐに抜いてくれた。代わりにイオリはしばらく咳き込む羽目になってしまったのだが。あまりにせき込むので慌ててテンは上体を起こして背中をさすってくれた。
    「ごめんごめん。苦しかったね。ゆっくり息しよう。吸って、吐いて」
    咳き込みすぎてうまく息を吸えなくなってしまったイオリにも慌てずに対応している。落ち着くと、力が入らなくなってしまったイオリをそっと支えて横たえさせてくれた。
    「ごめんね、ちょっと無理させちゃって」
    そういうと出していたものを鞄にしまっていく。
    「薬、簡単に調合したいんだけど、使っちゃダメなのとかある?」
    「だいじょうぶです」
    「わかった。机、借りるよ」
    静かな部屋の中に、イオリの呼吸の音と、雨が窓をたたく音と、テンの薬を調合している音だけが響く。うとうとしているのに、完全に消えてくれない頭痛が気になって、深く寝入ることだけはできないでいた。
    「寝ててもいいけど?」
    「けほっ、寝れないだけなので、気にしないで下さい」
    「早く治したいなら、寝るのも大事だけど?」
    「寝れるなら、寝ています」
    「睡眠薬もあげようか。弱いので良ければ」
    「大丈夫です」
    「っと。できたよ。ご飯食べてからでもいいけど、あんまりしんどいなら今飲む?」
    話している間に整ったのだろう。小さな薬包紙にまとめている。
    「食べてからにします」
    「わかった。じゃあ、ご飯もらってくるよ」
    「いえ、そこまでさせるわけにはいきません」
    「寝てるだけで息が上がってる状態なのに?」
    「この鈴を鳴らせば、誰かが来てくれますから」
    そういうとイオリは枕元に置かれていたベルを1つならした。するとすぐに部屋の扉が開いた。
    「いおりん、くすりちょーだい」
    「ヨツバ、さん。部屋に入るときはノックしてくださいと言ったでしょう……。そもそも、昨日お渡ししたじゃないですか」
    「効かないんだけど」
    「用法容量を守るように言ったでしょう!」
    「ちょ、ちょっと。あんまり興奮しないでよ」
    さっきまでぐったりと横たわっていたはずなのだが、あまりにも傍若無人なタマキの来訪に起き上がって抗議している。肩で息をしているのだから、辛いはずなのだが興奮していてあまり話を聞いてくれそうにない。
    「で、そこの君は何?鎮痛剤が欲しいの?」
    とタマキに声をかける。
    「あ、テンテンだ」
    「テンテン?」
    「ヨツバさん、飲み過ぎです。それ以上はいくらあなたでも胃が荒れてしまいます」
    「話がちょっと読めないんだけど、何かの薬が欲しいの?」
    と、テンが親切心でそう言うと、話を遮るかのようにコンコン、と扉をノックする音がして、返事をすると、ソウゴが入ってきた。部屋の中を見回し、まだテンがいることに気付いて慌てて会釈したのちに首をかしげる。
    「あれ? タマキ君? どうしてここにいるの? 部屋で寝てたんじゃ……」
    「あ、ソーちゃん」
    「オウサカさん」
    そういうソウゴに対して年少二人が困ったようにソウゴの方を見る。
    「え、と。とりあえず僕はイオリ君が呼んだから来たんだけど、タマキ君に関して呼ばれた、のかな?」
    話が進まないことを敏感に察知したテンは簡単に状況説明をすることにした。
    「ちがうよ。タマキが来たのはキミを呼んだ後。急に入ってきたから、こっちもびっくりしてるところ。何かの薬が欲しいみたいだけど?」
    「薬? イオリ君に調合してもらっていたじゃないか」
    不思議そうに言うと、そこでイオリのあきれ顔、タマキの青くなった顔を確認するとソウゴは後ろに般若を背負ってあくまで表面上は穏やかに口を開く。そのさまを見たタマキは完全におびえてしまっている。
    「タマキくん? 薬は決められた時間にだけ飲むって約束したよね……!?」
    「お、オウサカさん、声は抑えてください」
    頭が痛いらしいイオリは額に手を当てて顔をしかめている。タマキに至っては完全に委縮してしまっており、イオリの布団に逃げ込んでいる。
    「うわ、いおりんあっちぃ」
    「ちょ、っと、ヨツバさん!」
    もぐりこんだまま、イオリの額に触れるタマキ。
    「仕方ないでしょう。最近忙しかったのですから」
    不貞腐れたような顔で言うイオリはそれまで見たどの顔よりも年相応だった。
    「あ、そうだイオリ君。何かあった?」
    「夕飯は、今日はにいさんですか?」
    「今日はヤマトさんが作っていたよ。もうそろそろできるんじゃないかな」
    確かに言われてみれば、いい匂いがしてきている。
    「ニカイドウさんが……珍しいですね」
    「まぁ、今日は雨だからね。仕方ないよ」
    「なー。いおりん。あの薬、効かねー」
    「効かないって……。また考え直しじゃないですか……」
    「何、君毎回調合変えてたの?」
    「それはそうですよ。一人一人体質も違いますし、その日によって体調も異なるのでその時々によって調合を変えるのは当たり前でしょう」
    「随分面倒くさいことしてたんだね、って、君、免許持ってるの?」
    「ご心配なく。法に抵触するような行為は行っていないので」
    「いおりん、頭痛いのなんとかできねー?」
    小声でイオリにすがるようにいうタマキであったが、どうにかしようにも今のイオリでは頭が働かない。
    「効かなくなってきていたのなら、っごほ、調合していた時に言ってください、げほ」
    言葉を荒げる元気もなく、しおしおとイオリがそう返すと涙目のタマキがだって、と口をとがらせる。
    「いおりん、体調悪そうだったのに、きかねーって困らせるのヤだったし」
    とすねたように言うのだが、イオリにしてみれば本当に弱っている今のようなときに来られることの方が困るのである。
    「貴方の調合はいつ来られても大丈夫なようにしてあります。今度から困ったときはすぐに来てください」
    何とか一息で言い終えると、発作の様に咳が止まらなくなる。
    ぜほぜほぜーぜー気管支が悲鳴を上げている。
    それまで二人の会話を見ているだけだった三人が慌てたようにイオリの介抱をする。
    「ちょっと苦しいかもしれないけど、我慢して」
    いささか荒い手つきではあったが、テンは二人の話の間に新しい薬を調合していたらしく、咳の合間に喉に薬を流し込まれる。
    合間といってもそんなに長い休息があるわけではないため、薬もきちんと喉を通っていったのがどれほどあるのか、といったところだ。
    「誰か水持ってきてくれる? うがい用と飲むように二つ」
    テンがそう言づけると、ソウゴが静かに部屋を出ていった。
    薬のおかげで咳は収まったものの、逆に薬のせいでむせてしまっているイオリの背中をテンはさすっていた。イオリの布団に潜り込んでいたタマキは、イオリの病状が突然悪化したことに驚いてベッドから抜けて少し離れたところで見ていた。
    しばらくするとむせていたのも落ち着き、見ていた全員がほっと息をついた。しかし、ずっと咳き込んでいたせいでなけなしの体力も底をついたのだろう。ベッドに沈み込んで、ぐったりとしている。
    「いおりん、大丈夫?」
    心配そうにしているタマキは、いつの間にかイオリのすぐ近くに寄ってきていた。
    「は、ぁ。あなた、これが、だいじょうぶにみえるんですか……」
    大分憔悴しいている様子のイオリは、ほんの少し話しただけでも息が上がっている。





    「ねぇちょっと。これ、どういうこと」
    テンの声が鋭く刺さる。
    「いや、その…」
    「どういうことって聞いてるの。」
    「急な依頼だったらしくて…、期限も早かったから一日に2回力を使っちゃったみたいで、みんなに伝言した後に力尽きちゃったみたい。さっきやっと意識確認できたとこ。」
    なんてリュウが言うから、思わず低い声が出てしまった。
    「そういうことを聞いてるんじゃないの。どうして僕たちの…トリガーの砦にイオリがいるのかって聞いてるの。」
    「あぁ、たまたま2か所目で会ってね。ふらふらしてるのにさらに力使おうとするから、あわてて止めたんだけど間に合わなかったみたい。で、前に聞いていた症状よりも大分酷いみたいだし、あの子たちの家よりもこっちのほうが近かったからいいや連れて帰っちゃえって。……ダメ、だった」
    そう聞いてくるリュウに見えないはずの耳が見えた気がした。
    「……はぁ」
    びくぅと体をすくませるリュウにもう一度ため息がこぼれた。と、もぞもぞと布団が動いて噂の当人が布団からひょこひょこと長い耳をのぞかせ、耳が揺れ動く。
    「目、覚めた」
    「………は、い……」
    観念したようにそろそろと布団から全身をのぞかせる。魔力を使い果たしたせいか、体がとてつもなく弱っているのか、ウサギになってしまっているイオリ。
    「なんでそんなに怯えた目をするの……」
    「お前が怖いからだろ」
    「楽は黙ってて」
    「す、みませ、っ、めいわく、、う、、はっぁ、」
    「大丈夫 気持ち悪い?」
    急に優しくなるテンに驚いた顔をしているイオリ。
    「いつも一緒にいるナイト達はどうしたの?」
    「少なくとも俺があったときには傍に誰もいなかったよ?」
    「あ~そういや今日ヤマトに会ったな。今日全員出払ってるんだと。ナナセは家にいるらしいがな」
    「あぁ…リクはね。後方支援型だし…しょうがない。だからこんなにふらふらになるまで一人でいたわけ…?」
    「ひぅ、」
    ウサギ姿のイオリは初めて見るけれど、とてもかわいらしい。彼の好きだという、可愛いものそのもののような姿をしているイオリに思わず笑顔になる。
    「ふふ。可愛い。」
    「あ、テン、あんまり動かさないであげて。今、魔力の生成しているみたいで、さっきガクがいきなり持ち上げた衝撃でせっかく作ってた魔力全部流れ出ちゃったみたい。だから今はまだ不安定なんだって。」
    「そりゃあそうでしょ。彼は魔力を出す方。流したり与えたりはできるけど他人からの授与はダメなはずだよ。理論的にはね。」
    そういうと、ウサギのイオリをそっと持ち上げて自分の顔の高さまで持ち上げる。と、いきなりそのままイオリの口に己の口を近づけ、そのままあわせるとそこから魔力を注ぎだした。イオリの様子はわからないが後ろから見ている分にはどうやらうまくいっていないらしい。小さくテンが何かつぶやいているようだ。


    「ちょっと。大丈夫だから落ち着いてって言ってるでしょ。キスくらい陸とも何回かしてるでしょ? ……してないの?今までどうやって力渡してたの?あぁ、そっか。君たちはそうだよね。忘れてたよ。ごめんってば。蹴らないで。イタタ。わかった。わかったってば。ほら。これなら大丈夫?」
    そっと顔を離して手を繋ぐようにウサギの前足と手を合わせる。もう、わがまま。なんて考えていれば、繋いだ手から伝わってしまったのか後ろ足で蹴られる。が、こちらが気の流れに集中している様を見せれば向こうもやっと集中してくれたようで、流れがわかる。が、こんなに流れている魔力が枯れているとは思わなかった。少しずつ、乱さないように注ぎ足し始める。こんなものでは決して足りないだろうが何もしないよりもましであろう。いつも足りなくなったらどうしていたのだろうか。こんなにも強い拒否反応が出ているのだから、普段は魔力の注ぎ足しなんてしないのだろうか。
    「けぷ、っけ、」
    「おい、テン、今すぐ魔力を流すのやめた方がいい」
    「そうみたいだね」
    流した魔力を回収しながらも苦しそうになんどか空嘔吐きをしているイオリに視線を流す。プルプル震えるさまは見た目のままの小動物だ。
    「そもそも、そんなに供給がダメなら普段どうやって魔力の補充をしていたの?」
    「数人で魔力を混ぜるんです。一人だけの純粋な魔力は、私の体にはきつすぎるんです。そもそも魔力なんて無くなってから何百年と経ってしまっているものなので、正式な魔力の譲渡方法なんて知ってるの、あなたたちくらいじゃないですか? もしくは体調のいいときに、魔法石を作っておいてそれで魔力を安定させるんですけど、最近忙しくて作る余裕がなかったから……」
    「……、そう。リュウ、手、貸して」
    「わかった。はい」
    「イオリ、これならいい?」
    ふわり、それまでの空気とは一変して冷たい冬の夜明けのような空気が三人を包むようにして部屋を充満する。
    「、なにこれ、すごい……」
    「二人とも凄いね。若いなぁ。」
    「私の力ではありませんよ。空っぽなの、わかるでしょう?」
    「ここまで魔力空っぽにしてよく歩けてたね」
    「慣れです」
    「こういうことに慣れるのはよくないよ?」
    「…………」
    「あ、戻る?」
    「いいえ。今戻ってしまえば全裸になってしまいますし、この姿の方が回復するのにいろいろと楽なんです」
    「それにしても君がウサギね……」
    「何ですか」
    「いや?別に。ずいぶんかわいいなぁって」
    そういうと複雑そうな表情をしたのがウサギ姿からも察することができた。
    「何? 何か言いたい事でもあるの?」
    「クジョウさんが、ナナセさんから何を聞いていて何を知ってるかは私にはわかりませんから詳しいことは言えません。ですが、これは仕方ないことなんです。ここまで見られてしまえばもう誤魔化せないので真実をお伝えします。ですが、防音の結界を張ってください。私は、私たちはナナセさんが信用したあなたたちを信じています。
    ________例えあなたたちが私たちの敵であったとしても」
    結界を張ろうと準備をしていた時に耳に入ってきた不穏な言葉に思わず手が止まってしまう。
    「敵って・・・・どういうこと?」
    「まずは結界を張ってください。そうしてくれれば、全てお話しします。」
    最も、クジョウさんにはお見通しかもしれませんが・・と続けた彼。リュウとガクが結界を張っている間、テンは何とかしてイオリの状態を安定させようと四苦八苦していたようだ。今はウサギ姿のイオリを膝の上に乗せ、毛並みを満喫しているようだ。
    「おい、イズミ弟結界張り終わったぞ。」
    「ありがとうございます。どこまで話すかはすべて私の裁量に任されているので、あくまで大事なところだけ。」
    まず一つ目だ、と伝えたのは自分が七つの大罪の1人であること。アイナナの人は全員それを知っていること。自分が、色欲の罪人であること。
    二つ目は、理由はわからないけれど、国家から追われていること。
    「その二つのせいで私たちはあそこに住んでいます。」
    「さっきの敵って言ったのって、俺たちが国の機関の人間だって知ってたから?」
    「はい。結界を張ってもらったのもそのせいです。防ぎたかったものの八割はそれで賄えますから。足りない二割は私が補強しておきました。」
    「足りないって、、、、」
    「この部屋、防魔力札が張られていますよね。お三方のように純粋な魔力をお持ちの方は防げないのです。私のような、」
    「君のような?」
    「私は、きっとこの中の誰よりも純粋な魔力だけでいえば一番多いです。ですが、これはあまりにも毒々しい。普通の人にそのまま注いでしまえば一分とかからずに天へ還るでしょうね。」
    「なんで、そんな、?」
    「あぁ、ツナシさんは地方出身でしたね。私の持つ魔力はお三方のような精錬された綺麗なものではないのです。むき出しの、そのままの欲望をむき出したような、強くて脆い、魔力なんです。泥水やなんかよりもっと、どろどろした汚いものなんです。」
    「それが結界を張るのと何の関係があるんだい?」
    「?わかりませんか。ここはあなたたち、TRIGGERの砦。綺麗な魔力で充満しているはずなのに、いきなりそんな汚いものが入り込んできたら、誰だっておかしいと思うでしょう?」
    「でも、キミが結界を張るんだったらばれてしまうでしょう。」
    「私は一度でも、普通の魔法は使えない、といった覚えはないのですが?」
    「どういうことなんだ、一体。」
    「私は、大罪としての魔力も、あなたたち三人のような魔力も両方持ち合わせているんですよ。そのせいで、この髪の色なんです。相反する魔力を持ち合わせているせいで、パワーバランスが崩れたらすぐに体調に異常をきたすんです。」
    今は、純粋な魔力の方が強いのでウサギなんです。なんてあまりにもケロリというから。
    ちょっとだけ、いじわるのつもりだった。
    「じゃあ、そのどろどろした魔力だけになったら、何になるの?」
    「‥‥・さぁ。」
    「さぁってオイ。」
    「答えなければならない義理はないはずです。」
    「え、と、とりあえずこれだけなのかな?イオリ君が伝えたい事って。」
    「なかなか強引でしたね、けどまぁ、だいたいそうです。私は国家から狙われてる指名手配犯。一歩間違えばあなたたちの命もないかもしれませんよ?」
    「なんだ。そんなことか。」
    「なんだってなんですか?何かあったときのためにせっかく人がアドバイスしたって言うのに。」
    「そんなこと、だよ。あまりにも険しい表情してるから、誰かが危篤なのかとか、君が不治の病なのかとかいろいろ考えたけど、徒労でよかったよ。」
    「そうだな。それくらいならどうとでもできる。
    —————天下のTRIGGER様をなめんなよ?イズミ弟。」
    「そろそろそのイズミ弟って呼び方やめてもらっていいですか。」
    「あぁ、悪かったな、ウサギイズミ。」
    「完全に喧嘩売ってますよね言い値で買いますよ、今なら!」
    後ろ足をだんだんさせるため、乗せているテンの膝が痛い。
    「ちょっと。痛いんだけど?」
    「ヤオトメさんに言ってください!!!」
    「ガク。」
    「悪かったって。それで?」
    「それで、とは?」
    「なんなんだ、その七つの大罪ってのは。」
    ガクは曇りなき眼をイオリにむける。
    「…。ヤオトメさんほどの人が、七つの大罪をご存じないのですか。」
    静かにガクの方をみるイオリだったが、うさぎの姿を取っている今のイオリでは、いかなTRIGGERといえど表情を読み取ることは出来ない。
    「知らなくて悪かったな。」
    きまり悪そうなガクに、イオリは話を続ける。
    「いえ。普通の家庭であればおそらく知らない話でしょうから。」
    言外に仕方ないと告げるイオリに、テンとリュウは






    「~~~~~~~~~~っ、‼‼」
    あまりにひどい痛みに、息をすることすらひどく億劫である。ひくひくとのど元を何度も引きつらせながらも必死に唇を噛みしめて痛みを逃がそうとしている。が、あまりにも強く噛みしめているからか、血がにじんでいる。痛ましそうにそれをそっと指で拭うテン。
    「イオリ、、、、辛そうデス、、、。」
    「死ぬことは無いって言ってもなぁ。先天性の背中全体の痛みだろ?あんな痛みが背中全体を蝕むくらいなら、俺ならむしろ殺してくれって思うわ。」
    「そんなにひどい物なの大罪の発作って。」
    「ん~たとえ話になるかわかんないけど、俺は何回か真面目に目抉り出そうとしたことがあるよ。右目。少しでも楽になるかなって。」
    ほれ、眼鏡をはずして見せてくれたのは、爪でひっかいたような傷の跡だ。跡が残るほどきつく傷つけたのか、それとも傷の跡がつくほど何度も傷をつけ続けたのか。
    「お前がか!」
    「いや~正直ここにいる全員、ソウ以外なら全員したことあるって!!多分…」
    「あ~確かになぁ。俺もそんなに何回も真剣に考えたことはないけど一回だけなら腕切り落とそうかと考えたことあるかな。」
    「そうなの!?ミツキ君まで!?」
    「イオリ、言っていました。先天性の者と、後天性の者では痛みが違うのだと。」
    「何が違うの?」
    「に、さ、はきそっ、。」
    「!?」
    それまで一切会話に入る余裕すらなかったのに、急に言葉を発したイオリの一言に慌てふためく周り。
    「とりあえず、そのまま吐き出して。苦しいの無理して我慢する方がつらいでしょう?大丈夫だからね。」
    優しい声をかけながら背中をさするリュウ。その場に吐き出してしまえ、と通常なら絶対に拒否したであろうイオリは、苦しそうに顔をゆがませながらなんとか吐けたようで。ただ、吐いただけで楽になるわけでもなかったようで、そのあとも息をすることすらつらいのだ、というかのようにひきつった息を続けている。
    「いったん起き上がれる?布団、綺麗にした方がいいだろうから。」
    俺が支えるから、しばらくの間だけ我慢して?とまるで聖母のような笑みを浮かべながら言うリュウ。
    そっと慈しむような手つきでイオリを抱き上げたリュウはこちらを見てあとはお願い。そう言った。抱き上げられているイオリは、リュウの腕の中でも手をきつく握りしめ、手のひらからは絶えず血が流れ続けている。その様子を見て慌ててリュウが手をほどき、己の手と繋ぎ変えた。だが、あまりにもイオリの力が強いのか、リュウの顔にも苦い色がにじんでいる。それをみてはっといたテンとガクは自分たちも行動を起こそうと汚れているであろう寝具の方を向けば、なんと綺麗になっているではないか。
    「「え?」」
    「どうかしたか?あ、ツナシさん、イオリもう寝かせて大丈夫です。あと、イオリの手、ちょっとかしてもらっていいですか。」
    そういうとミツキは今だ血の流れ続けている手のひらに慣れた手つきで分厚い布を巻き付けていく。
    「とりあえずこれで後2時間はもつ、だろ。」
    「手慣れてるね。」
    「そりゃあな~。小さいときはほんとにかわいそうでさ、何とかしてやろうっていろいろしてみたけど、結局分かったことはひとつだけ。」
    「何がわかったんだ?」
    「何もできることはない。ただ、今日という一日が終わることを待つしかない。」
    「んなっ!?」
    「俺だっていろいろ試したんだよ。そのうえでこう言ってる。全員、毎年一回は経験してるんだ。経験の長い奴ほど対処法に飢えてるに決まってんだろ。」
    鋭い目をしたミツキは、まさに弟


    「大丈夫です、毒には、耐性があるので、、、。当ったのが、私でよかった。ほかの皆さんでは、危なかった、ですから。」
    何も言わずに眉根を寄せて、こちらを見るだけに留めるのは自分の身を案じてだろうか。
    「言っていませんでしたね。私たちは前に話した通り大罪とよばれる魔力があります。それとは別に私たちが業と呼んでいるものがあります。—————それぞれが持つ、身体的特徴、ハンデの事です。ここにいない人の事を勝手に話すのは気が引けるので、私の業だけ。」
    ゴクリ、とのどが鳴る。
    「私の業は、毒を無効化すること。それと、体の治癒能力が異常に低いこと。毒を無効化するといっても、すべて何もかもなかったかのようにはできないんです。できるのは、どれだけ強い毒を盛られてもただ死なない。それだけです。」
    小刻みに揺れる肩は抜けきらない毒のせいだろうか。それとも—————
    「イオリ。体、辛い横になろう。そしたらきっと、」
    「なんで、」
    「え、?」
    「なんで、私たちだったんでしょうね。どうして、わたしたちが、こんな目にあっているんでしょう。考えても意味なんてないことも、理由が出てくるわけないのも分かっていても考えてしまうんです。どうして私たちだったんだろうって。」
    そういうと、ぐるんと体を反転させながら自分とは反対を向いた。
    「イオリ。ねぇ、イオリ?こっち向いてよ。イオリ。」
    「今は、、無理です。」
    肩をわずかに震わせながらそんなつれないことを言うから、
    「珍しいね。イオリがこんなこと言うなんて。」
    「!!忘れてください!」
    「どうして?」
    「らしくないことを言いました。あなたに言っても意味ないのに。ごめんなさい、毒のせいで考えが緩くなっているのだと思います。」







    っ久しぶりにこれはきついかもしれない。どうしよう、家まで持つか…?
    「あれ?イオリ君?こんなとでどうしたの?あ、もしかして———っ!?大丈夫!?ってあっつ!?今日はヤマト君とかタマキ君一緒じゃないの?誰かに連絡取れる?イオリ君!!しっかり!!!!どうしよう…‥しょうがない、かな。」
    意識を失ってしまっているのか、ぐったりとしたまま反応のないイオリを反応がないのをいいままに、お姫様抱っこする。




    もしも、わたしが、みんなを害するものになってしまったら?



    はじめは小さな違和感だった。何かがおかしい。何が?何かが。最近字のあたりがチリチリと痛む。年に一度の発作と比べてしまうと痛くないと感じるが、ふとした時に痛むそれは少しずつイオリの顔を曇らせていった。理由の分からない痛みは、ただの痛みだけでなく、イオリの心にも暗い雲を落としていった。その疑問が解消されたのは、めったに入らない、陸とともに風呂に入ったときだった。
    「あれ?イオリ、この痣、おかしくない?」
    「急に何ですか、ナナセさん。」
    「わっ!ご、ごめん。あのさ、なんか、広がってない?」
    「はい?」
    「や、だからさ、この痣、大きくなってない?」
    「‥‥え?」

    まさか、と思った。だからか、と少し納得もした。おかしかったのだ、発作でもないのに字が痛むなんて。だが、それは同時にイオリの背筋を凍らせた。最近はみなに指摘されてしまうほどに魔力が安定しておらず、外に行くなど到底できる状態ではなかった。何かが、自分の知らないところで動いている…?

    「どういうこと、ですか?」
    震えを隠すこともできずに、疑うような瞳をリクに向けてしまう。
    「わかんない。けど、なんとなく、そうかなって思ったの。めったに一緒に入んないけど、でもなんかおかしいな、って。」
    陸自身なぜそう思ったのかわからないというような顔をしているが、この人の言うことには絶対に意味があることをイオリは知っている。そして、それは絶対にうそではない、とも。
    「あ、ざが大きく、なんて、なるわけないじゃないですか。」
    何を言ってるんですか、ナナセさん。そう言うイオリは口ではそんなことを言いつつも、その声は震えていた。
    「、ミツキにも、話してみよう。なにか、わかるかもしれない。」
    そういう陸はこれまでに見たことがないほどに真剣な表情をしていた。
    すぐさま着替えると、そのままイオリにそこで待つよう言いつけ、脱衣所を出ていった。


    「どうした~?リク、イオリと風呂入ってただろ?何が—————何があった?」
    リクに呼ばれて脱衣所まで行ってみればそこにいたのは上半身裸のままぽたぽたと頭から雫を滴らせるイオリの姿があった。
    「どうした?早く頭拭かないと風邪ひくだろ?あ、久しぶりに兄ちゃんが頭拭いてやろうか?「————————兄さん。」どうした?」
    あまりにもいつもと様子の違うイオリに、三月もひどく戸惑う。
    「兄さん、あの、私の、」

    背中の痣、大きくなってますか?

    潤んだ瞳で見られてうろたえた。だって、痣が大きくなる、なんて。それは、だって。
    心臓が嫌な音を立ててばくばくと激しい音がする。耳元に心臓が移動してしまったのかというほどに大きな音だ。喉の奥で変な音が鳴る。
    「兄さん、?」
    不安そうなイオリは、見えない『何か』にひどくおびえていた。
    「イオリ、いつ気付いた?」
    「わかりません、そんなの。そもそも、」
    不安を紛らわしたいのだろうイオリはとにかく何かを言おうとしている。
    「大丈夫だ、イオリ。落ち着け。わかってるから。な?服を着て、リビングに来い。待ってるから。ちゃんと髪も乾かしてこい。な。」
    「はい。」
    言いようのない不安がそれぞれの心に重くのしかかってきた。


    リビングに全員を集めるまでそう時間はかからなかった。あんなに重たい話を、三人の間だけで抱えておくには聊か無理があった。
    「そいで?お前さんたち、何をそんなに殺気立ってるわけ?」
    いつもよりもピリピリした様子のイズミ兄弟を見たヤマトはからかうような口調で聞いてくる。
    「知らないわけはないよな、ヤマトさん。」
    弟の一大事に気が立っているミツキは、いつもよりも言葉の刃が鋭い。
    「え~…。」
    冤罪だ、とでも言いたげなヤマトだが、次のミツキの言葉を聞くと、それまで弛緩していた空気が一気に硬直した。
    「イオリの痣が大きくなったんだ。」
    「!!」
    それは話をそこまで大げさに思っていなかった他のメンバーにも衝撃を与えた。
    「痣が大きくなるなんて…そんなことありえるんですか?」
    「そーちゃん、知んねーの?痣は、
    「痣は、字は、俺たちが大罪である証。俺たちが大罪である所以。それが大きくなるってことはつまり、」
    「つまり?」
    「その大罪を犯したということになってしまいます。」
    「!?」
    唐突に現れたイオリの存在、またイオリが口に出した言葉に、空気が凍る。
    「イオリ、ちゃんと髪乾かしてきたのか?」
    「はい、しっかりと。」
    「そうか。」
    「心当たりは当然ありませんし、皆さんも知ってると思いますけど、ここ最近は一度も家から出ていません。」
    「じゃあ、なんで?」
    そう言えば本当に困っているのだという顔をしながら、小さくわかりませんとつぶやくように溢す。
    「うーん。痣に痛みはないのかい?」
    「‥‥‥‥。」
    「イオリ?」
    「多少は。」
    「どんな痛みなんだ?」
    「なんでしょう。言葉で形容するのは難しいです。内側から皮膚をあぶられるような?」
    「「痛い!!!!!!!!!!!」」
    「痛いのはあなたたちではないでしょう。」
    叫んだタマキ、リクに呆れたような顔をしながら反射で返すイオリ。
    「いやでも。なんでだ?」
    「城下町があれているんでしょうか?」
    「どういうことだ?リク。」
    「聞いたことないですか?大罪は社会を映す鏡だと。」
    「いや、聞いたことがねぇな。詳しく教えてくれるか、リク?」
    「はい!」


    えっとこれは天にいから聞いた話なんですけど。
    な、なんだよイオリ。はぁ?おれは!あ、すいません。えっと、はい!大罪が顕現する年って言うのは一種の変遷の年なんだそうです。いろいろなものが変わる激動の年というか。とにかく大変な年になるっていうときに大罪を持つ人が現われることが多いそうです。現れる人数は基本的に2~5人くらい。多くても6人までで、今まで一度も7人全員が集まった年はなかったそうです。それで、大罪が国に富をもたらす年もあれば、諸悪の根源のようになって、民に国を滅ぼされた年もあったって。ただ1つだけ言えるのは、
    「大罪はどの時代も中心にいたそうです。」
    「つまりまぁ要約すると、大罪は民の総意を集約した者、ってことか?」
    「簡単に言うとそうです。」
    「つまり…?」
    「原因は街に居る人たちのせいという可能性が高いですね。」
    「どういう‥‥」
    「こういうことはTRIGGERのお三方の方が詳しいのではないですか?」
    「町の事情とかか?」
    「確かに。一応イオリの背中も見てもらった方がいいか?」
    「いえ、外傷ではありませんし、薬やなんかでどうにかできるものではないので、普通に最近の街の様子を聞く、くらいに留めておいた方がいいんじゃないですか。」
    「う~ん‥‥。とりあえず何があるかわかんないからしばらくイチはリクと家待機な。そんでmezzo“の二人は何とかして街の様子探ってきてくれ。ナギはTRIGGERから話聞きだしてきてくれ。ミツは俺とちょっと別行動。」
    「大和さん、俺もみんなと一緒に街の方に!」
    「今のイチにこれ以上魔力を貯蓄させたくないから、魔力暴走を防ぐためにイチと待機してもらいたい。なんかあったとき、いざとなったときにイチの魔術が使えないと一気に窮地に陥る可能性もあるからな。」
    「わかりました。イオリと一緒に待ってます。」
    「いい子だな、リク。」
    「すいません。皆さんを巻き込んでしまって。」
    「Non,イオリ。すみませんではありませんよ?ワタシ達はあなたが好きです。そんなあなたが苦しんでいるのだから、助けたいと思うのは当然でしょう?」
    「そーだぜ、いおりん。」
    「皆さん…ありがとうございます。」


    何よりもまずは情報を集めなければ、と次の日から誤認は精力的に動き出した。ソウゴとタマキは町で大道芸をする傍ら、うわさ話に耳を傾け、ミツキ、ナギはひとまずトリガーの三人に話を聞きに行くことにした。ヤマトはというと、行きたいところがある、終わったら合流するから、とどこかに行ってしまった。ミツキとしては、いい大人であるからそこまで心配していないのだが、出がけに見たヤマトの顔色がとても悪かったことだけが心残りではあった。


    一度行ったことのあるナギに道案内を頼むと、奥まった路地についた。
    「本当にこんなところにあの三人がいるのか?」
    「ミツーキ。あまり大きな声を出してはいけません。ここは一度霊力切れを起こしてしまったイオリが連れてきてもらったところです。あまり人に知られてはいけません。」
    珍しくナギがひどくまじめな顔でそう言うものだから、

    それからイオリは寝ることが多くなった。体力と魔力を温存するためと、日に日にひどくなってきた痛みから逃れるために、致し方なしに眠っていた。魔力の温存は、今のイオリにとって死活問題であった。食事もままならず起きてきても自身の意思を告げることもあまりなく、ただうなるだけであったり夢うつつのようにはっきりしないままただ痛みにうなされていることも少なくない。


    「おかしい。もうこんなに広がってる。確かに他の6人より元から大きい痣ではあったけど、こんなに大きくなかった。それに、イオリは徳を積むのもうまかったから、消えた範囲も広いって聞いた。それにしてはこの痣、おかしい。消すための大変さは広がる速さの2乗くらいって何かの本で読んだことがある。早すぎる、いくらなんでも。」
    「でも市井でもそんな話、出て無かったよね。」
    「隠ぺいしているのかもしれない。ユキさんとモモさんにも聞いてみよう。」
    「あんまりくよくよしてたってしょうがねぇ。俺達には俺たちのできることをしよう。」
    そういうとガクはテンの頭をやや乱暴に撫でた。
    「ちょっと!!」
    「早く解決してやんねぇとな。」
    「うん。」




    全てが終わったとしても、それはすべてを解決したことにはならないし、すべてがなかったことにはならなかった。襲われてしまった女性の心の傷がなくなることはなかったし、イオリの広がった字が小さくなることだって決してなかった。
    広がってしまった字を見て、小さくため息をつくイオリ。
    「また、調整を取り直さないと。魔力の暴発が起きてしまってはことですしね。」
    どこか練習できるところはないだろうか。その場合誰かに見張っていてもらわないと、大罪の魔力に飲み込まれてしまっては困る。今は病み上がりのような状態だから、魔力がそこまでないというだけで暴走が起こっていない状態である。またいつ、爆発を起こしてしまうかもわからない。
    「イオリ、どうした?」
    「兄さん。練習しなければ、と思いまして。」
    「あ~そういやそうだな。」
    魔力の質が変化することはないが、魔力の量は毎日少しずつ変わっていってしまう。ふたりは、初めそう言ったことを知らずに過ごしていたのだが、成長するにつれ強大になっていく魔力に恐れを抱いたイオリは、自身の中に相反する二つの魔力があることを感じ取り、それらと調和をとることを始めた。そこまで育ってはいなかったがそれでも爆発を起こしてしまうと、数メートル圏内の物は消し去るレベルの物だったために隠れて行っていた。魔力量の平衡状態が変わってしまった今、新しいバランスを探すのはイオリに課せられた急務だった。少しずつ小さくしていくぶんには簡単だったが、ここまで大きくなってしまうと、流石のイオリでも練習が必要だった。
    「場所、探さないとだなぁ。空間作るか?」
    「その場合、ナナセさんかヨツバさんに頼む羽目になりますし、強度の問題もあります。」
    そういうイオリの顔は苦々しくなっており、思わずミツキも苦い顔をしてしまう。よりによって一番魔力の扱いが苦手なその二人か、と。だがしかし仕方ないこともある。もとより強い力を持っているのはこの七人の中で未成年組と言われる四人で、魔力の扱いが特にうまいのはヤマト、ソウゴ、イオリなのだ。絶望待ったなしである。ナギも上手いには上手いのだがどうしたものか、と頭を悩ませていると、イオリの部屋の扉がノックされる。返事をすると入ってきたのはテンを先頭にトリガーの三人であった。
    「具合はどう?」
    「痛みはだいぶ引いてきましたし、もうしばらくすれば普通に生活できると思います。」
    「そう、よかった。」
    「こっちの案件だったのに、迷惑をかけてすまなかった」
    「犯人の処罰にかけては申し訳ないけれど、こちらに任せてほしい。取り締まりを行うのは俺たちじゃないから、、確実なことは言えないが、よくて一生牢獄、悪くて死罪になると思う。」
    「私が言うことではないとわかっていますが」

    「絶対に殺してほしくありません。」

    「死んで、楽になるなんて、許しません。その人のせいで人生を狂わせられた人だっているのに、何もせずに何も成さずに死ぬなんて、そんなの許されるべきではありません。天国に行けないのが罰である、なんてまさかそんなことを言ったりしませんよね?」

    「何らかの労働をさせるべきです。死なない程度に、給金もなく。無償の労働を貸して、それでもまだ生ぬるいくらいですよ。」

    「私の字は、私の代で消すのは不可能でしょう。私が残念に思うのはそれだけです。」
    「君の想いはわかったよ。」



    「はぁ?ヤマトさん、急にどうしたんだよ、あんた。」
    唐突に上がったミツキの声にその場にいた全員の視線が集まる。
    「どうしたのですか、ミツキ?突然そのような声をあげられて。」




    「これ俺たちの仕事じゃなくない?ねぇ。帰ろう?」
    めんどくさそうに本気で嫌だという顔をしていた。
    「黙れおっさん。静かに仕事しろ。ただでさえ、今回は少数精鋭だってのに。」
    そう、なんと今回の依頼は花街にいる花魁の護衛が依頼だった。そのため、未成年である四人を連れてくるわけにはいかず、ミツキとソウゴが女装して近辺を、ヤマトが手伝いとして若い衆となって潜り込んでいた。今回なぜこのような仕事を成人組が請けたかというと、単純にお金が欲しかったからである。最近何かと入用であったため、収入よりも支出の方が多くなってしまい、手っ取り早く収入を得るためにはこういった依頼を請けるほかなかったのである。ちなみに未成年組は今は別の方法でお金を稼いでいる最中である。



    ところ変わって
    今、未成年組は…
    「なんで俺たちはミッキーたちと一緒じゃねぇんだよ!」
    「しょうがないでしょう!私たちは未成年です!遊郭なんて行けるわけないでしょう!」
    「でもさー…」
    「文句言うくらいなら頭を動かしてください。ただでさえあなたの業務は遅れ気味なんですよ?」
    「わかってっけどさー、おれ、こういうの苦手だっていおりん知ってんだろ?」
    「知っていますよ。ですからあなたの分は減らしたでしょう。」
    「あーもー。いおりん、うっせー。」
    「口よりも先に手を動かしてください。」
    「いおりん、さっきと言ってることちげー」
    「仕方ないでしょう。この量を二人でやらなければならないんですから。それとも、ヨツバさん、あちらの二人の方に行きますか?」
    今、この二人が何をしているかといえば、簡単に言うとアルバイト、と言われるものである。体力型のタマキ、頭脳型のイオリ、ナギ、ムードメーカーのリク。成年組のように割のいい仕事を探した結果。貴族の屋敷での小間使い、であった。それぞれのいいところを生かす仕事を、と探してはみたものの、そうそう都合よく事が運ぶはずもなく…いろいろと妥協に妥協を重ねた結果……
    「ちょっと、資料はまだなの?たかが資料一つ探すのに何分かかるわけ?」
    「……すみません。ヨツバさん、上から二段目の、赤い背表紙の本をとっていただけますか。」
    「これ?」
    「その一つとなりのものです。」
    「あぁ、これ?」
    「はい。これで頼まれていたもののすべてです。」
    「へぇ。……ここから下は?」
    「先ほど、軽く目を通させていただいた書類にメモされていた資料と、それに付随する要素についての資料、こちらが勝手に必要だと判断したものはこちらになります。」
    「君って、そういうところかわいくないよね。」
    「はぁ?」
    「まぁいいよ。ありがとう。次はこっちの資料の片づけしてもらえる?見た感じ、君は書架とかの分類にも明るいみたいだしね。」
    「あくまで大体ですが……。まぁ、仕事ですから。やりますよ。とりあえず、こちらの資料はどこに運べばよいですか? 三人分に分担することも可能ですが。」
    「そこまでしてくれたの? じゃあそれぞれの机の上に運んでもらえる?」
    「わかりました。ヨツバさん、次の仕事ですが―――――」
    どうやらこの二人を書庫に配置したのは正解だったらしい。頭を使うのは苦手だ、と駄々をこねがちなタマキをイオリは要領よく動かしてくれる。おかげでいつもよりも仕事の進み具合が早い。この調子なら、予定していた時間より早く終われそうだ。

    「おい! ナナセ、ちょっと待て。そのハンコから手を放せ。ステイ!」
    「リク、落ち着いてください。焦っていては、何もうまくいきません。」
    「うううう。ごめんなさい……。」
    「大丈夫だよ、リク君。少し休憩しようか。」
    「すいません、お仕事なのに。俺、足手まといですよね。」
    「そういう考えでいるのなら、帰った方がいいんじゃない。」
    「て、クジョウさん……。」
    「僕たちは君たちに対してお金という対価を支払って、労働という形でそれを買ったんだ。それを理解していない君に支払うお金はないよ。」
    「テン!言い過ぎだ。いくらなんでもそれはひどいだろ!」
    「これはあくまでも正当な取引だよ。仲良しこよしの遊びじゃないんだ。さらに言えば、僕たちは君たちを信頼しているからここでの仕事を振り分けた。どうしても自信がないのなら外部のあの人たちと一緒の仕事でもする?」
    「…ううん。三月たちに言われたんだ。できる限り頑張ってみろって。だから、やらせてください。」
    「じゃあ次はこの書類。あて名ごとに振り分けて。僕の分、ガクの分、龍の分。それから三人に向けたものの四種類。中身は見ないで、あくまで封筒の宛名だけで振り分けて、終わったら声をかけて。持って来ようとしなくていいから、僕たちの誰かに声をかけて。いいね?」
    というと、テンは自分の席に座り、
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