「手折りたい」
曰く、『桜の木の下には死体が埋まっていて
その血を吸うからあんなにも妖しく咲き誇るのだ』と
いつだったか読書家の友人が話していた
それを、俺はなんとも冒涜的だと思った
あんなにも美しい植物を構成するものに
人の骸が混ざるなど考えただけで厭だった
咲かせるのは桜自身だ
自然に根付く美しさを信じている愛している
決して折ってはならないのだ
蕾の満開を見たいのであれば
自然に根付く美しさを俺は信じている愛している
散りゆく瞬間さえも
優雅に彩る春の儚い肖像を
ただ愛していたのに
「切り取りたい」
桜の木の下には死体が埋まっているという
何処かの誰かの話をふと思い出したが
どちらにせよ構わないことだとただ思った
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