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    2kisakiii

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    7話のあと

    #WV
    #葬台
    funeralPyre

    おやすみなさい 俺は悪夢を見ない。
     つらい事の方が多いような毎日なのに、不思議なほど夢でうなされた事がない。だからといって何も見ない訳でもなく、眠れば人並みに夢の世界が現れた。
     大抵は本当にどうでも良いような夢だ。トースターが壊れてパンが黒焦げになるだとか、居酒屋で人にからまれるとか、本当に、本当に、瑣末な事ばかり。過去に出会い、別れてきた人たちが、代わる代わるに出演する。現実ではあり得ないような不思議な夢。それを夢だと理解しながら眺めている事もあれば、現実のように思う事もある。
     ――そして、目が覚める。
     そこにあるのは、積み重なった沢山の過去と、これから訪れる未来。終わらせる事ができなかった昨日と、地続きになって存在する今日。目が覚めた時の、この途方もないような気持ちは、何度体験しても慣れなかった。
     どうやって言葉にすれば良いのだろう。
     さみしい、とでも言うべきか。
     現実の方が悪夢みたいだと思う。この苦しい日々にまた立ち向かって行かなければならないのだ。今までも、これからも、ただ独りで。
     ――今回はぼんやりした夢だった。
     何かに困っていて、しまったなぁ、と思っていた。瞬間、視界の端から自分に向かって物が飛んでくる。親指の先ぐらいの小さな軽石だ。それから紙屑、埃の塊。強風に乗って沢山のゴミが飛んできたのだ。
    「何だこれ」
     笑いながら、飛ばされてきた物を気まぐれに掴む。飴の包紙、タバコの吸い殻、役目を終えた薬莢。見た事のあるような物ばかりだが、何なのかは思い出せない。ボロ雑巾みたいな布きれを掴んだ時、視界が白く霞んだ。そして、ああ、夢だったのか、と気がつく。じきに目が覚めるのだろう。直感的にそう思う。
     ぐっ、と、心の中で身構えた。またくるぞ、あの息苦しい気持ちが。もう慣れてしまった小さな絶望。寂しいような、悲しいな気持ち。
    「……い……おい!」
     声がした。誰かが側に居る。
    「おい! 起きとるんか!? しっかりせぇ!」
     これは現実? それとも夢だろうか。何かに身体を拘束されていて――いや、抱えられているのか? 良く分からないけど暖かい。人の呼吸がすぐ近くにある。
     彼だ。
    「ウ…ッド……」
    「いや目ぇ開けんかい! 寝たら死ぬぞアホ!」
     遠くで咎めるような高い声が響いた。それに対してウルフウッドが怒鳴り返している。目を瞑ったまま、俺はそれを聞いている。
     独りじゃない。
     そう思った瞬間、普段の目覚めでは感じられない気持ちになった。自分の身体を誰かが支えてくれている。その事実が、小さな絶望を跳ね除ける。何故か酷くほっとした。よくわからないけど、目の奥が痛い気がする。
    「い……」
    「は?なんや?」
    「う……る、さい……」
     再び怒鳴り声が聞こえたが、俺は夢の世界へ戻ると決めた。身体は石のように重く、あまり良い状況ではないのだろう。気絶して、現実から離れても、己を取り巻く現状は変わらない。目が覚めれば、また今日という途方もない時間を戦い抜かなければならないのだ。
     それでも、何か予感めいた思いが脳裏をよぎった。何か、根拠のない、良い兆しのような物だ。
     少し寝かせてくれ――もう口が開けないから、心の内で彼に言う。起きたらまた怒られるだろうか。もしかしたら殴られるかもしれない。不思議なことに、なんだかそれが少し楽しみに思えた。
     だから、おやすみなさい、ウルフウッド。
     起きたらまた、君の声を聞かせてくれ。
     そう思いながら、俺は意識を手放したのだった。
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