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    detjes_8238

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    八杉 30日CPチャレンジ6

    八杉 30日CPチャレンジ66.衣装交換



    「八神さん、脱いで」
    「……は?」

     事務所に来た途端、突然俺をソファに押し倒したかと思ったら、杉浦が思い詰めたような真剣な表情でそう言った。
     頬が僅かに赤いのは、いけないことをしようとしていると自覚しているからだろうか。
     俺の反応が薄いことに焦れたのか、杉浦はかちゃかちゃと性急にベルトを抜いた。
     最初の頃は俺のTシャツを脱がせることすら躊躇っていたのに、いつからこんなに積極的になったのか。
     呆気に取られている俺をよそに、杉浦は流れるようにボトムのボタンを外そうと試みる。そこでさすがにその手を止めた。
    「待てって。いきなりどうしたんだよ」
    「いいからはやく。誰か来ちゃわないうちに」
     そういう雰囲気になったとしても、杉浦は「ここ職場じゃん。そういうことしちゃったら、来るたびに僕も八神さんも気まずくなるでしょ」と言って、キス以上のことは絶対にしなかったのに。
     急にどんな意識の変化があったんだ。
     ムードがないとか情緒がないなんてことは言いやしないが、あまりにも唐突すぎる。
     俺の静止を気にも留めずに、杉浦の手が懲りずにボトムのファスナーに触れようとした。
     嘘だろ、本気だ。
     大胆だな。なんて悠長なことを考えている場合じゃなかった。
     幸い、俺に服を脱がされることはあっても、トップス以外の俺の服を脱がせた経験がほとんどないからか、杉浦は俺のボトムのボタンやファスナーを外すのに手こずってる。
     今、時刻は九時を半分ほど過ぎた頃だ。
     いつ海藤さんが出勤するかわからないし、もしかしたらその前に依頼の客がドアを叩くかもしれない。
     眉を寄せて股間のあたりをごそごそしている杉浦を止めるなら今だ。
     見られるというリスクと積極的な杉浦を天秤にかけて、当然だがリスク回避を優先した俺は、まだボトムを脱がそうと奮闘する杉浦の手を封じた。
    「待て待て。いきなりこんなところでするのはどうかと思うけど」
     そりゃあ恋人に乗られて嫌な気なんてしないけど、と口にした俺に、杉浦が「えっ?」と怪訝そうな表情を浮かべる。
    「……八神さん何言ってんの。何の話?」
    「えっ、何のって……杉浦が脱げって言ったんだろ」
     お前が、俺に、この体勢で。
     一つずつ確認させるように指を差しながら言うと、信じられないことに、どうやら杉浦は俺の腹を跨いでいる自覚がなかったようで、認識した途端に両手を挙げて跳び退いた。
     蛇を見た時の猫のように。
    「ちが、や、ちがくないけど、そうじゃなくて!」
     乱されたボトムはファスナーが半分まで下げられているのに、今更そういうつもりじゃなかったとは。
     もう少しでこんにちはするところだったな、と杉浦の慌てぶりを横目に直そうと立ち上がると、
    「それ!!!!!」
    今度はその半開きのファスナーを指差した。


     コーヒーを飲んで落ち着いた杉浦に話を聞いてみれば、服を脱げと言ったことも押し倒してボトムを脱がそうとしたことも、元を正せば俺の些細なミスが原因だった。
     昨晩杉浦の部屋に泊まった俺は、事務所を開けるために一足先に部屋を出たんだが、着替える時に寝ぼけていて下着のストックが入っている引き出しを間違えたらしい。
     自分の物がストックされている引き出しから下着が一枚なくなっていることに気が付き、杉浦は慌てて事務所に押しかけて。
     俺を押し倒して脱がせようとする、大胆な行動を起こしたのだという。
     さっきキッチンで隠れて確認したら、確かにストックしてもらっている俺のとは違う、見覚えのない下着だったけれども。
    「驚くだろ……まあ俺が間違えたのが悪かったんだけど」
    「ううん、僕が悪いよ。暴走してごめん」
     自分のしたことを改めて認識した杉浦はずいぶんとへこんでいた。驚きはしたけど別にいいよ、と言ったところで慰めになるかどうか。
     それにしたって、と思う。下着一つで何をそんなにテンパったんだ。ストックが全くないわけじゃないだろうに。
     ブランドに疎い俺が知らないだけで、もしもこれが数万もする下着だったとしたら、それは申し訳ないことをしたなとは思うけれども。
    「これ、そんな大事な物だったのか」
     弁償した方がいい?と付け足した俺を見る杉浦の頬が赤くなっていく。
     その様子に、まだこれ以上罪を重ねているのか俺は、と身構える。
    「八神さんが間違えて履いちゃったのはね──」
     次の言葉を待つ俺に、もにょもにょと口籠もりながらも杉浦が紡いだのは、予想を裏切る内容だった。




    「……勝負パンツかー……」
    「んぁ?何か言ったか?」
    「いや、何でも」
    「どうしたんだター坊。ずっとそんな調子じゃねぇか。今日は休んだほうがいいんじゃねぇのかぁ?」
     間違えて履いた杉浦の下着が何だったのかを知った俺が、その日一日使い物にならなかったのは言うまでもない。


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