自問自答「つまりねぇ、人生には不幸か、貧乏か、あるいは病気が必要なんですよ」
ズ、と。行儀悪く麦茶を啜って、男は投げ出すように言った。
全身がマッ黒で、ヒラヒラとした和装の上着から除くシャツと肌ばかりが白く、何とも気味の悪い男だった。
日焼けに色を変えた畳に座布団もなくちょこんと座り、背筋を伸ばして麦茶をちみちみと呑む姿は奇妙に背景から浮いている。
ジィジィと耳障りな音を立てる蛍光灯に、羽虫がぶつかる音ばかりが奇妙にそらぞらしく鳴いていた。
アドラが浪岡翠という男に出会ったのははや数ヶ月も前のことである。
昔馴染みの店で飲んでいたら相席を求められ、相手が酔い潰れた所を店長に押し付けられた。家を聞いてもむにゃむにゃ言うから、仕方なく自宅に連れ帰って寝かせてやって、翌朝ぼんやりしてる所に朝食を与えて家に返した。
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