遠い日の約束村のはずれの森には入ってはならない。
いつからかそんな噂があった。事実、普段見かけない魔物が住み着いていたり、昼なのに真っ暗なほど生い茂った木々は、身近にある植物とは異なっていた。奥に進めば霧が立ち込め、方向感覚が失われ、いつの間にか入口に戻ってしまう。
村民からの要請で調査隊が都から数度派遣されたが調査隊は全て気を失い入口付近に倒れているのか発見された。
いつしか人々は立ち入るの恐れ、噂だけが残った。
森の奥には黒衣の賢者が棲んでいる。
大切なものを護っているから、人々を寄せ付けないのだーーー
「生誕祭、誰と回る?聖なる丘での誓いの儀式のパートナーが見つからないよぉ」
「ーーーと回る約束をしたんだ、良いでしょ?」
楽しげな少女達の横を無言で通り過ぎ、私は小脇に抱えた本を読む為お気に入りの場所、村のはずれへと急いだ。
目印の交差して生えている木々の間に体をねじ込む。小柄な自分ごやっと通り抜けられる様な隙間だ。あと何年もしたら通れなくなるだろう。今だけは人より小柄な体躯に感謝しつついつものように様に森を進む。
木漏れ日を抜けるとぽっかりと開けた庭の様な空間が現れる。いつもの切り株といつもの岩に腰掛ける、いつもの黒衣の男。古びた墓石のそばで今日は何か古い書物を読んでいる様だった。
「魔王」
私は男から少し離れた切り株に腰を落とすと言った。
「……魔王ではない」
ややして男からの返答がある。目線は書物から一瞬も離さない。
「生誕祭に魔王は行かないの?村では1ヶ月前から持ちきりだよ」
私は男の返答を聞いていないかの様に続けた。
男もいつものことと気にした素振りもない。
「ふ〜ん…」
話題を振っておいて瞬時に興味を無くした私は、目的の本を開き読みはじめた。時降り心地よい風が通り抜ける。
偶然この場所を見つけ、男の存在か現実と知ってからもなぜかこの場所へ通い続けた。本を読んでいるとからかってくるうるさい連中にうんざりしていたわたしには静かな空間が心地よかったし、男の放つ静謐さに興味を惹かれたこともある。
「あそこへ行っても意味はない。俺には大切な約束がある」
耳に心地よい男の声が脳に到達するまでにややしばらくかかった。
「え、今のさっきの回答?聖なる丘の大勇者のお墓だよ?…意味はあるんじゃない?レキシテキカチとか」
「あそこには何も残ってはいない」
「…まあ、墓荒らしとかあったって聞いたことあるけど。棺には辿り着けなかったとか」
まあ、自分達の世代は生誕祭に魅力を感じているわけではない。なにしろ大勇者など伝説の御伽噺と変わらなかったから。最早ただのイベントでしかない。
私自身はレキシとしての興味はあったがその程度だ。かの大勇者様については資料も少なく、人となりが知れない。各地にある伝説をまとめた手元の本を読んでも。
「じゃあさ、祭りの日花冠を魔王のために作ってきてあげる、似合うと思うんた」
半目でチラリとこちらを伺う男を見ながら、
「…ちゃんと『そのひと』の分も作ってくるから、さ」
ふん、と鼻を鳴らした男の目線は手元の書物へと戻っていった。
私は知っていた。この男の大切なものはこの世にはないものであることを。
聖なる丘の墓にはメガネが安置されている笑
モブ少女が祭りの朝ハドラー様と先生用に青い花の花冠を二つ作ってプレゼントしてあげる。
ハドラー様花冠似合うと思う。
転生大勇者様とハドラー様二人で花冠のせあって結婚式じゃん…☺️