ありがとう。すうすうー…、
穏やかな息する音が耳にしながら目覚めた。
腕の中で彼女の体温が伝わって来て、安心感で胸を満たす。
さっき見た悪い夢のせいか今目の前あるこの光景が少し、現実じゃないような気がした。
それでも彼女の息をする音も伝わってくる彼女の体温も、全てがとても愛おしく感じる。この気持ちが何よりも現実だった。
「ん…」
「悪い。起こしました…」
「いいえ…」
「レーナ。」
「どうしました…」
「好きだ。」
さっきまでは完全に目を開ききってない彼女は今度は目を大きくしてこちらを見た。その後は少し目を逸して少し照れくさそうに微笑んで私も好きですと応えた。
とても愛らしい。
「いきなりどうしたんですか…」
「いや。少し、昔の夢見てました。」
「夢、ですか…」
「ええ。連邦にきたばかりの頃の夢、」
「あの頃おれは。何も持ってなくて、生きる意味も見つからないくて。自分だけが…生きてないとか思って…絶望して、身を投げそうとして、多分一人で死にゆく夢です。」
「へえ?なんでそんな夢を…シン…大丈夫ですか?」
「一瞬現実のようにも感じましたが。現実じゃないのはわかってます。レーナが。ここにいますから。」
「それに。来てくれたのではないんですか。おれが挫けそうで絶望している時に、レーナが来てくれたのですから。おれは生きて来られたんです。」
「そんな。私は何も…」
「来てくれて、ありがとう。こんなおれを、好きになってくれてありがとう。」
腕の中にいる彼女をさらに強く抱き締めた。彼女も背中に両手を回せて頭を胸に擦り寄った。
「いいえ。こちらこそ。生きていで…私をずっと待っていて…ありがとうございます…」
思わず小さく笑いを吹きこぼした。
「かなり待ちましたが。待つの大変でしたけど。」
「それは噓ですね。隊員から聞きましたけど、あの時はみんな私のことを死んでるって思ってたんですよね。待ってなかったじゃないですか。」
やっぱりさっきの取り消してくださいと言わんばかりに彼女は顔を膨らませた。
「そんな不必要な情報を貴女に流したのはどこの誰ですか。後で絞めにいきます。」
「えっと…確かライ…えっ?し、絞めに…?そんな、ダメです…」
「こんな時にほかのやつの話しをしたレーナが悪いでしょう。」
「えっ?私は…その… ただ…、んっ、」
さっきからずっと忙しく何を言おうとしてはくはくしてるその口を構わず自分の口で塞いだ。
いきなりだったから彼女に拒絶されるのではないのかと思ってたが。
彼女はいつも通りそれを受け入れてくれた。
多分おれはもう、昔のおれには戻れないのだろう。
昔は、自由など考えたこともなかった。
想像したくもなかった。
こうして彼女に口付けをして、したいからして。好きなだけ何度も。
もうおれはこれくらいの自由を手に入れた。彼女に許された。
これ以上に何を望むのだろう。