八杉 30日CPチャレンジ1313.アイスクリームを食べる
「よく入るな。腹苦しくないの?」
「へ?全然?」
これくらい余裕でしょ、と言いながら杉浦はジェラートをぺろりと舐めた。
ベリーとショコラを悩んでたから「どっちも食べればいいだろ」って言ったら、迷うことなく両方オーダーしてたっけ。
杉浦は、四季に関わらず一年を通してアイスをよく食べる。
風呂上がりに食べることを日課にしているらしく、自宅には欠かさないようストックしているらしい。
因みに夏である今は、コンビニのアイスコーナーかと見間違えるほどの量が冷凍庫に詰められている。
昨夜氷を出そうとしてその光景を目にした俺は、思わず「うわっ」て声を出して引き出しを閉じた。
そんなアイス好きの杉浦の一番のお気に入りは数字の入った店名ので、俺にねだる時は高めのカップ入りの物だそうだ。自分で買うのは専らスーパーにあるファミリーパックだという。
曰く、「八神さんの奢りで食べるアイスは最高」らしい。ちゃっかりしてんな、と思う。
「ん〜美味しい」
進入禁止柵に腰をかけながらジェラートを食べてご満悦な杉浦は、さっきからひっきりなしに感嘆の声を漏らしている。
今夜は依頼もひと段落ついて、海藤さんと東、星野くんと九十九といういつものメンバーが集まり、回転寿司でそれなりに食べた。
そのあとはテンダーで少しアルコールを入れ、四人と別れてからは杉浦が「小腹がすいた」というからステーキを食べにいったばかりだ。
食欲がバグってないか?と思ってしまう。
テンダーでカクテルだけでなく乾き物や生ハムも摘んでいたから、ステーキ店を出た時点で俺は限界が近かった。
だけど帰る気ゼロの杉浦は、どこに行こうかと話しながらふらふらと歩き、途中でこぢんまりとしたかわいい店にこれまたふらふらと吸い寄せられて。
閉店準備に取り掛かろうとしていた店に滑り込んで、「八神さんこれ食べたい!」と振り返った。
目をきらきらさせる杉浦と、スタッフの女の子二人の視線を一身に受けた俺は、「ごめんね、まだ時間いい?」と訊くしかなかったわけだ。
まあでも、と唯一胃に入りそうだった缶コーヒーを口にしながら思う。
これだけ幸せそうに食べる姿を見ていると、奢ってとねだられるのも悪い気はしないし、もっと食べさせてやりたくなる。
とは言え、あまりにも無尽蔵に食べ物を入れるから、体とキャパの相談はしてくれよと言いたくはなるけれど。
「八神さん」
「ん?どうし──」
ジェラートをぱくついていたはずの杉浦に呼ばれて振り返ると、冷たくて弾力のあるものがふに、と唇に押しつけられた。
「……奢ってもらったお礼」
深夜でまばらとは言え、まだ人通りのあるところだ。
周りを気にせず口付けるなんて酔っているのかと覗き込む。
けれど、杉浦の眼差しはしっかりとしていた。見つめ合って、微笑む様はいとけない。
甘酸っぱくて美味しいでしょ、と囁く唇を塞ぐべく、俺はわずかに汗ばむうなじを引き寄せた。