文化祭だヨ!全員集合!【前回までのあらすじ】
先日の文化祭で催された「190overクソデカメイドカフェ」は大好評のうちに幕を閉じた。パートナーのメイド姿が見たいという毛利の下心によって実現したイロモノ企画と当初は思われたが、長身のメイド達が献身的に世話を焼いてくれる姿は選手達の心身を大いに癒してくれた。特に中学生組の樺地・田仁志・知念はその初々しさで一気に合宿所のアイドルに上り詰めたのだ――
「――という訳で、あの企画を超える出し物を実現させる為にお前らを招集した。文化祭のテッペンを取るのは俺たちだ。覚悟は出来てんだろうなァッ野郎共ッ!!!!」
高い位置で二つに結んだ髪をフワ……と揺らして平等院が叫ぶ。髪が揺れると同時にスコートの裾もフワリ♡と揺れた。両側に控えるのは大曲と遠野。大曲はスコートから伸びる長い脚を見せつけるように組んで、遠野は大股広げて座っているものだから下着が丸見えだった。両者とも艶のある黒髪、センターパーツの前髪に耳の上辺りで二つに結んだ髪型は一見よく似ているが、遠野はストレートヘアで大曲はゆるふわウェーブ。双子コーデにそれぞれの個性も生かしたキュートなアレンジだ。
「髪に癖が残らねぇように、君島がシリコン製のヘアゴムでやってくれたんだよォ~ッ!どーだ?俺が一番かわいいだろガキ共ォ!」
「冗談やめろし……。お頭の綿菓子みてぇなフワフワツインテ見てみろし。なあ中坊共、お頭が一番かわいいだろうが」
普段は高校生たちが使用している広いロッカールーム。招集された中学生たちも毛先をいじりながら、先輩達のスタイルを興味津々に眺めた。
「確かに平等院先輩かわいいやぁ。ふわふわしてからに、ヒゲも何となくかわいく見えてくるから不思議やんに。なー凛」
「大曲先輩もヒゲかわいいやぁ。普段見えねぇオデコが出てんのもドキッとするばぁね」
「やめろし///」
「……ていうか、遠野先輩、脚広げすぎなんだよなあ……。短いスコートなんだからさ、ちょっとは恥じらって欲しいよね……。スコートにボクサーパンツっていうのも、何か雑だし……どうせなら下着にも気を使えばいいのにさぁ……」
「Ah……ニッポンの、KAWAII、ツインテ……。コドモしかやらない、ヘアスタイルだと思っていました。だけどみんなKAWAII。So cute……」
中学生選抜として招集されたのは、甲斐・平古場・伊武・蔵兎座の四人。ツインテールが可能な髪の長さ、なおかつツインテの可愛さに負けないであろう顔面。平等院が直々に選んだ精鋭たちである。
「おいガキ共、おしゃべりはその辺でやめておけ。遊びじゃねぇんだ」
「お頭、時間もそんなに無ぇし、早速進めましょうや」
「ヨッシャァ~~~~ッ!テメェら一人ずつ前に出ろォッ」
「よし、先ずはそこのお前……。それぞれ名乗れ。お前ら中坊の名なんて俺はいちいち覚えちゃいねぇからな」
「ンなこと言ってお頭、実は中坊全員の顔と名前覚えてるし」
「そう来なくっちゃ人の上に立つ男とは言えねぇよなァッ!さすがお頭///」
「やめろ///大曲///遠野///」
じゃれ合う三人を中学生選抜は微笑ましく見守った。普段は近寄りがたいバケモノのような先輩たちも、可愛らしい髪型とスコートを身に付けた事でぐっと雰囲気が柔らかく、親しみやすい。
「あー、んじゃ、わんから。比嘉中三年、平古場凛。こないだの出し物ではウチの田仁志と知念が大活躍したからに、負けてられんやぁ。精一杯ちばるんでゆたしくお願いシャス」
「金髪の黒ギャルか。悪くねぇし」
「ふん、サイドの髪だけふんわりとフェイスラインに下ろして、小顔効果も狙ってるって訳か。手練れの黒ギャルだな。よし、次」
「はいさい!比嘉中三年、甲斐裕次郎!くぬツインテのや、片っぽにハイビスカス挿したのはえいしろーのアイデアやっさー。でーじカワいくてわんも気に入ってる、ます。はぁやぁ~さすがえいしろー、センスがいいばぁね~♡えいしろーはファッションとかそうゆうのに、こだわりあるからやぁ♡」
「誰もがえいしろー知ってるカンジで話進めんなし。次」
「不動峰二年、伊武深司……。俺はべつに参加する気なかったんだけど……橘さんがやってみろって勧めてくれたんで……神尾もやれやれってうるさかったから……橘さんはともかく神尾のヤツ無責任だよなぁ自分が招集されなかったからってさぁ……そもそもツインテするのに俺の長さだと中途半端だしさぁ……」
「うるせぇ~~~~ッ!負のオーラすごいなオマエ。血祭りにあげとくか?ア?」
「遠野、やめておけ。耳下の黒髪おさげ、か。こういうのが一番男ウケするのかもしれんな」
「男ウケとかまじどうでもいいんだよなぁ……まあ橘さんに喜んでもらえたらいいけどさぁ……」
「次ッ」
「リリアデント蔵兎座デス。ニッポンのKAWAII文化、勉強したくて参加シマシタ。メイド……ツインテ…アキハバラのノリ……。最初は、クレイジーだと思ってイマシタ。この合宿所は狂人しかいない、テニスをやりまショウ、と。But、やってみたらまんざらでもナイ。たぶんこの中で僕がいちばんKAWAII」
「悔しいが、かわいいじゃねぇかよォッ」
「片言の日本語がまたかわいいし。反則だし……」
「よせッ」
「お頭……」
「俺たちの可愛さに、貴賤はねぇ。髪の色も、結ぶ位置も、それぞれの個性がある。みんな違ってみんないい。チームツインテ、勝負に出ようじゃねぇかッ。覚悟はいいか貴様らァッ」
おぉッ!と野太い声がロッカールームにこだまする。娯楽の少ない合宿所において、週に一度の文化祭は選手たちの士気を上げるのに不可欠なものである。週に一度は多すぎるだろうという声もあったが結局楽しいから、皆常に全力でノリノリだった。
「早速だが今回の出し物の細部をブラッシュアップしていくぞ。ガキ共も遠慮なく意見を」
「ハイ」
「やる気満々じゃねぇか。よし、蔵兎座」
「センパイ方、スコートは決定デスカ」
「あ?」
「短いスカート、こないだのメイドサンと被ってマス」
「あ~やーな。ロングスカートのメイドも居たけどや、せっかくのツインテやっし、フツーの女装じゃなくてよ、もっとオリジナリティーある服装でキメたいやぁ」
「それにやー、メイドさんはストッキング履いてたしが、スコートってくとぅは、今の先輩たちみたくナマ脚やんに?わん恥じかさ~!」
「勘弁しろし……。ツインテと言やぁ女テニじゃねぇか。まさかオメーら今着てる日本代表ジャージのままツインテキメるつもりじゃねぇだろうな」
「……それ、いいかも……」
「何だとォ?」
「……衣裳のこと言われてなかったから、ジャージで来たけど……ツインテにジャージ、なんか、女マネみたいでいいかも……」
「……」
遠野は首を傾げ、大曲はヒゲをしょり、しょり、といじりながら思案した。そう言われるとガキ共のジャージ姿も悪くないように思える――しかし女テニのコンセプトを打ち出したのは誰あろうこのお頭だ。二人が恐る恐る顔色を伺うと、当のお頭はホワイトボードに【女テニ】【女マネ】【ツインテールのオリジナリティとは】と達筆な文字で書きつけている。公平で真面目な男である。
「なんだァ~お前らァ~?俺たちのカシラの言う事は絶対なんだよォッ!つべこべ言ってっと全員まとめて処刑だ処刑イッ!」
めんどくさくなった遠野が、広げていた脚をさらに広げて叫ぶ。真っ白な内腿と赤紫のボクサーパンツの対比が毒々しい。
「オー……脚を閉じてくだサイ……」
「もう充分刑罰なんだよなぁ……見たくもないもの見せられてさぁ……」
「お頭。ちょっといいスか」
「なんだ。大曲、言ってみろ」
「こいつらの言ってることも、一理あるし……。今の遠野を見て俺も気づきました。惜しげもなく“出す”のだけが色気じゃねぇんだって……」
「フンッ」
「実際、あの中坊どもの垢抜けねぇジャージ姿、やけにツインテに似合ってるし」
「ふむ……」
片手に持ったマーカーを顎にちょん、と当てて平等院も思案に沈んだ。無意識に唇を尖らせて目線は斜め上、片脚に体重を掛けているのでスコートに包まれた立派なヒップが滑らかな曲線を描く。
(おかしら かわいい)
皆が同じ想いでうっとり平等院に見とれていると、伊武の背後のロッカーがキィ、と開いて扉が彼の後頭部にぶつかった。
「イデッ」
「深司」
「ふぁ……橘さん……」
「話は聞かせてもらったぞ。ジャージ、初々しくていいじゃねぇか。しかし先輩方の提案を頭から否定する事も無いだろう」
「俺もそう思ってました、橘しゃん」
「脚を出すのも新鮮でイイもんだ。実際メイドの時の千歳は色気があってよかったぞ。あげな大男が恥ずかしそうにスカートの裾を気にして、それはもうむぞらしかった。ギャップ萌えというヤツかもしれんな」
「くっ……こんな時まで千歳千歳ってさぁ……橘さんて本当に……」
「何か言ったか深司?」
「なんでもありません、橘しゃん……」
伊武の事が心配でこっそりロッカーに忍んでいたのだろう。後輩思いの橘に伊武がポッ!と頬を赤らめていると、別のロッカーがバンッと開いて甲斐の後頭部を直撃した。
「あがッ!」
「橘クンはミニスカートがお好き、と言ったところですか。九州二翼と呼ばれた男も、案外俗な性癖をお持ちなんですねぇ」
「あっ木手~♡」
「永四郎、いたのかや~。ったく心配性だぜ」
「……言い方が陰険なんだよなぁ……嫌味っていうかさ……」
「深司。いいんだ。木手、そういうお前はどうなんだ?この先輩方の脚線美を見ても、微塵も揺るがないと言い切れるのか?」
「確かに、お三方とも素晴らしいおみ足でいらっしゃる。スコートには我々男テニの夢が詰まっているといっても過言ではないでしょう。しかし見てくださいこの中学生選抜たちを。特にウチの甲斐クンと平古場クン、ぶっちゃけでーじかわいくないですか?一見遊んでる風のツインテギャルたちがジャージをキッチリ着込んで、汗水たらしてマネージャー業を頑張ってるんですよ。我々選手達の為に……、ね。おや先輩方ちょっと目付きが変わりましたねぇ」
「そう言われると、悪くねぇし」
「ギャルはギャルなりに、一生懸命ルールとか勉強してんだろな。かわいいじゃネェかよォッ。なーお頭ァッ」
「……確かに、実際の女テニってヤツは気の強ぇ女ばかり雁首揃えていやがるが、女マネだったら話は変わって来るな。黒ギャルに、欧米ギャルに、清楚な黒髪……か」
「お頭、キャバクラ来てるみてぇになってるし……」
「橘しゃん、俺、清楚だって」
「よかったな深司」
「待てよォ~ッ!黒髪清楚と言えば俺だろうがァ~ッ!!!!」
「遠野くん、静かに」
「なっ、君島ァ……てめぇもいやがったのかァ」
音も立てず自分のロッカーから出て来た君島が、ポケットから優雅にハンカチを取り出してフワ……と遠野の股間に被せた。「余計なコトするんじゃねェよォッ」と叫びながら、遠野はちょっとだけ頬を赤らめ脚をほんの少し閉じた。全員その様子を見て(かわいい)と思った。
「ふむ、皆さんの意見、全て聞かせていただきましたよ。思うに、あなた方のチームに必要なのは……多様性といったところです」
「いきなり出て来てお前が仕切るのか。まあいいだろう、続けろ」
「メルシー、お頭。そもそも貴方が言った事じゃないですか。みんな違ってみんないい……ってね。考えてもみてください。服装は揃えずとも、皆さんにはツインテールという揺るぎない統一性があるんです。高校生の三人は女テニのお姉さん、中学生のボクちゃんたちは初々しい女マネ……。我々選手たちにとって、何とも夢のある空間になるのではありませんか?」
「……ッ!」
「さらに中学生諸君には、上着だけオーバーサイズを着用していただく、というのはいかがです?いつものジャージ姿ではさすがに変り映えがしませんからね」
「君島、それってまさか……」
「そう。彼ジャージ、ってヤツですよ」
全員一瞬息を呑み、やがて拳を口に当てて「カワイイ~~~~ッ!」と声を揃えた。チームツインテに活路が拓けた瞬間であった。
「じゃ、わん、知念にジャージ借りるやぁ♡」
「わんは木手に借りる~♡」
「俺たちはジャージのサイズ一緒でしょう。田仁志クンに借りなさい」
「慧くんの⁉で~じまぎさん!ウケる~」
「あの……橘さん……」
「いいだろう、俺のジャージ着て気合入れろよ、深司」
「ふぁい……♡」
「いいですネ、皆さん……。僕より大きくて、ジャージ貸してくれそうなチームメイト、ココロアタリがありまセン……」
「蔵兎座くんは、高校生の誰かにジャージ借りたらどうです?良かったら僕が交渉しますよ」
「Really!?えっうれしいデス……どうしようドナタの借りよう……。あっデモ僕はアナタに何をすれば……」
「誰に借りるかはゆっくり考えたらいいですよ。交渉、というのは冗談」
「キミサマ……///」
「高校生のジャージって事は、高校生と付き合ってる中学生の女マネって事か……。君島、さすがだし」
なにそれめちゃくちゃカワイ~ッ!と大はしゃぎの中学生を横目に、遠野が忌々しげにチッ、と舌打ちを洩らす。部外者の君島が仕切るのが面白くなかったし、アイデアも優れているのだから更に面白くない。
「どうしました?遠野くん」
「べつに……。てかお前、何が目的だ?お前が交渉ナシで俺らに協力するなんて誰も信じネェからな」
「……今回は、本当に、何の交渉も望んでいませんよ。ただ……」
「ただァ?」
「遠野くんのヘアスタイルが乱れるのが心配で、見張っていただけです。君はすぐに暴れるから、必要なら直さなくては、と……」
「君島……」
「僕の結び方が悪いなんて文句言われたらたまりませんし……。だけどどうやら大丈夫みたいですね。まったく柄にもない、君のせいで僕はいつも調子が狂います」
「ンなの、俺のせいじゃ……♡」
「お転婆も、ほどほどに、ね……♡」
「うるせぇなァ……♡」
前触れなしにイチャつき出した二人が怖いので、中学生たちはさっさとロッカールームを出て行った。平等院はホワイトボードの文字を丁寧に消して、大曲と一緒に着替え始めた。
「ま、イイ感じに決まって良かったですね、お頭」
「ああ……おい遠野、お前も早く着替えろ。君島、今度俺の髪の毛もやってくれ。自分でやるとどうにも時間が掛かって、な」
「もちろんですよ、お頭」
「交渉はナシで頼むぜ」
「仰せのままに……。逆毛を立てて、もっとボリュームを出すのも華やかでいいですねぇ……」
ノリと成り行きで諸々決まった感じは否めないものの、妙な達成感を覚えて高校生たちは満足気に笑った。そんなこんなで女テニと女マネという最高の萌えに到達したチーム・ツインテール。クソデカメイドカフェに劣らない大好評を得て、学園祭は無事に終わった。
♡♡♡
「……という訳でね、比嘉中で活躍していないのは部長の君だけでしょう、木手くん。190㎝に長髪、どちらも条件が合わなかったとはいえ歯がゆいですよねぇ」
「……何を仰りたいんです?君島先輩。アナタの交渉はもううんざりですよ」
「メガネのユニットもやりつくした感があります、しかし……。君と僕にしか出来ない新たなユニットの可能性に、僕は気づいてしまったんですよ」
「聞いてます?」
「ほら僕たち身長が同じ、179㎝じゃないですか。体重はまあ君の方がだいぶ上ですが」
「余計なお世話です」
「その名も179メガネーズ。どうです?」
「要素が、弱い……」
「やっぱり……?」