ハロウィンとか相談所(1) こないだまで殺人的な最高気温を叩き出していたというのに、九月になった途端に秋の風が吹き始めた。
夏休みの間、バイトだ暇つぶしだとこの相談所に詰めかけて来ていた子供たちも学校が始まり、ようやくいつもの静かな職場が戻ってきたところだった。
「なんつって。お前さん、寂しいんだろ?」
空中に浮かんだエクボはそう言ってニヤリと笑った。
あれだけ毎日賑やかだった相談所には所長の霊幻と悪霊のエクボが二人きり。芹沢もさっき夜学に向かったところだ。
「だぁーれが。ここは託児所じゃねぇんだ。お前もモブと一緒に学校行けば?」
「高校生にもなってお守りは必要ねぇだろ」
「お前がお守りしてたことなんて、一度でもあるか?」
確かに…モブが中学生だった頃、エクボが毎日モブに付いて回っていたのはモブを利用して神になろうという思惑があったからだ。その後一度消えて戻ってきてからは前ほどモブにべったりではなくなった。それは霊幻も同じだったけれど。
今ではエクボはほとんどの時間、この相談所にいる。夜になれば影山家に帰るが、モブが高校を卒業したら?大学を卒業したら?その時、エクボはどうするのだろう?
いっそのこと、正社員として雇ってやるか…と霊幻も考えていたが、いまだ言い出せずにいる。
なんとかタダでこき使えるうちは使っておきたい。
というのは嘘だが、何となく今更そういった話をするのははばかられた。
未来の話や。
本音を明かすことを。
「あーあ…夏休みが終わったら一気に依頼が減ったなぁ…なんかいいイベントはないかな…」
霊幻は意味もなくパソコンを覗き込むと適当にネットサーフィンを始めた。
言っておくがここはネカフェではない。しかも今は就業時間だ。
だが盆シーズンには盛り上がった霊とか関係も、夏の終わりと共に盛り下がり今週は一件も予約が入っていないのだった。
「エクボ〜。そこら辺で誰かにとり憑いて営業して来いよ」
「そりゃ、詐欺だろうが」
「おま…悪霊のくせに」
「俺様は上級悪霊だからな。そんなせこい除霊詐欺なんてやらねぇよ」
エクボにとり憑かせた客を相談所に呼び、エクボを除霊して礼金をせしめようとは霊能力者としていかがなものか。もっとも霊幻には霊能力は欠片も無いのだが。
「はぁ〜。飛び込みでデカい案件入って来ねぇかなぁ?」
パソコンを覗き込んでぼやく霊幻に、そんなにやることねぇんなら駅前でティッシュでもまいて来い!とエクボが発破をかけている時だった。
コンコン、とノックの音がする。
「エクボ!やったぞ!客だ!」
霊幻が揉み手でドアを開けると、そこに立っていたのは意外な人物だった。