ただ土銀がいちゃいちゃしてるだけ丑三つ時、賑やかさを増す歌舞伎町とは対照的に、静まり返った万事屋の格子戸をコンコンと控えめにノックする音が響いた。
この時間に来る来客は大方予想はつく。
銀時は溜息をつきながら玄関へ向かい、施錠していない不用心な格子戸を拳一つ分ほど開き、顔を覗かせた。
「こんな時間に何の御用ですか?営業時間ならとっくに過ぎてますけどー」
「わりぃ、寝てたか?」
久しぶりに聞く落ち着いた低い声や漂うタバコのにおいに不思議と体温が上がる。
「今寝ようとしてたとこだけど…」
「そうか…ちょっと顔が見たくて寄ってみたんだ。ついでに土産買ってきた。冷蔵庫に入れとけ」
少しだけ開けた戸を更に開き、白い小箱を受け取る。
「じゃあな。ちゃんと玄関の鍵、閉めて寝ろよ」
黒い人影は優しく微笑むと、子供に言い聞かせるかのように銀時の頭をぽんぽんと軽く叩き、踵を返した。
「土方!」
数歩先へ進んでいたそれは、自分の名前を呼ばれると振り返り、言葉の続きを待っている。
「…中、入ってけよ」
台所へ行き冷蔵庫からギンギンに冷えたビール一缶と、いちご牛乳を取り出す。
居間へ戻り、ソファーへ腰を下ろす土方の前にビールを置く。
「仕事終わったんだろ?」
「あぁ」
隊服姿の土方は、上着を背もたれに掛けると首に巻いていたスカーフを解いた。
先程は気づかなかったが、明かりの下で見ると目の下に濃い隈が出ている。
しばらく会えなかった間、何日間も睡眠時間をけずって仕事に徹していたのだろう。
こうして会いに来てくれるのは嬉しいが、この時間少しでもいいから寝て欲しいものだ。そう口にしても聞かないだろうことは明白な上、自身が恥ずかしいので口には出さずにおく。
先程貰った小箱を丁寧に開封すると、中には大粒のいちごが乗ったショートケーキといちごタルトが二つ入っていた。
「美味そう!いただきまーす」
ショートケーキを手で掴み、一口噛み付くと、いちごの酸味とクリームの甘さが口の中で広がる。
「美味い」
「そりゃあよかった」
土方は微笑み、缶のプルタブを開けると口をつける。
ビールを喉へ流し込む度に動く喉仏が妙にエロくて、思わずケーキを食べる手を止め、舌なめずりしながら見入っていた。
土方が缶を机に置く音で我に返り、恥ずかしさから慌ててケーキにかぶりつくと、スポンジが食道に詰まりかけて思わずむせる。
「おい、大丈夫か?ほらこれ飲め」
土方が急いで側へ寄り、いちご牛乳を差し出しながら背中を撫でてくれた。
いちご牛乳を受け取り、急いで飲むと幾分か楽になる。
「急いで食うからだ。また買ってきてやるからゆっくり食え」
「お前がなかなか来なかったせいでスイーツに飢えてたんだよ」
まさか土方の飲む姿がーー喉仏がエロく、気恥ずかしさから慌てて食べたとは言えず、もっともらしい言い訳を口にした。
「悪かった…次は早めに色んなスイーツを手土産に来ることにする」
「ん」と短い返事を返すと、最後の一口になったショートケーキを口に放り込む。
指についたクリームを念入りに舐め、二個目のいちごタルトへ手を伸ばすと、隣で土方がやけに見つめてきているのに気づいた。
「なに?欲しいの?銀さん優しいから一口だけならやってやってもいいけど?でもお前さん甘いもの食べないんじゃあないっけ?」
「一口だけ貰う」
「どうぞ」
珍しいこともあるもんだと思いながら、手にしていたタルトを土方の口元に近づける。
しかし、土方の口はタルトではなく銀時の唇へとやってきた。
ペロリと舌で銀時の唇を舐めると、下唇をはむはむと甘噛みしてくる。
へ?っと間抜けな声をあげる際にできた少しの隙間へ器用に舌を入れ、呆然として固まっている銀時に自らの舌を絡め、吸い上げる。
久々の触れ合いに身体が甘く痺れ、手にしていたタルトが床へダイブし、べシャリと悲しい音をたてると、交わった唾液が水飴のように糸を引きプツリと切れる。
肩を上下に揺らしながら手の甲で唇を拭う。
「てめぇっ!何しやがんだ見てみろ、最後に取っておいたタルトが食えなくなってるだろーが!」
「やっぱりケーキは甘ぇなぁ。あ、ビターチョコのケーキがあったから次はそれにするか。それならいける気がする」
「ねぇ、聞いてます?土方くん?ってか何する気ですかねぇ、聞いてんのかおい!聞けってェェ!」
しばらくぶりのスイーツも程々に、銀時は土方の手によって布団という皿へ押し倒され、美味しく頂かれた。
それ以来、土方は手土産に甘いスイーツ類と必ずビター系を一品くわえて持ってくるようになった。