八杉 39 抑えきれない期待や悦びで足速だったくせに、僕の足はぴたりと歩みを止めた。
週の始めだからか人もまばらな、たくさんの店が並ぶ繁華街の一角。そこに視線が釘付けになったまま。
一見、居酒屋には見えないような落ち着いた装飾の軒先で煙草を吸っているのは、よく見知った人で、今日約束している相手。
最初に出会ってから六年も経って、背中を追うと決めてからもう三年もそばにいて。
その間に深い仲になった、僕の大切な人。
いつも僕に柔らかな表情を向けてくれる八神さんが、春の夕暮れのぬるい風を受けながら空を見上げてる。
何だか寂しげに見えて、けれど、どこか艶があって。
付き合いはそこそこ長いけど、見たことのないその横顔に、僕の心臓は落ち着かなくなってしまった。
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