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    detjes_8238

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    八杉 CP30日チャレンジ3

    八杉 3.ゲームをする/映画を観る3.ゲームをする



    「ぼくおうさまー!やがみさーん!ひざにのりたーい」
    「はいはい」
    「あとはねー、ずっとこうしてて」
    「ん、いいよ」
     一体だれがこんなモンを始めようなんて言ったんだったか。
     これ以上ないくらい眉間に皺が刻まれている自覚がある俺は、酒をあおりながら舌打ちする。
     その言い出しっぺは、今現在自分の隣で半裸で大いびきをかいていた。それが敬愛する兄貴でなかったら胸倉を掴んで揺さぶってるところだ。
    「みてーひがしさんすっごいかおしてる」
     指を差してけらけらと笑う杉浦の言葉に、うるせえ、とがなる声は小声になってしまう。嘆かわしい。
     だが酔っ払いは相手にするべきじゃない、と理性が抑えてた。
     アルコールやつまみを持参してのささやかなはずの飲み会が催されていたこの八神探偵事務所は、今や甘ったるい空気と澱んだ空気が渦巻いている。色にするならピンクと黒か。
     もちろん、澱んだ空気の出どころは俺の周りだ。それはもう濁りきってるに違いない。
     際限なく漏れ出る溜息は本日何度目かわからなかった。
     一生分がすでに出し尽くされて、もしかしたらそのうち魂が出て行くかもしれねぇ、とすら思う。
     こめかみが鈍く痛むのもアルコールのせいじゃない。
     それもこれも、目の前で繰り広げられている、頭を抱えたくなる茶番のせいだった。


     飲み会での近況報告という名の世間話なんてものは早々にネタが尽きるのが約束ごとだ。
     一時間もすればつまみはほとんど食べ尽くし、酒も空瓶や空き缶で溢れて手持ち無沙汰になる。
    「久々にアレでもすっか!」
     そんな時に、誰よりも先に気分良く酔った兄貴が、コンビニの袋に入っていた割り箸を取り出してにかっと笑った。
     嫌な予感しかしない。八神もええ、と声を漏らした。
    「海藤さん、アレで勝てたこと一度もないのにするの?」
    「いいんだよ!こういうのは勝ち負けよりもやるのが楽しいんじゃねぇか!なあ東ぃ」
    「ははは、まあそう……すかね」
     八神が笑うと、兄貴が不貞腐れたように言って俺の肩を組む。
     いつもなら八神テメェ兄貴に失礼な事言うんじゃねぇ、と歯を剥くところだが、今回ばかりはおおむね八神の言葉に同意だ。
     松金組の構成員時代から、飲み会やキャバクラで遊ぶ時に、兄貴は酔うと必ずあるゲームをやりたがった。
     人数分の棒さえあればできるもので、印のつけられた物を引き当てれば好きなように他人に命令できる、アレだ。
     きっともう廃れていて名称すら「何それ」扱いされるだろうゲームを、兄貴は未だに気に入っているらしい。
     俺たちが連呼するアレが何かわからずに「アレってなんなの?」と眉を寄せていた杉浦は、やはりと言うか、名称を聞いても首を傾げていた。
     ジェネレーションギャップってやつだ。
    「聞いたことはあるけどやったことないからわかんないよ、僕」
    「いやまあセクハラになりかねないから若い子たちはやらないんじゃない?」
    「え、何それ。そんな危ない遊びなの?」
    「危ないって言うか……」
    「っしゃできたぞ!」
     変なことさせる気?と怪訝そうな表情を浮かべてる杉浦をよそに、せっせと一人で準備をしていた兄貴が高々と割り箸を掲げながらソファから立ち上がった。
    「ほらお前らジャンケンするぞ」
    「ジャンケン必須なの?海藤さん連敗しない?」
    「たぶんする」
     だよね、とコソコソと話す八神と杉浦を前に、兄貴のボルテージだけがダダ上がりしていく。
     気分が乗り出したら止まらない兄貴の音頭で、そのセクハラスレスレなアレはこうして幕を開いたのだった。


     で、結局。
     やはりと言うか、圧倒的にジャンケンの弱い兄貴は一度も王様になることはなかった。
     常に命令される側で、俺を俵担ぎしたりハイボール一気飲みをしたり、最終的には早脱ぎを披露するうちに酔いがまわってしまったのか、今はソファに上半身だけを預けた絶妙なバランスを保って寝ている。
     そもそも、本来は四人という微妙な人数でするモンじゃない。
     それに、兄貴が落ちた後はさっさとやめちまえばよかった。なのに何でまだ続けているんだと今更我に返っても、時すでに遅しというやつだ。
    「東さんやらないの?引き退っちゃうの?命令されるのが怖いの?」
    「ざけんなよやってやろうじゃねぇか」
     杉浦に散々煽られてやめ時を読み違えた俺が悪い。
     これは認めるしかない。なんだってこうも煽るのが上手いんだこいつは、とこめかみを揉む。
     三人で均等に引き当てていた当たりを杉浦が独占し始めたあたりから、ゲームバランスはあっさりと崩壊した。
     よく考えたら杉浦はジャンケンが異様に強いのだから、こうなることは予想出来たはずだ。
     むしろそれまで一人勝ちしていなかったことを考えると、たまに後出しでわざと負けていたんじゃないかとすら思えてきてしまう。
     十分にありうるし、やりかねない。
     その杉浦はと言うと、酒をあおるうちに酔ってべろべろになったのか、次第に八神にオープンにべったりくっつき始めた。
     逆に俺と同じくほとんど酔っていない八神は、杉浦の要望に二つ返事で膝に乗せたり抱きしめたり、頭を撫でてやったりと好き放題していやがる。
     杉浦が要望してるはずなのにそう見えるのは、八神の顔がだらしなく緩みきってるからだろう。どさくさに紛れて腰を抱くなと怒鳴りたくなる。
     俺一人がずっと罰ゲームをさせられているようなものだ。やってられねぇ。
    「……はー……さっさと意識飛ばしちまいてぇな」
     今日に限ってどれだけ飲んでも酔えない自分を呪いながら、俺はいちゃつくバカどもを虚無顔で見つめるしかなかった。



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