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    すみれ-Drsumire-

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    それっきり、先輩の消息は杳として知れない

    僕と先輩20xx.08.12 朝 研究室
    夜を徹して、知古4人でしっぽり飲み麻雀を打った。焼き鳥だった先輩が有終の美を飾ったところで、卓はお開きになった。壁掛け時計を見上げると午前4時、誰かの香りが残るソファにごろりと横になった。
    冷蔵庫がブゥンと重低音を響かせ、脳髄を揺する。懐かしくも心地良い疲労感に浸っているうちに意識は霧散していた。
    うつらうつらと、明け方に誰かが手水に立つ音を聞いた。狸寝入りを決め込んでいるうちに再び眠ってしまったらしい。
    次に瞼を上げると、既に薄いカーテンの向こうは明るくなっていた。二日酔いでくらくらする頭を持ち上げる。足先が痺れて感覚が無い。再び唸り出した冷蔵庫に脳を揺さぶられて、ようやく本日の予定に思いを巡らせた。ふぅ…と大きく息を吐いて動き出す。
    来客用のスリッパをパタパタと音を立てながら歩く。机の間に簡易ベッドを広げて寝ていた先輩が身動ぎするのが見えた。荷を取りに行く足を止め、ベッドの脇にしゃがみ込む。ひどい寝癖がついた髪に手を伸ばし、くしゃりと撫ぜた。先輩は目を開けたが、こちらを見ただけで、何も言わなかった。黙ってされるがままになってくれるのを良いことに、なおもくしゃくしゃと癖毛をかき混ぜる。目を細める様が猫のようだ。僕はなんだか愉快な気分になって、ふふ、と笑い声を漏らした。「夢見が悪かったです…」と呟くと、「ん」とだけ返事があった。
    しばし指に絡まる猫っ毛を堪能し、名残惜しさを振り払うようにえいやっと立ち上がる。机に転がっていた空のペットボトルを拾って水道水を入れ、一気に飲見下す。生ぬるい水が胃に落ちていく感覚を追うと、三半規管の揺れが少しマシになった。
    昨夜遊んだボードゲームの箱と、何年も置きっ放しにしていたカンカン帽子をリュックに詰める。パンパンになった布地が今にもはち切れそうだったが、無理矢理ジッパーを引き上げた。抱え上げれば、ずしりと重い。一度戸口に置きに行き、再び机の間を縫って戻る。ぽん、と今度は優しく手を置いた。
    「それじゃ先輩、またね」
    声は明るかったが、俯いてしまう。仰向けの先輩は両手を突き上げてひらひら振った。顔を上げると、覗き込む自分と見上げる先輩、ちょうど目が合った。ちょっと湿っぽい気持ちになっていた僕とは対照的な屈託の無さに、くすりと笑ってしまった。
    「お達者で」お互いに。それだけを笑って告げ、歩き出す。先輩は始終無言だったが、拒否された様子はなかったので良しとする。先輩と居室に満ちる空気は、ぬるくゆるく漂っている。少なくとも来年くらいまではこの閉じた空間が続くだろう。力を込めて重いガラス扉を押し開ける。もう振り返らなかった。
    それが、社会人3年目の、夏休みの初日の幕開け。
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