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    detjes_8238

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    99課での小話。東さん視点

    八杉4 九十九課のあるフロアに着くと、ガラス越しに見える光景に思わず「ああ?」と声が出た。 
     室内にはまだ灯りが着いていないが、東側に位置するキッチンの窓からは朝陽が差し込んで応接用のテーブルとソファまで光が届いている。
     その明かりに照らされたものに眉を顰めた。
     PC前に座る所長は相変わらず何やらカタカタとキーボードを叩いていて、入口付近の応接スペースのソレには気にも留めていないようだった。
     相変わらずのマイペースっぷりと集中力だ。
     足が止まってしまった俺をよそに、先に事務所内に踏み込んだ兄貴が漸く件のものに気付いて足を止める。
    「あ?何だこりゃ」
     兄貴が見下ろす先、三人がけのロングソファには、だらりと手足をはみ出させて惰眠を貪る者がいた。
     それも一人じゃない。
     仰向けになって眠る男と、その上にうつ伏せで寝そべる男の二人だ。
    「この狭いとこになんでこんななってんだ?こいつら」
     仰向けで眠る八神は体の三分の一がソファからはみ出ているし、上でうつ伏せてる杉浦も片足が落ちかけている。
     辛うじて落ちないのは、杉浦の背を覆っている毛布ごと抱えるようにして八神が腕でキープしているからだろう。
    「おはようございます、お二方。八神氏たちは昨晩遅くまで調査で出ておられたのですよ」
     椅子ごとくるりと振り返った九十九が言った。
     聞けば、召集がかけられた件とは別に急ぎの依頼が入り、誠稜に顔を出しに行くために前乗りして来ていた八神が杉浦に同行して、案件を片して戻ってきたのが今朝方だという。
    『もう無理、部屋に戻る余裕なんてないよ…』
    『俺も限界……目が開かねぇ……』
    『八神さんずるいよ僕もここで寝たい』
    『早いもの勝ち……うぉ、腹に乗るなよ腹に……!』
     二人してぐだぐだと小競り合いしながらソファの争奪戦をしているうちに電池切れを迎え、そのまま寝落ちして今に至るらしい。
     話に聞くだけでその様が安易に想像出来てしまい、眉間が寄る。
     うちの店でもよく見る光景だ。
     ガキか。いやどっちもガキっぽいしガキだったな。
    「にしたってよう、いくらなんでも暑苦しいっつうかなんつうか……」
     別々に横になりゃいいのに、とぼやく兄貴に概ね同意だったが、九十九は八神と杉浦を見て、
    「何と言いますか……お二人は年齢差を感じさせないくらい仲が良いですからねぇ。そうしている姿はとても微笑ましく感じます」
     ねぇ、とにこにこ笑いかけてきた。
     なんで俺の方を見るんだ、とたじろぐ。
     じっと見つめられてしまっては聞かなかったことには出来そうにない。
    「いやまあ……そうか?や、どうかわかんねぇよ……」
     何となく含みを感じたが、眼鏡の奥の瞳は細められてしまって感情は読み取れない。
     適当に濁したことを気に留めずに、九十九はさて、と続けた。
    「そういうことですのでお二人にはもう少しお休みいただいて……海藤さん、八神氏たちが起きる前に先にこちらから片付けてしまいましょう」
    「お?ブリーフィングか!」
    「ええそうです。こちらを見ていただきたいのですが」
     呼ばれた兄貴が九十九に向けられたPCを覗き込んだ。
     話し始めた二人を横目に、俺は空いている反対側のソファへ腰を落とす。
    「……微笑ましいだってよ」
     重なり合って眠るかたまりたちは返事を寄越さない。
    「オイ、起きてんだろテメェ」
     エレベーターがフロアに着いた音が聴こえた時点で、八神はもうとっくに目を覚ましているだろう。
     現に、聴こえる寝息は杉浦一人分だけだ。
     けれど、俺の言葉は聞き流して寝たふりを決め込むつもりらしかった。
     指先どころか瞼すらも動かさない。器用なもんだ。
     俳優にでもなれそうだぜ、と思う。
     煽りには乗らない。だが杉浦の眠りを妨げないように細心の注意を払っているのは、支える腕が物語っている。
     よくやるよ、と鼻白んでいると、杉浦が僅かに身じろいだ。起こしてしまったかと身構える。
     寝言のようなものをごにょごにょ言いながら、もぞもぞと手を伸ばして。
     何かを探してさまよった手が八神のジャケットを捉えると、胸元に甘えるように頬をくっつけた。
     そして──。
    「ん……やがみ、さん……」
     ずいぶんと甘い声で、八神の名を呼んだ。
     どんな夢を見ているのかなんて、口にしなくてもわかる。考えるだけ野暮というものだ。
     まったくもって幸せそうなツラだ。
     口の中が甘ったるくなってきた気がする。
    「……やってらんねぇよ」
     朝から胃にくるんだよテメェら、と吐き捨てて、俺は据わりの悪さを誤魔化すようにソファへと身を沈めた。


     隠しきれずに緩んだ口元は、まあ、見なかったことにしといてやる。
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