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    エヌ原

    @ns_64_ggg

    SideMの朱玄のオタク 旗レジェアルテと猪狩礼生くんも好きです 字と絵とまんがをやる

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    エヌ原

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    スチパン時空の未成立朱玄のクリスマス話

    #朱玄
    zhuXuan

    ハッピー・ホリデイズ・フォー・ユー 紅井が捜査報告書を書き終えたのは二三時を回ったころだった。その日起きた面倒なもめ事――つまり被害者が延べ五人、加害者が延べ六人、参加者は全部で七人という金銭トラブルについて文章で表現するには、紅井の能力はまったく不適当だった。課長からまったく意味が分からん、書き直せ、再提出、せめて通じる言葉で書け、ありとあらゆる表現で罵られしまいには呆れられ、それでもこの時間まで提出に付き合ってくれたのだから課長も決して悪人ではない。
     こういう時に限って黒野を捕まえられなかったこと、自分の文書作成能力が異動後まったく成長していないこと、なにより晩飯を、クリスマス・イブの晩餐を食いはぐれたことが重なって紅井はひどく滅入っていた。今日は寮の貧相な食卓にも、ガチョウの丸焼きとミートプディング、それに好物のバターたっぷりのマッシュポテトとケーキ、悪くてもジンジャーブレッドが添えられていたはずなのだ。それを丸ごと食い損ねた。今から食堂に行ってもせいぜいスープと冷えた肉が残っている程度だろう。
     とぼとぼと灯りの消えた廊下を歩く。課長は後片付けを命じて先に帰ってしまった。書き損じをまるめて反故紙にして、ストーブの火を落として灰をかきよせ、ランプの灯を消してオイルを使用済みのブリキ缶に流してと、新入りの下っ端にはやることがたくさんあった。だから警視庁を出るころには日付も変わっていたと思う。
     紅井は支給の外套コートの上から私物のマフラーをぐるぐる巻いて、分厚い手袋をつけてぎゅっと瞼を閉じる。それから勢いよくドアを開けた。
     途端に耳が切れそうな突風が吹きこんでくる。かろうじて雪は降っていないが十二月の帝都はきんきんに冷え込む。気温はこれからますます下がる一方だ。ガスの暖色の灯りも物理的な寒さの前にはまったく効果がない。覚悟を決めて石畳の上へ踏み出した朱雀の後ろから聞き慣れた声がした。
    「ハッピー・ホリデイズ」
     いつものコートを着込み、ブックバンドでくくられた本を小脇に抱えた黒野が立っていた。一瞬待ってたのか、と言いかけて、黒野が時間を無駄にするわけもないと思い返す。案の定黒野は可愛げなく片頬を歪めて言った。
    「残念ながら図書室帰りだ。灯りがまだついてたんで、どうせお前だろうとあたりつけてきたんだ」
    「今日が一番遅いぜ、ほんと人遣いが荒ぇ……」
     手袋をこすり合わせながら黒野と向き合う。真黒な出で立ちは夜の闇に溶け込みそうだ。眼帯にはめ込まれたレンズのきらめきと青ざめたと言ってもいい顔の白さが浮き上がるように見えて、紅井は一瞬それを美しいと思った。
    「そうだ、メリークリスマス」
    「今朝も言ってただろう」
    「そうか?」
    「そうだ。ハッピーホリデイズ」
     黒野が瞼を閉じてそう言うので紅井はいつものようにクリスマスじゃねえのか? と問う。黒野がなにか人と違うことをするときそこには理由があるから、これはもう癖とか習慣を超えて、黒野と相対するときの当然の行為になっている。
    「なに、俺は陛下に殉じる決意はあるが、国教会は信じてないからな、まあ、祝日は祝日だから祝いはするさ」
    祝日ホリデイも何も、今日もばりばり仕事してただろうが」
    「そこは俺たち公僕の悲しいところだな」
     そこで紅井がずる、と鼻水をすすったので黒野は少しだけ笑った。それからコートの裾をぱんと払って紅井の顔を見据えた。
    「一つ提案がある。俺はこれから遅い晩飯を食いに、パブに行く」
    「おう」
    「ここから二〇分もない。寮とはちょうど二等辺三角形の位置関係だ、そっちも二〇分もない」
    「おう?」
    「パブには、スパイス入りワインと、ブランデーと、俺がキープしておいた七面鳥が一羽ある。シェパーズパイと、あとタルトだな、タルトタタンを頼んでおいた。――だが少し俺には多い」
     そこまで来て紅井の理解がようやく追いついた。ぱっと周りが明るくなったように感じる。その中心で黒野がやれやれといった風に笑顔を――少なくとも紅井にはそう見える表情をしている。
    「来るか、朱雀」
     誘いに紅井は大きく頷いた。
    「……ホリデイ、最高だな」
    「お前がもうちょっとでもまともに文字を書けたらなおさらいいがな。まあ明日にでも添削してやる」
    「やべえ、全部ぐしゃぐしゃにしちまった」
    「……朝イチで暖炉の前から回収するぞ」
    「おう! 任しとけ!」
     祝祭を終えて静まった夜の街にふたりぶんの踵の音が響く。ホリデイ・ディナーまであと二〇分。よく熾った暖炉の炎が紅井と黒野を待っている。
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    エヌ原

    DONEアイドルマスターSideM古論クリスに感情があるモブシリーズ4/5
    図書館の女 玄関に山と積まれた新聞の束を回収して、一番最初に開くのはスポーツ新聞だ。うちの館ではニッカンとスポニチをとっている。プロ野球も釣りも競馬も関係ない、後ろから開いて、芸能欄のほんの小さな四角形。そこにあの人はいる。
     最初に出会ったのはこの図書館でだった。私は時給980円で働いている。図書館司書になるためには実務経験が三年必要で、高卒で働いていた書店を思い切ってやめて司書補になり、前より安い給料で派遣として働き始めたのは本をめぐる資本主義に飽き飽きしてしまったからだ。
     べつに司書になったからって明るい未来が約束されているわけではない。いま公共の図書館スタッフはほとんどが今のわたしと同じ派遣で、司書資格があるからといって、いいことといえば時給が20円上がる程度だ。わたしはたまたま大学図書館に派遣されて、そこから2年、働いている。大学図書館というのは普通の図書館とはちょっと違うらしい。ここが一館目のわたしにはよくわからないけれど、まあ当然エプロンシアターとか絵本の選書なんかはないし、代わりに専門書とか外国の学術誌の整理がある。でもそれらの多くは正職員がきめることで、わたしはブックカバーをどれだけ速くかけられるかとか、学生の延滞にたいしてなるべく穏当なメールを書けるかとか、たまにあるレファレンス業務を国会図書館データベースと首ったけでこなすとか、そういうところだけを見られている。わたしもとにかく3年を過ごせればよかった。最初はほんとうにそう思っていた。
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    エヌ原

    DONEアイドルマスターSideM古論クリスへ感情があるモブシリーズ3/5
    大学職員の男 秋は忙しい。学祭があるからでもあるが、うちの大学では建前上は学生が運営しているので、せいぜいセキュリティに口を出す程度でいい。まず九月入学、卒業、編入の手続きがある。それから院試まわりの諸々、教科書販売のテントの手配、それに夏休みボケで学生証をなくしただとか履修登録を忘れただとかいう学生どもの対応、研究にかかりっきりで第一回の講義の準備ができてないから休講にしたいという教授の言い訳、ひたすらどうでもいいことの処理、エトセトラエトセトラ。おれはもちうるかぎりの愛校精神を発揮して手続きにあたるが、古いWindowsはかりかりと音を立てるばかりでちっとも前に進まない。すみませんねえ、今印刷出ますから。言いながらおれは笑顔を浮かべるのにいいかげん飽きている。おまえら、もうガッコ来なくていいよ。そんなにつらいなら。いやなら。おれはそう思いながら学割証明書を発行するためのパスワードを忘れたという学生に、いまだペーパーベースのパスワード再発行申請書を差し出す。本人確認は学生証でするが、受験の時に撮ったらしい詰襟黒髪の証明写真と、目の前でぐちぐち言いながらきたねえ字で名前を書いているピンク頭が同一人物かどうかはおれにはわからん。
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    keram00s_05

    DONE「神秘のAquarium」ガシャで突如として生まれた人魚野くん(頭領)に狂った末に出来上がったもの。ショタ貴族×人魚野くんという派生朱玄。
    愛と海の境界線あの日、俺は海の中に水面を明るく照らす陽の光が落ちてきたのだと思った。


    オレの誕生日になると親父は全国各地の商人を集めて、誕生日プレゼントを持ってこさせ、オレがその場で一番気に入ったものを買ってくれる。今年はオレが10歳だからか、例年になく豪勢だった。可愛くて珍しい動物に始まり、色とりどりの宝石、見たことも着方も分からない洋服、そして、綺麗な女性たち。
    椅子に座ったオレの目の前で商人達はこれはどうだと意気込んで、商品を差し出してくる。オレは膝の上にいる親友のにゃことああでもないこうでもない、これはどうか、あっちの方が好きかと話し合っていた。
    にゃこは偉大な海賊が残した宝の地図か、未知の技術が記録されている金属の円盤が良いのではないかと言うが、オレは正直どちらもとても欲しいとまではいかなかった。というよりも、どんなに珍しい物であろうと毎年毎年たくさん見せられると目新しさが無くなって飽きてしまう。現に去年は「これで良いかな」という気持ちでプレゼントをもらった。
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