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    銀鳩堂

    ここには草稿をポイポイあげて、溜まったら整えてpixivやカクヨムに移植しています。
    ツイステ二次創作小説の長編案が降りてきたので現在は主にそれを書いてます。
    pixiv⇨https://www.pixiv.net/users/68325823

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    銀鳩堂

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    ヤンクロ第二部26話。
    後のクロウリー学園長=大鴉のディアヴァルの物語、美しき女王編の26話。
    妖精の森から戻ってきたディアヴァルは、ある行動に出た。
    (本文約2200文字/豆知識約430文字)

    #ツイステファンアート
    twistedFanArt
    #ディア・クロウリー
    dearCrowley.
    #クロウリー学園長
    crowleyPrincipal.

    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部26話「山火事」 山が、燃えていた。
     ドワーフ鉱山をようするモルン山。その山麓に広がる豊かな森は今、一面の炎に呑み込まれつつあった。
     パチパチと音を立て熱風と煙を吹き上げる炎の前線が山をい上がってくる。木々の間の下生えを舐めながら這い寄る炎は一見ゆっくりにも見えるが、新たな樹木に取り付くと樹皮をぶらせながら幹を這い上がり、唐突に巨大な炎となって躍り上がる。そうなると生木であってももうあらがうことは出来ない。木々は次々と炎の嵐に揉まれ、呑み込まれてゆく。辺り一帯を焼き尽くす業火は激しい上昇気流を生み、生命を奪う熱風が荒れ狂っていた。
     ドワーフたちは坑道に逃げ込んで水魔法で入り口を塞ぎ、炎を防ごうとしていた。だが、山腹を吹き上げてくる熱風は容赦なく氷を溶かし、逃げ場のないドワーフたちを追い詰めていた。
     山からは、炎と熱の旋風せんぷうに追い立てられた動物や鳥が駈け下ってくる。だが、逃げ惑う彼らを冷徹に観察し、狙う者もいた。空には猛禽が、地上には肉食獣が、炎に追われる獲物を待ち構えている。それは自らもまた業火に呑まれる危険と隣合わせの命がけの狩りだった。
     そして、それら全てを更に上空から見守る影があった。
     漆黒の羽毛。鋭い黄水晶トパーズ色の目。
     大鴉おおがらすのディアヴァルの姿だった。


     数刻前に時は遡る。
     モルン山の向こうから昇る朝日を浴びて、一羽の大鴉が飛んでいた。
     ディアヴァルだ。
     嘴には一本の木の枝をくわえている。その先端には火種がついており、山に向かって吹く風に煽られて赤々と光っていた。
     彼は、森の中に降りると枝を地面に突き刺した。そして自由になった嘴で、よく乾いた針葉樹の樹皮や松ぼっくり、小枝などを集め、松の根元に積み上げた。
     それからおもむろに枝を抜き取ると、積み上げた火口ほくちの中に火種のついた先端を押し込んだ。そして頭をかしげ片目で覗き込む。
     火付きが悪いのを見たディアヴァルは、翼を羽ばたいて風を送り始めた。間もなく火は積み上げた火口に燃え移り、次第に大きな炎になっていった。
     ディアヴァルは少し下がって火を見守り続けた。
     やがて炎はあぶられた松の樹皮に燃え移り、小さくぜる音を立てながら幹の上へとい上がり始めた。
     火勢が強まり松の幹全体が燃え上がるのを見届けて、ディアヴァルは翼を広げ空へと舞い上がった。

     それから彼は、炎も煙も届かない風上の高みからことの成り行きを見守った。
     最初はじれったいほど小さかった火は、いったん燃え広がると手のつけられない大火事になった。
     だが、それこそが彼の望みだったのだ。
     山裾の森は業火に包まれ、昼頃には山麓さんろくを覆い尽くす大火事になっていた。
     ドワーフの坑道の周辺も例外ではなかった。ドワーフたちが昼休みに坑道から出ようとした時、既に出口は火に囲まれていた。逃げ道を失ったドワーフたちは、坑道の入り口を魔法で作り出した氷でふさいだ。しかし、氷はあっという間に溶けて消えてしまう。炎から身を守るためには、魔法を掛け続けていなければならなかった。
     ドワーフたちの苦闘の様子は上空からでもある程度見て取れた。
     坑道の入り口を塞ぐ氷が溶けては現れることで、ドワーフたちが猛火に抗っていることがわかるのだ。
     ドワーフ鉱山を見張りながら、ディアヴァルは思った。
    (ドワーフどもも、獣どもも、みんな、みんな、燃えてしまえ。あの方を殺したお前達みんなをこの炎がさばくのだ……。万一にも炎がお前らを見逃すのなら、俺もお前らを見逃してやる……)
     もう少し粘ることができれば、もしかしたらドワーフたちは助かるかも知れない。果たして彼らは粘り勝てるのか。それは炎の勢い次第だった。
     と、突然、坑道の入り口が吹き飛び、何か巨大な影が現れた。
     上空にいるディアヴァルにまで伝わってくるおぞましい気配。
     彼は、その気配に覚えがあった。脳裏のうりにあの無残な記憶がよみがえる。かつてマレフィセントがドラゴンに变化へんげした時に感じたあの異様なピリピリする感覚と同じだ……。
     巨大な影の前には一人のドワーフがいた。ドワーフと影の間をドロリとしたタールの様なものがつないでいる。そのドワーフはそれまで向き合っていた炎に背を向けると、影と共に背後の仲間たちに襲いかかった。襲われたドワーフたちは坑道の中へと逃げ込み、影がその後を追っていった。
     穴の中までは見ることが出来なかったが、ディアヴァルは上空から監視を続けた。だが、坑道の入り口に氷が現れることは二度となかった。


     山火事は三日三晩燃え続け、山麓さんれいの半ばを焼き尽くした挙げ句に、突然の豪雨で鎮火した。
     ディアヴァルは、まだくすぶる木の残る山火事の跡を飛びながら地上を観察した。美しかった森は見る影もない炭と灰の覆う荒れ地に成り果て、あちこちに逃げ遅れた獣の焼死体が転がっていた。
     坑道の入り口まできたディアヴァルは、地面に降りると用心深く入り口をのぞいてみたが、中は静まり返り、なんの気配も伝わってこなかった。
     彼の復讐は成ったのだ。だが、不思議と何の感慨もなく、深い喪失感だけが胸の底に沈殿ちんでんしていた。
     彼は漆黒の翼を広げると大空へと舞い上がり、モルン山を後にしたのだった。










    【豆知識】放火する鷹と火を運ぶカラス
    オーストラリアには放火して山火事を発生させて獲物を追い立てて狩る鷹が3種類観察されているそうです。
    「放火する鳥」とか「放火する鷹」などで検索をかけるとこの鷹についての記事が何本も見つかりますので、興味のある人はぜひ読んでみてください。
    オーストラリアのアボリジニには、火を使った狩猟を鷹の行動から学んだことを推測できる伝承も残っているとのことです。
    主な参考記事:https://logmi.jp/business/articles/322166

    一方、カラスはというと、日本での報道で、墓場のお供えのろうそくを盗んだカラスがろうそくを落っことしてぼやが出た、というのがありました。
    参考記事:https://www.nikkei.com/article/DGXNASFK1500R_V11C13A2000000/

    放火する鷹だとカッコいいですが、うっかりミスでぼやを出すカラスだと「おっまぬっけさん♪」という感じですね(笑)
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     グリムヒルデは、幼い姫の手を引いて庭園の東屋あずまやをめざしているようだ。片手にはバスケットを下げている。
    「東屋についたらおやつを頂きましょうね」と、グリムヒルデは小さな姫に声をかけた。
    「はい、おかあしゃま!」と元気よく姫が答える。
     ディアヴァルには、その声や口調は、見た感じの年齢より少しばかり幼く感じられた。だがその幼さは姫をより愛らしく見せているとも思った。
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    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部八話「命名」 ディアヴァルが王妃グリムヒルデに背中を撫でられて恍惚こうこつとなっていたその時、部屋のドアがキィっと開く音がした。
     誰か来た?! まさか追い払われたりはしないだろうか。王妃に魔女の疑いがかかってしまったりしたらどうしよう……。
     そんな心配が頭の中を駆け巡る。
     だが、次の瞬間、部屋に飛び込んできたのはスノーホワイト姫だった。
    「おかあしゃま、あのね……」
     そう言いかけた姫の顔はたいそう寂しげで、ディアヴァルはこんな小さな女の子がこんなにも寂しげな顔をするなんて、と胸を痛めた。が、次の瞬間、姫の顔がぱっと輝いた。
    「あっ!! カラスしゃん!! カラスしゃんだ!!」
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    銀鳩堂

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    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部1.5話「王との出会い」(第一話前半はこちら⇨https://poipiku.com/3625622/6059932.html)


     大鴉おおがらすのディアヴァルは、美しい乙女の姿に見惚みほれていた。
     なんと美しい髪の毛。瞳も、顔も、何もかも完璧な美の化身としか思えない。いくらでも眺めていることができる。
     彼のこれまでの生涯で、こんな気持ちになるのは初めてのことだった。
     心臓がドキドキして胸が苦しく身体は熱くなって、クロウタドリの様に歌いたいような、ハヤブサの様に飛翔したくなるような、得も言われぬ心地がする。
     この奇妙な心地は何なのだろう。まるで何か魔法にでも掛かったみたいだ。そう思っているその時、乙女の家の門の前に立派な馬に乗った男が供を何人も連れて通りかかった。
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