ハロウィンとか相談所(30)「こんな事…頼むの、本当に悪いと思ってる、でも、」
「ああもういい、想像はついてる」
振り向いたエクボの視線の先にはこんな異常な環境の中で勃ち上がっている霊幻自身がある。当然霊幻には露出趣味などはないとは分っているから、これが薬の効果である事はエクボも承知していた。嫌悪も怒りもそこにはない。
「あ、エクボ、俺、う、あ、」
「目、閉じておけ。世の中の悪い事は目を瞑ってる間には終わってる」
エクボの手が霊幻の前に落ち、暗示をかけるように目を閉じさせた。
スラックスの前だけを開けて出されて外気に触れていたものを、ベルトごと引き抜いて露わにする。持ち主の心を表すように恥ずかしそうに震えているが、熟れた苺のように先端は赤く滴を纏わせている。
「あ、エク、それ、ダメ、や、あ、」
縋るもののない霊幻の手はエクボの肩に捕まる、お互い立ったままの不自由な姿勢のまま、エクボの手は霊幻のものを擦り上げ、霊幻は腕を回した。熱くて、溶けてこのまま床に崩れてしまいそうだと霊幻が思う程、自分で擦り上げていてもイク気配すらなかったものはエクボの手の中ではち切れそうに育っている。
こんな異常な状態でエクボに手伝わせるなんて。
でも、気持ちいい。こんなに気持ちいい事があったなんて。
悪霊のかさついた大きい手が幹を伝い、見惚れる程美しい指先が鈴口を擦る度、霊幻は声を上げて叫びそうになった。
これは夢ではない。一人寝に自分を慰め、いつかそんな日が来たならと願いながら自らの秘所を慣らす事に勤しんでいた夜の事ではない。
現実にエクボの荒い息遣いが耳元に感じられる。霊幻の吐息も荒くなる。縺れた舌は意味のない喘ぎを紡ごうとするが、唇を噛んで耐える。
これはエクボにとってここから脱出する為に仕方なくしている事。
悦びの声を上げて浸ってはいけない。
「霊幻…声、抑えるな。お前さんの声、聴きてえ」
「え、エクボっ、そんな、あ、あ、ダメ、や、あ、それいじょ、やぁ、俺、」
手だけではなく、エクボの唇が霊幻の耳元に寄せられる。低く腹の奥に染みわたり背筋を震わせるエクボの声が鼓膜を震わせていると思うだけで足に力が入らない。声だけでイキそうだ。
「エクボっ、え、あ」
驚くよりも先に霊幻の唇はエクボのものと重ねられ、舌が入り込んできた。これは除霊の時にされたものなどではない。明らかにセックスの前戯の延長、性愛の為にされているキスだ。深く重なり角度を変えて唇を食まれ、開いた口に舌が滑り込む。歯列を割ってエクボの薄い舌が自分のものを追いかけるように絡んできた。すぐそばに聞こえる水音が、唇からも下からも聞こえて、羞恥心で死にそうになる。
夢でされていたキスとは違う。そこにエクボがいる。自分を抱きしめている。
「ん、ふぅ、あ、エクぅ…俺、俺、も、あ、これ、ダメぇ、あ、そんな、や、」
「お前さん、そんな可愛い声出すのか。もっと、先に知っておけばよかった。俺様はお前の事を何も知ろうとしてなかったな」
「エ、ク、」
「もっと、お前が知りたい。欲しい」
エクボの宣言と共に指は更に激しさを増して霊幻を追い詰める。
腰に溜まった熱い塊が、身体の中心に集まってくる。もう、止められない。
「エクっ、あ、俺、あ、イクぅ、もう、あ、気持ち、いい、エク、俺、あ、」
「飛べよ。飛んじまえ。俺様の手で」
「あ、ああっ!」
白く視界が明滅する。どろりとした熱の塊がエクボの手の中に纏わりつく。白い血、命の塊が死霊の手の中に落ちてゆっくりと床に零れてゆく。勢いも強く、溜めていたわけでもないのに手淫の時以上に放たれた精液は、エクボの手も、霊幻の腹も汚す。
「う…あ、ああ…」
開放の余韻に霊幻の身体が震える。ただの射精感ではない、堰き止められていたものが決壊して一気に放出されたかのような快感と、全身を襲う虚脱感が電気を流されたように身体に纏わりついている。
「エクボ…」
霊幻の呼びかけに再びエクボはキスで返す。言葉以上に深い思いがそこには込められているようだった。エクボの腕に支えられたまま、霊幻はその唇を深く受け入れる。
背後で扉が開く音が聞こえた。