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    ekri_relay

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    書いた人→ブミ

    ハロウィンとか相談所(21)結局この日は出張草刈り作業、出張除霊が一件がメイン業務となり、事務所に戻ってみても大した仕事はなかった。定時に霊幻は事務所を閉め、エクボは借りている身体の男、吉岡の自宅に戻る。最近は茂夫の家に帰る事よりも吉岡の家にいる事が多い。
    身体を借りている理由の一つでもあるが、物事にこだわりを持たず生きる気力に欠けている男とは不思議とウマが合う。吉岡は身体の大きさに反比例して存在感が薄い。そんな男に何故市長が目を付け、霊幻の警護に付けたのか、いまだに誰もその理由が分からずにいた。

    「で、今日は出張草刈りがメイン業務、と。クライアントは悪霊ならぬ雑草の駆除にいたく感謝して霊幻所長に次の仕事の依頼を頼んだ、っと。業務報告はこんなモンかな」

     吉岡がパソコンをカタカタ打ちながら浮遊しているエクボに声を掛ける。警護担当として霊とか相談所で霊幻が業務に就いている間、吉岡は傍に居なければならないが日中の大半はエクボが憑依している。せめて毎日メールで提出する業務報告書くらいは自分で書くと言って、エクボに報告を受けていた。

    「ところで、所長さんと何か変わった事とかなかった?」
    「いつもそれ聞いてくるがそりゃなんだ?霊幻に何かあったか、ならまだ分るが俺様と霊幻に何か変わった事がないってのはどういう事なんだ」
    「うーん。俺にもそれよくわかんないんだけどさ、ほら業務報告の中に入ってんの。『霊幻新隆氏との関係性の変化及び進展等があった場合の報告』って。いつも特になしって書いてたらこの間市長直々にお電話来ちゃってさ。もっと何かないのかって」

     吉岡もこの報告書の妙な部分には気づいていた。そもそもほぼ無職に近い元守衛係で個人のガードマン経験もあるとは言っても、調味市長とは何の関係もない。その市長自らどこから調べたか分からないが、霊とか相談所の所長の警護を任すという事は、どう考えても税金の無駄使いである。普段からエクボが吉岡の身体を借りて出入りしている関係上、所長である霊幻とは顔なじみではあるが個人的な付き合いは全くと言っていい程ない。そこはエクボの管轄だ。
    しかし、この報告書はどうも霊幻と吉岡を個人的に接近させたいような意図が見え隠れする。

    「変化及び進展って、意味が分かんねえな」
    「ホントにね。エクボ、コーヒー淹れて」
    「俺様が淹れるのか!お前は霊扱いが荒いぞ」
    「はいはい。エクボの淹れるコーヒーは美味いからなあ。…あれ、紅茶なんて買ってたかな?俺普段飲まないんだけど」

     狭いキッチンにはティーバックではない少し高そうなパッケージの紅茶が置かれている。

    「あー、それ今日の除草作業の時に作って霊幻に持っていったやつだ。あいつ猫舌で冷たいモンが苦手だからな。常温ティー作ってやったんだ」
    「へええええええ」

     珍しく吉岡が感情をあらわにした。というよりも肺一杯に息を吸い込んで言葉を発するような男ではないのだが、この声は心底感動したという心を端的に表していた。

    「わざわざ?!エクボが!?霊幻所長さんの為に?!」
    「俺様も飲みたかったからだって!あいつの為だけじゃねええ!」
    「へー、でもうち紅茶ないのに?」
    「あいつの為にやってんじゃねぇって言ってんだろ!」
    「いや、エクボ。お前は霊幻所長さんに随分甘いと思うよ」

     何を言ってるてめえ、と毛並みを逆立てて怒る猫のように緑の身体を膨らませてエクボが怒っていても吉岡はどこ吹く風、とばかりに残っていた常温ティーを飲む。

    「うん、これ美味しいねえ。そうだ、これ報告書書けるな」
    「んな下らねえ事書くな!」

     それにしても、とエクボは腕を組み再び冷静な思考を取り戻す。切り替えの早いところは教祖をやっていた事もあり、実際のエクボは感情に引き摺られるだけの悪霊ではない。
     霊幻と吉岡の関係性について、どうも調味市長は何か含みを持たせたいものを感じる。と言うよりも、理由は分からないが吉岡と霊幻を個人的に接触させたいようだ。詐欺師と無職を引き合わせて、一体何があるのか。それと魔法陣や島崎や世界の破滅。
    情報が混雑し、一体何が起きているのか整理がつかない。ただ一つ分っているのは、こうしたおかしな事態は決して調味市だけに関係する話などではないという事、調味市長なんかよりももっと大きな力が背後で動いているという事だった。
     これについては、市長や島崎あたりをもっと突く方がいいだろう。

    ―――それにしても。
    なんでこいつと霊幻が。

     なんともいえない腹の具合のおさまりのつかなさを感じる。エクボの憑依していない吉岡の顔が、どこか気の抜けた茫洋な雰囲気を携えているだけに、余計に自分との差異を感じるのだ。こいつは俺様のガワであって、自分ではないというのに何とも言えない苛立ちのような。

     言語化出来ない感情を抱えたまま、エクボは自分が淹れた常温ティーを飲んだ。
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