吊られた男②「これは……」
神宮寺寂雷は眉を顰めた。
彼の手には一枚の紙切れがある。何の変哲もない大学ノートの切れ端。シンジュク中央病院のポスト、神宮寺医師宛てに届いたものだというが書かれている内容は紹介状でも患者からの礼状でもなく、あまりに非現実的で目を疑うものだった。
──チームメイトは預かった──
たった一言達筆な字で記された下にはとある住所。更に同封物を目にした寂雷の表情がみるみるうちに険しくなる。それは彼の営業担当であり患者でありチームメイト、観音坂独歩がいつも首に掛けている社員証だったのだ。
突如机上に置いてあった寂雷のスマホがブーッブーッと音を立てビクリと我に返る。緊張を飲み下し、通話ボタンをタップする。
「一二三くん?」
「先生、独歩くんを知りませんか?」
いつになく急く声。
「やはり帰っていませんか……」
「先生、何かご存知なんですか?」
「……」
「先生?」
幾分かの沈黙。やがて意を決したように寂雷が口を開く。
「一二三くん、私はこれからある場所に向かいます」
「どういうことですか、先生?」
「一二三くん、落ち着いて聞いてください。独歩くんは誰かに誘拐されたようです。私の元に彼の居所を記した手紙が届きました」
「誘拐?! 一体誰が……何のために?」
「分かりません。ただ分かっているのは、彼の居所と、彼の身の安全を確認するまで事を大きくするのは恐らく得策ではないということです。
まずは私一人で向かいます。届いた手紙の内容をメールで送りますので、暫く経っても私が戻らなかったら応援を呼んでください」
「待ってください、そんな突然、……先生、先生?!」
寂雷は一方的に通話を終えると駆け出した。
差出人が「あの男」でないことを願いながら──。
(続)