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    raindrops_scent

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    raindrops_scent

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    ショタ9が治療とかを頑張りすぎてもう無理!になっちゃう話を書いてたんですが、色々と書けないので供養
    あちこちぶつ切りです。
    私はこんなふうに小説を書いてます、の例

    SOSは、音もなく「っ、」
    「天? どうしたの? あぁ、お熱出てきちゃったかな。辛いね。お熱測ろうか」

    #SOSは、音もなく

     なかなか熱が下がらず、咳もなかなか止まらない。吸入を何度行っても、薬を飲んでも、天の不調は良くならない。
    「げほげほっ、ぅ、」
    「苦しいねぇ。もくもく吸おうね、楽になるよ」
     何度も何度も痛い思いをさせて、それでも天はずっと笑っていた。だから大丈夫、なんて思っていたわけではない。
     だけど、空気の入れすぎた風船は、いつしか突然破裂してしまうものなのだ。

    「やだ」
    「えっ?」
    「もう、いい、もうやだ」
    「天?」


     点滴の管を、ぶちってぬいた。痛かったし、いっぱい血がでた。でも、からから、って音がしないし、もういいんだって思ったら、ほっとした。
     ぽたぽたって血の跡ができて、仕方ないからタオルを腕に巻きつけた。じわじわ、って赤くなったけど、ゆかにぽたぽたって広がらないから、いいや。
     ちらって廊下を見たら、まだ誰もいなかった。今じゃないと、見つかっちゃう。
     くらくらって目の前が真っ直ぐじゃなくなって、立ってられない。でも、見つかったら怒られるから。
     ボクは、ゆっくり階段を降りる。使っちゃダメだよって言われたけど、一人になれるのはここしかないって思った。
     どんどん苦しくなってきて、階段に座った。ふぅ、ふぅって息が荒れた。座ってるのも辛くなって来たけど、もうちょっと降りないと、外には出られない。立たなきゃって思うのに、ぐらぐらって頭が揺れて、足に力が入らない。
     どうしよう。
     そとに、いきたいのに。
    「天!? 天!!」
    「っ、」
    「あっぶな、天、っ天!?」
     ばたばた、って階段を駆け降りる音がして、すぐに目の前に白衣が降りて来た。逃げなきゃって立ち上がるつもりだったのに、膝がぐにゃぐにゃして立てない。龍がぎゅってしてくれたけど、もうずいぶん苦しい。
    「楽? うん、うん。階段にいた。今から処置室いくから、準備しててくれる?」
    「やだ」
    「天。ごめんね、そのやだは聞けないよ」
    「っごろ、」
    「苦しいね。楽が待ってるからね」
     げほげほって咳をする元気もなくて、ひゅう、ひゅう、って息をするたびに音がする。手に巻きつけてたタオルを見て龍がぎゅって苦しそうな顔をして、大丈夫だよって言う。
    「すぐ楽になるからね」
     楽にして欲しいんじゃないのに。
     もう、嫌なのに。
     どうして、わかってくれないの。
    「っ、ぅ、けふけふ、こん、っ」
     

     自分で点滴を抜くような子ではなかった。包帯で固定されていたのに、その全てを解いて自己抜去に至ったというなら、それだけの理由があったのだろう。
     処置室に着いて、再度点滴を施そうとしても天は嫌がるように手を動かす。左手に打ってやりたかったが、抜かれた後に刺すわけにはいかない。
    「点滴頑張ろうね。痛いの一瞬で終わるからね」
    「やだ、ひゅ、げほげほっ、ひぅ、」
    「大丈夫だよ、ほら、終わった。頑張ったね」
    「ぜひゅ、ぅ、やだっ、」
    「取らないよ〜。おててこっちにちょうだい? 楽」
    「あぁ。ほらこれで楽になるぞ」



    「天」

    「もうやだ。ぜんぶやだ」
     やだ、やだ、と繰り返す天は、抱き上げられているのも嫌がるようにばたばたと手足をばたつかせる。いつもの遠慮した小さな動きではなく、本当に降ろして欲しいと伝えるふうに。
    「かえりたい。おうち、かえりたい。おとうさんとおかあさんのところに、かえりたい……っ」

    「天、」
    「もお、やだ、やだぁ」
     わんわんと泣き喚く元気もなく、長い間暴れているだけの元気もないのだろう。小さな泣き声は、誰のものよりも胸を打つ。ぽかぽかと弱い力で胸を叩かれて、またしても下せ、と抵抗される。
    「天」
    「やだ! もうやなの!」
    「わかったよ、わかったから。大きい声出したら苦しいでしょ? あっ、こら」
    「っひ」
     小さく息を呑んだ天は硬直して、ガタガタと震え出す。苛立ちを外に出すのが苦手な天は、怒りをぶつける対象を自分に据えたらしい。小さな手にがぶりと噛み付いたのに小さく叱責をすると、天は小さく息を呑んだ。
    「怒ってないよ、怒ってない。ね? 天、」
    「ぅ、っく、ひく、っ」
    「天」
    「っごほこほ、こほん、っけほ、おろして、」
    「うん」
     おろして、と懇願されて、ゆっくりとベッドに降ろす。入れた端から抜かれてしまうから、点滴は投与できていない。
     ずりずりと後ずさった天は、毛布の中に逃げてしまう。


     癇癪を起こすのにも慣れていない子どもは、次の日から全てに嫌を突きつける。ダメだと突っぱねても、宥めても、褒めても、叱っても。天は、いやとしか言わない。なんとかご飯だけは食べてくれと一時間かけて説得して、薬、と口にするとまた布団に潜り込まれてしまった。
     薬は飲まなくていいからと言っても不信感は拭えないらしく、結局顔を見ることは叶わなかった。朝からひどく疲れてしまったけれど、話を聞かなければ。これは、百に任せるものではない。

    「天」
    「やだ」
     病室に向かえば、天はまた布団の中に潜り込む。悪化するからしないで欲しいのが本音だが、逃げ場がそこにしかないと思っているなら止められない。ただ名前を呼んだだけだったのに、まさか拒絶で返されると思わなかった。
    「お話ししようよ。何も持ってないからさ」
    「やだ」
     毛布の中から聞こえる声は小さくて、天からのSOSはさらに小さい。昨日から百先生が治療を停止してくれていたけれど、体調は良くなっていない。精神的なものもあると思う、と言われたけれど、

    「っ」
    「捕まえた」
    「やだ、しないって言った!」
     ざかざかと手足を振り回す天はほとんど恐慌状態に陥っていて、落ち着いてと声をかけながら荒れそうな呼吸を促す。
    「天、俺今何も持ってないよ。お話だけ」
    「もうしないの、痛いのやだ」
    「うん。だから、お話しよう?」
    「何の」
     怯えたような、恐れるような、諦めたような。暗くて悲しい声に、胸が痛む。こんな声をさせてしまったのは、自分だ。
    「天のお話」
    「しない」
    「最近天とお話しできてなかったからお話ししたいな」
    「ない」
     暴れたせいで荒れた呼吸には微かな喘鳴が混じり出している。バイタルを取りそうになるのを自分で呆れながら、天の背中を何度も摩る。
    「天」
    「っもうやだって言った! かえる!」
    「あ、天っ」
     抱きしめていた腕から抜け出した天は、ぱたぱたと扉を開けて外に行こうとする。ご飯もあまり食べていない天は、すぐそこで力尽きてしゃがみ込んでしまっていたのだけど。
    「天、」
    「なんで……? かえりたいよ、もうやだ」
    「天……」
    「どうして? なんで帰れないの? もういっぱい頑張ったよ、頑張れっていうから頑張ったの。もうわかんないよ」
     ひくひくとしゃくりあげながら悲痛な叫びをこぼす天は、小さな手に目一杯の力を込めているようで、握りしめられた腕がどんどん白くなって行く。癇癪の起こし方を知らない子どもは、他人にあたるのも下手くそだ。
    「少し、外の空気吸おうか」
    「うぅ〜……」
     強引に抱き上げて、不器用に跳ねる背中を撫でる。苦しいだろう。それ以上に、辛いのだろう。
     天を守るために白い箱庭に連れてきたはずが、気がつけば天の羽を毟る鳥籠に成り果てていたらしい。腕の中でしゃくりあげる天は、もう限界を訴えていた。

    ✴︎

    「えっ」
    「……すみません」
    「いや、うん。結構しんどそうなのはわかってたけど、そっかぁ……。もう無理そう?」
    「下手したら数日で爆発しそうです」
    「エッあれ以上?」
    「あれ以上、というか、多分、次は心が……」
    「あーらら……。そっかぁ。うーん。ううん……」
     便宜上、天の主治医となっている百に一時帰宅の許可を、あわよくば一時的に治療の場を自宅に戻せないか打診をすれば、難しそうな返事をされる。自分でも気持ちは理解できるし、渋ってくれるだけ優しい。他の医師であれば、何を言っているのだと一蹴されて終わりだ。
    「ちょっと様子見に行こうかな。龍も一緒に来てくれる?」
    「、はい」
     立ち上がった百の後をついて歩くのは、研修医時代ぶりな気がする。
    「天〜」
    「っ」
    「あらら、かくれんぼ?」
     ベッドの上でぼんやりとしていた天は、ノックの音にすら気が付かなかったのか、呼びかけにハッとすると毛布に潜り込む。熱のせいで寒がるから、分厚い毛布をもらっているようで、毛布の中で震えていた。
    「天、お話し」
    「しない!」
    「わお、珍しい」
     普段は笑って何もかもを受け入れる天が、本当に珍しく声を張り上げて返事をしたからか、百は目を見開いてこちらを見てくる。ある程度リフレッシュできたかと思ったけれど、燻った苛立ちはそう簡単に脱せないらしい。何も言い出せなかった頃よりはマシだが、一度拗れるとここまでひどくなるのだと理解して、今後はもう少しこまめに様子を見ようと心に決める。
    「天、」
    「もうやだって言ってるの」
    「おうち、帰りたい?」
    「……帰れないのに」
    「帰れるよって言ったら?」
     それまで毛布の中から返事をしていたのに、百の言葉を聞いて天は顔を出す。また泣いていたようで、目尻は赤く染まっていた。
    「かえれるの」
    「帰ったら、お薬頑張れる?」
     天はその言葉を聞くと悲しげに眉を寄せる。治療からは逃れられないのだと知って、さらに絶望してしまっただろうか。
    「……わかんない」
    「わかんない?」
    「頑張らなきゃいけないって、わかってる。けど、でも、やんなきゃって思ったら、できない」
     辿々しく自分の言葉で口にした天は、少しずつ顔を俯かせる。
    「、おうちかえっても、がんばれないかも」
     囁くような小さな声は、紛れもなく天の本音だった。思えば、引き取ってからずっと頑張らせ続けてしまったのかもしれない。それまでだってずっと孤軍奮闘していたのに、病棟に来てからはもっと一人にしてしまった。
    「そっかぁ。教えてくれてありがとうね」
     はらり、はらり。音もなく涙をこぼす天を見て、百もわかったらしい。いつも以上に優しい笑みを浮かべると、天と視線を合わせるように百はしゃがみ込む。
    「一回、お家帰ろうか。ちょっとゆっくりしよう。いっぱい頑張ったから、ちょっとだけ休憩」
    「きゅう、けい?」
    「うん。ゆっくり休んで、また頑張れそうになったら頑張ろう。お薬はちょっとだけ出すけど、頑張れる時だけでいいよ」
    「いいの」
    「いっぱい頑張ってたもんね。百先生からのご褒美」
    「おうち帰っても、怒られない?」
    「誰も怒らないよ」
     天の質問に一瞬息を呑みそうになったけれど、百がそういうと、ようやく天は緩く顔を上げる。
    「ほんとう? ほんとうに、帰っていいの?」
    「うん。いいよ」
    「っ、……っ」
    「頑張ってえらかったねぇ。おうちで龍と楽にいっぱい甘やかしてもらおうね」
     ここまでしても声を上げられない天が可哀想で、衝動的に腕の中に閉じ込める。うまく甘えられないなら、自分たちの手で甘えさせてやるしかない。ここまで頑張ったことを全力で讃えてやりながら、いっぱい甘やかしてやろう。もういい、と天が拒否するまで、たくさん。押し殺された嗚咽の分胸が痛んだけれど、今はただ、天の涙が止まるのを祈った。

     
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