ハロウィンとか相談所(14)「どういうつもりはこっちのセリフだ、この零能力者がっ!!」
ドスの効いた声が相談所内に響く。
「あれほど、俺様か芹沢が側に居る時以外は変なモン触んなって言ってるだろーが」
「いや、まさかそんなに危ないモンだとは思わなかったというか……」
依頼主の話と肩のコリ具合から油断していた。いつもどおり呪術クラッシュをしてお終いの筈が、霊幻は小さなすばしっこい悪霊に憑りつかれてしまった。霊能力の無い霊幻にもハッキリと視えるのだから、案外凶悪な悪霊なのかもしれない。客には、なんとかバレずに施術を終え帰ってもらえたが、急遽看板を「本日お休み」に変え、スーツを脱ぎ捨てて体の表面を逃げ回る悪霊を岩塩で潰そうと試みた。と、そこに丁度体を借りきたエクボが事務所に入ってきた。霊幻は事の経緯を説明して、悪霊を食べてもらうよう頼んだのだが、そいつが体中を逃げ回るもんだからイラつく上級悪霊様の前にYシャツのボタン達はあっけなく飛散していったのだった。
除霊の為とはいえ、想い人に体中をまさぐられ霊幻は悪い気はしない。むしろ、艶っぽい声を出さないように必死に耐えた。エクボの節くれだった指先が自分に……普段は触る事の無いような場所に触れている……そう考えたら、ケツの奥の方がジュクジュクとうずきだした。もっと、エクボに触れて欲しい。もっと奥の方まで。自分の体を暴いて、余すことなく噛みついて欲しい。
しかし、霊幻は心の中で首を振る。エクボへの気持ちは誰にも負けないつもりだが、まだ体の準備が整っていない。ただでさえ面倒くさい性格の自分が、セックスにおいてもエクボに面倒くさいと思われてしまったら?そういった事態だけはなんとしても避けなければならない。
最終的に、口にまで追い詰めた悪霊をエクボが霊幻の唇ごと飲み込む。それは、霊幻を夢見心地にさせ昇天させかけたが、なんとか気力で霊幻は現実世界に戻ってきた。そして、その気持ちを悟られないよう、つい喧嘩腰でエクボを突き離してしまった。
「お前さんに何かあったら消されるのは俺様なんだぞ!?」
その言葉に霊幻は胸を傷める。エクボは霊幻を心配してここに居る訳ではない。親友から頼まれているから、仕方なく付き合ってくれているのだ。頭では理解していても、実際に本人から言葉に出して言われると辛い。涙が出そうになるのをなんとか堪える霊幻。
「なぁ、エクボ――」
今、ここで本心を言ってしまえば楽になるだろうか?この恋が報われなくても良い。ただ一つ思い出が欲しいと言えばエクボは抱いてくれるだろうか。そんな考えが霊幻の脳裏をよぎる。