ライブ終了後の楽屋は騒然としていた。ヒューヒューぜぇぜぇ耳を塞ぎたくなるほどの苦しげな呼吸音と、なかなか治まらない咳き込みが楽屋内に響く。音の根源は、丸い黒髪の頭。小さく蹲っているため、頭しか見えないのだ。しかし恐らく、俯いた顔は苦しげに歪んでいるのだろうと安易に察することが出来る。一刻も早くこの惨状から救ってやりたくて、鞄に手を突っ込んだらいともあっさり掴んだ吸入器をくまくんに渡した。
「くまくん、吸入できる?」
「ん……げほ、できる……っげほ、げほ」
「ゆっくりでいいわよォ。落ち着いて、大丈夫だからね」
なるくんがくまくんの背中を摩る。本人はできると言ったが吸入器を持つ手は震えていて、とてもじゃないけど見ていられない。支えてやろうと手を伸ばしたとき、俺よりも早くくまくんの綺麗な手に、れおくんの華奢な手が重なった。
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