深まる秋のメモラビリア「ねえ、育斗くん」
女性の声が耳元で君島の名前を呼んだ。君島は驚き、顔を上げる。
「いつまで本読んでるの?」
彼女が座っていたソファにはタイトルもジャンルもバラバラな雑誌が数冊乱雑に置かれ、退屈しのぎにも退屈したことがわかる。
「今日は忙しいと言ったでしょう? それなのに来たのはあなたですよ」
君島は内心ため息をつきながら答える。
「本読んでるだけじゃない」
「一人でゆっくりする時間を取るのも大変なんですよ、あなたにも分かるでしょう。それにしないといけない連絡もまだあります」
「じゃあ連絡早く終わらせちゃってよ」
君島が座るデスクから女性はふくれっつらで離れ、本棚――三分の一ほどは君島が載っている雑誌で埋まっている――を眺める。
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