密室 「……参ったな、」
「あはは~…怒ってます?」
「怒ってる。勿論君じゃなくて、こんなバカなことを考えた恐れ知らずなヤツに」
キラリ、とメガネの奥を光らせながら言う刑部にへらへらと唯は苦笑いを浮かべた。
刑部と唯。
目を覚ますとそこは真っ暗で、お互いの息遣い近すぎる距離が分かるくらいで一体どこに詰められてしまったのかも分からない。刑部はそんな今の状態に内心冷や汗ものだったが逆に唯はいつもと変わらず、それがまた刑部を苛立たせた。
「…君は、何も思わないのか?」
「えっ?」
素っ頓狂な声を上げる唯に深く刑部は息を吐いた。
「だから、俺とこんなに近い距離にいて何も思わないのかって聞いてる。…まあ、普段から誰彼構わず距離が近い君のことだ。気にしないのも当然、か」
子供じみたことを言ってしまった自分らしくない、と思いつつも言ってしまった手前それを撤回する気にもなれなかった。
「そ、そんなことありません!」
「……」
「えっと、こんな私でも緊張してますから!」
元気が良すぎる返事に驚きつつも刑部はそろりと腕を回す。
「わ、」
「――嬉しいこと言ってくれるな」
その言葉にかーっと唯の頬に熱が集まっていった、となったところでぐらりと傾く感覚と大きな音が聞こえ、そして光が差す。
「…ロッカーの中だったのか、ここ」
「いたた…」
「大丈夫かい?朝日奈さん」
「は、はいっ!だ、大丈夫、れすっ…えっと、じゃあ私戻るので!あは、あは…あははは!」
そう言って逃げるように唯は去っていく姿を見ながらクイっと刑部は眼鏡を上げた。
「…惜しい、な」
そう口では言いながらも楽しそうなのは事実で、こんなことを仕組んだ奴をとっちめるために暗黒微笑を浮かべながら反対方向へと歩くのだった。
-Fin-