知ってるくせに。ガチャ。
部屋の扉をそっと開いてそして静かに閉じた。
ゆっくり音がでないようにそっとベッドまで近づく。
こんな夜中に男の部屋に踏み入れるのははしたないのは知ってる。けどどうしても彼の驚く顔が見たいから。
すうすうと寝息を立ててる彼は布団の中に埋もれて顔は見えないけど、それが自分の恋人であることは見えなくともわかった。
うふふと、レーナは小さく笑った。
彼が寝ているベッドの下際で掛けていた布団を持ち上げ、ベッドと布団の間に潜り込んだ。横向けで寝ている彼の隣にひょいと頭を出すレーナは空いていたシンの右腕を自ら自分の腰辺りに置いた。
なんか抱きしめられた気がして、嬉しい。
と素直に思ったレーナは少し嬉しくなって笑った。
これでシンもきっと驚いてしまいますね…!
真正面から見えた彼の顔はやっぱり端正で、格好いい。
ほう…、と見惚れてしまったレーナは油断してしまった。
ぎゅっと腰が抱きしめられぐいっとシンの懐に引き寄せられた。
「…ッ?!」
気が付けば血赤は細めて自分を愛おし気に見つめていた。
「おはよう。レーナ。」
「…ッ、ずっと起きてました…!?」
「まあ…そうだな。」
「お、おはようって。もう深夜なんですよ?!」
「おれにしては良すぎた朝だな。というか。」
「今深夜って、知ってるんだ。レーナ。」
「なるほど。これが夜這いという。」
「よ…ッ!よ、夜這いではありません!!!お、驚かそうとしただけです!!」
「そうか。残念。レーナからの夜這いなら何時でも歓迎だけどな。」
「というか寝ている振りなんてひどいです!!」
声を出して抗議しているレーナにシンはふっと吹き出した。
「レーナこそ、随分と酷いことする。」
「なんのことです?!」
「おれは気配で起きると知ってるくせに。それはレーナならなおさらだけど。」
完全に油断していた。とレーナは思った。
知っていたのは事実。気配で容易に目が覚める彼なら確かに自分が背後にいる瞬間、いや、部屋に入った瞬間から察知してたのもおかしいことではない。
「それで、ここまでしておいで、これは夜這いではないと。」
「酷いと思わないのか?せっかく寝た振りをしてあげたのに。」
「いや、これは。その。ち、違います…!」
「というか部屋の鍵!閉めてないんじゃないですか!!」
いつも鍵を閉めないのは本当になんとかして欲しい。けどそれも建前で、
シンの腕の中は心地いい。だから少し期待もしたのは事実であり、他に何も返せなかった。
「閉めてたらレーナが入れないと思って…というか話を逸らそうとしても無駄。」
「ここにでも、キスしてくれるのかと思ったのに。」
ニヤリ笑って親指で自分の唇に当てたシンを見てレーナはまた一段と取り乱していき顔も真っ赤に染めた。
「わ、わたし。その、そういうつもりは…なくてですね…」
「ほら、やっぱり酷い女。おれに期待させておいて。」
「…!!」
「してくれないのか?」
「…。」
ちゅっ。
「上出来。」
「う……///」
「いい子だな。けど。」
「…?」
「足りないから、じっとしてて。」