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    こゆき

    何かのたまり場

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    こゆき

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    看守パロ 凪茨

    ##凪茨

    無題※めちゃめちゃめちゃめちゃ今更な看守パロです。いやあ、指揮官服の茨はとっても可愛かったですね。囚人凪砂×看守茨の緩いパロディです。頭を空っぽにしてお読み下さい。



     地図上でも視認し難い小さな小さな島。そこにぽつりと建てられた黒い楔。四方を背丈の倍はあろう鋼鉄製の柵に囲まれたそこは監獄だった。数百年という長い刑期は勿論終身刑を示していて。一度の人生では償いきれないような罪を犯した者ばかりが収監されている、絶海の孤島。
     表向きには監獄しか存在しないその島の地下では秘密裏に色々な研究が行われていた。死刑宣告を受けた囚人を使った人体実験や、とある理由の為に行われる拷問。囚人たちに知らされる事はないが、勘の良い者や長く刑に服している者の中には気付いている者もいた。専用の独房で、囚人という名目にそぐわない分厚い新書を読み耽っている彼もまたそのひとりだった。

    「貴方はいつ来ても大人しくしてくれていて助かりますねえ」
    「……ああ、看守さん。ううん、矯正監と言った方がいいのかな?」

     房を訪ねる人の気配に気付き、ふと目線を上げる。片側に寄せてゆったりと編まれた銀糸がゆるりと揺れた。格子越しに映る人影はつい先週から新たに派遣された看守だった。
    花を思わせる赤紫の髪と、久しく見ていない空色の瞳。その瞳はノンフレームの眼鏡の奥から覗いているというのに、零れ落ちそうなほど大きくて。一言口を開くまでは女性なのかと思ってしまった位だ。

    「いえ、寧ろその名前で呼ばれる方が困ります。いち看守位の立場で良いんですよ自分は。この施設のきな臭さがあまり好きではありませんので」
    「……そう。他の人達は今日も元気?」
    「ええ、ええ。元気過ぎる位です。七十五号と四十二号がまた喧嘩しやがりましてね。折檻もほとほと面倒になってきました」

     皆貴方のような模範囚であればいいのですが、と看守は溜息をつく。二十七号、と呼ばれた彼はそっと立ち上がると格子越しに看守に近付いた。

    「……大変だったね。お疲れさま」
    「お気遣い痛み入ります。って、ちょっと……!」

     二十七号はさも当然といった所作で、制服なのであろう、看守がいつも身に着けている帽子の上からいい子いい子、と頭を撫でた。

    「……あれ、違った?労わりの言葉をかける時にはこうやって撫でてあげるといいって……本で読んだんだけどな」
    「何の本をお読みになったのか存じませんが、自分はそういうの結構ですので……!……いえ、貴方なりの気遣いなんですよね。お気持ちだけ頂戴します」
    「……ありがとう。会話って難しいね。次までにまた何か本を読んで勉強しておくね」

     この囚人はいつもこうだった。マイペースで、どこか俗世から浮いていて。凶悪犯にありがちな狂気もなく、知能犯なのだろうかとも思えるが、悪人にも見えない。一体何の罪を犯したのだろうと看守はリストを確認してみたが、そこには目を疑うような内容が記されていた。
     殺人未遂。未遂、しかもたった一件で懲役百五十年?ありえない。この国の司法はそんなにもまともに機能していなかっただろうか。そもそも今日問題を起こした囚人七十五号は殺人未遂を数回犯し、非合法の薬にも手を出した。それでも懲役二十年だ。
    意味が解らない。まさか何かの手違いで誤認逮捕でもされたのだろうかとも考えたが、であったとしてもそんな刑罰は下らないはずだ。直接本人に聞くにしても、デリケートな話題過ぎる。彼自身は独房にいるとはいえ、他の房もすぐ近くにあって、他の囚人に聞こえないとも限らない。
     ようやくその疑問が解消されるのはそれから一カ月程後の事だった。

    「吉報ですよ閣下。この間の功績が認められて、刑期が二十年縮みました。これからも是非とも励んでくださいね」
    「……この間。ああ、あの研究論文かな。大した事を書いたつもりはなかったんだけど……君たちの役に立ったなら嬉しいな」
    「素直に喜んで頂けるような研究かは甚だ疑問ですけどね。いえ、今回の分野に関しては血小板について知見が広がりましたし、良い事でしょう」

     どうにも囚人らしからぬ振る舞いと、二十七号という呼び名の煩わしさから閣下、なんてあだ名をつける位には打ち解けた頃。閣下は上に与えられた文献を読み解き研究論文を書き進めていたのだが、その内容が素晴らしかった、社会に貢献出来る内容だった、との事で懲役を短縮するという内示が下ったのだ。

    「……まあ、まだあと百三十年あるしね。なくなってしまっても困るな」
    「……今何と?なくなっては困る、とはどういう事ですか?」
    「……あれ、私言ってなかったっけ。私の経歴なんてとっくに洗われていると思うけど、罪に対して罰が重いでしょう?……私が望んだんだ」

     聞けば、閣下のその優れた能力欲しさに権力者達が起こした諍いに巻き込まれたのがきっかけらしい。どちらかにつくつもりもなければ、金にも権力にも興味がない。それなのに、自分を巡って血が流れ続ける。
     そんな事の為に生きているわけではないのに。結局、閣下が打った手はこうして囚人となり、世間から隔絶される事だった。司法や権力者からの追従をどう逃れたのかは定かではないが、現状こうして誰にも追われず、誰の血も流さず生活出来ている事は彼にとってはようやくの安寧だった。

    「はあ……そういう。ああ、でも得心が行きました。貴方、他の犯罪者とはどこか違うなとずっと思っておりまして」
    「……そう?私が直接手を下したわけではないけど、私の周囲で血が流れた事実は消えないよ」
    「でも、自身が望んだわけではないでしょう?……自分が振っておいて何ですが、この話題はやめましょうか。ああ、刑期が縮んだお祝いなんていかがです?今の貴方になら危険物でなければ大抵の物はお渡し出来ますよ。気になる文献とか、ありません?」

     自分から振ってしまった上に中々に込み入った事情であった事を察して看守は気まずそうに話題を逸らした。

    「……お祝い。じゃあ、私の事名前で呼んで、って言おうかと思ったけど折角あだ名を付けてもらったしね。君の名前、聞いてもいい?」

     名前は勿論知っている。乱凪砂。静寂を思わせるその名前は彼にとてもよく似合っていた。

    「え……。お祝いがそんな事でいいんですか。そんな事、いつ聞いてくださってもお答えしましたが。自分、七種茨と言います。七つの種でさえぐさ、茨は植物の茨です」
    「……いばら。そう、茨。ふふ、素敵な名前だね。お祝いにならないのなら、これから名前で呼んでもいい?」
    「……それはそれで中々飛躍しましたね。まあ……構いません。こうしてふたりで話している時なら」

     茨、と嬉しそうに何度も口にする凪砂にどこか懐かしさと居心地の良さを覚えてしまうのは、何故だろうか。

     季節は巡り、春が訪れようという頃。また凪砂の刑期が二十年短縮されるという内示が下った。なくなってしまっては困ると凪砂は呟いていたが、このままでは数年経たないうちにめでたく出所する事になってしまうのではないだろうか。

    「というわけで、吉報かどうか甚だ疑問ではありますが、また論文が非常に参考になったとの事で刑期が短縮されましたよ」
    「……また?論文を書くのは楽しいから好きだけど……こうも簡単に刑期を短くされたら困るな」
    「悩ましいところですね。今回は心理学についてでしたので、自分も目を通させて頂きましたが非常に興味深い内容でした。
    さて、またお祝いしましょうか?今度は何にします?最近は上がどんどん閣下に寛容になってきておりましてね。興味がおありかは存じませんが、下世話な冊子なんかでも構いませんよ」
    「……下世話な冊子……?……ああ、そういう。ううん、それより、またお祝いしてくれるのなら私、茨に触れたい」

     また突飛な申し出に、茨は首を傾げた。触れたい、とはどういう意味だろうか。人肌恋しいというのなら、女性をあてがう事も……今の状況ならばある程度融通はききそうだった。
     監視のない場所に連れ出して、少々時間を作ってやる事位は出来るだろう。茨自身も上層部からの信用は大分と得ていたし、凪砂になるべく気分良く過ごさせてまた研究の肥やしにしたいと考えているだろうから、その辺りを踏まえて交渉する位、難無い。
    しかしわざわざ茨を指定する意味があるのか。茨としては上にいちいち交渉する手間が省ける分楽ではあるが。

    「自分に、ですか?自分でないといけないと仰るのでしたら吝かではありませんが」
    「……嬉しい。じゃあ、待ってるね。また明日」

     待つ、とは一体。今すぐ触れるわけではないのか。また明日、と見送られ茨は房のあるフロアを後にする。どういう事だ?凪砂は一体何を求めているのか。下世話な冊子はいらないが、茨には触れたい。という事は、やはり茨にそういった役割を求めているのだろうか。格子越しに出来る事など限られているが、どうするつもりなのか。
     凪砂の思考についていくのはもはや不可能であると理解していたので、茨は大人しく翌日を待つ事にした。

    「……というわけで、参りましたが。流石に房の鍵は開けられませんので、このままどうぞ」
    「……うん」

     壊れ物を扱うかのように凪砂の掌がそっと茨の頬を撫でる。
    かっちりと着込んだ制服のおかげで露出しているのは顔と首位なものだ。頬、首筋と形を確かめるようになぞられて、少しくすぐったい。輪郭に触れて、形を確かめて。空と炎が交わる。暖かな温度が近付いても不思議と不愉快ではなかった。茨は目を逸らすことも、目蓋を閉じる事もせず、ただじっと揺れる炎を射抜いていた。

    「ん……」

     こどもみたいな、触れるだけの口付け。じわじわと広がる熱。十秒そこらの時間がやけに長く感じた。

    「……嬉しいな。私、初めてだったから」
    「……おや、奇遇ですね。自分もです」

     不器用そうに、それでも無邪気に笑うものだから、茨もつられて破顔する。

    「……ふふ、お揃いだね。……もう一回、してもいい?」
    「……どうぞ」

     二回目は少し性急だった。口付けた唇の隙間から別の生き物みたいに舌が入り込んで。頬に触れていた掌が茨の掌と重なる。手袋の間から凪砂の冷たい指先が入り込んで来て、繋がる場所を探しているようだった。熱が、燻っていく。

    「……私、ここから出ようかな」
    「おや、つい先日まで出たくないと仰っていたのに?」
    「……茨に、もっと触れたい」

     どこかでぷつりと、糸が切れる音がした。
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