ハッピー・ホリデイズ・フォー・ユー 紅井が捜査報告書を書き終えたのは二三時を回ったころだった。その日起きた面倒なもめ事――つまり被害者が延べ五人、加害者が延べ六人、参加者は全部で七人という金銭トラブルについて文章で表現するには、紅井の能力はまったく不適当だった。課長からまったく意味が分からん、書き直せ、再提出、せめて通じる言葉で書け、ありとあらゆる表現で罵られしまいには呆れられ、それでもこの時間まで提出に付き合ってくれたのだから課長も決して悪人ではない。
こういう時に限って黒野を捕まえられなかったこと、自分の文書作成能力が異動後まったく成長していないこと、なにより晩飯を、クリスマス・イブの晩餐を食いはぐれたことが重なって紅井はひどく滅入っていた。今日は寮の貧相な食卓にも、ガチョウの丸焼きとミートプディング、それに好物のバターたっぷりのマッシュポテトとケーキ、悪くてもジンジャーブレッドが添えられていたはずなのだ。それを丸ごと食い損ねた。今から食堂に行ってもせいぜいスープと冷えた肉が残っている程度だろう。
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