八杉 37「ねぇ見てこれ」
テレビを観ながらビールの缶を傾け、値引きされたお節の残りを摘むという、少し遅いやや怠惰な正月を過ぎた日の夜。
寝室に行ったっきりしばらく戻って来なかった杉浦がようやくリビングに現れた──のだが、その出で立ちを目にして、俺は固まった。
「……」
「八神さん、ビール口から溢れてるよ」
「やべ……」
呆けてるうちに垂れてしまっていたビールを慌てて手の甲で拭い、改めて杉浦の姿──正確には身に着けているものを凝視する。
「急にどうした、それ」
「これねぇ、実は……」
杉浦が着ているのは、ふわふわのチューブトップ(というらしい)ともこもこのパンツ、これまたふわふわのルーズソックスのようなものだった。
全身真っ白でその三つだけでは何が何やらな代物だが、頭につけた大きな長い耳のカチューシャでそれが何を表しているかを悟る。
「……うさぎ……?」
「正解。てか、それ以外ないよね」
カチューシャを触りながら言う杉浦に同調しつつも、おまえはこれをかったの?とつい疑問を口にした。多少動揺していたのは否めない。
「まさか。さすがにこれを買う勇気はないよ」
よかった。杉浦にコスプレの趣味があったなんて聞いたことがない。いや多少のアレソレは試してはいるけども。
杉浦曰く、夜の営みに必須の避妊具とローションをアダルトショップで購入したらしい。年末だからか愛用しているメーカーの福袋なるものが発売されていて、深夜と疲労のテンションで思わずポチってしまったと。
年明け前に届いたは良いが、仕事の多忙さからついさっきまで存在を忘れていて、部屋で段ボールに蹴つまずいて思い出したんだとか。
「そしたらこんなのがおまけで入ってたってわけ」
卯年だからウサギのコスチューム一式って、なんの捻りもないよね、と笑いながら杉浦が膝に乗ってきた。
「で?それを着ちゃったのか」
「そう、着ちゃった」
「お前、酔ってるんだろ」
「酔ってないよ〜」
「おい、」
「へへ……」
積極的に口付けてくる杉浦の、咥内で遊ぶ舌を甘噛みしたり吸って応えてやりながら、ゆらゆらと太腿の上で揺れる尻に手をかける。
杉浦は身軽な動きをするだけあって無駄な脂肪がなく、ほどよく筋肉のついた体だ。なのに、尻は小ぶりながらも弾力と柔らかさを兼ね備えていて触り心地が良い。とても。
てのひらに吸い付くような感触は、ずっと触っていたくなる。
俺を無限に魅了するまろい双丘をこの手に収めようとした時だった。それを阻もうとする何者かに行き当たる。
「ん??」
ちょうど、触り心地のいい張りのある尻が俺を受け入れる場所だ。
何かこう、ふさふさしているような。
「うん??」
ふさふさ、という感触に疑問を抱いて首を傾げると、「ふっふっ」と杉浦がほくそ笑んだ。
「なんだこれ」
「あっ、ちょっ……ンン」
強めに握れば、やたらとかわいらしくエッチな甘い声が杉浦の唇から溢れる。
「もう、優しく触ってよ」
咎めるにしては優しい口調の杉浦は、唇を尖らせながら俺の手を導いた。
「挿れるの、ちょっと恥ずかしかったんだから」
見て、と請われて肩越しに覗き込むと、尻の間にはふわふわの白くて丸いファーがある。
正解に言うと、中に挿入っている、だろうか。
「かわいいでしょ?ウサギの尻尾付きなんだよ」
さわって?とねだる声に応えて、俺は尻尾に少しだけ触れた。その僅かな刺激だけで杉浦の内腿が震える。
「ね、しよ、ヒメハジメ」
「……やぶさかじゃない」
いいでしょ?とかわいらしく唇を食む杉浦の瞳で揺れる期待の色を見つめながら、俺はに、と笑ってうなじを引き寄せた。