束縛など不釣合い 「お前ってこういうのが好きなのか」
「なっ、をっ、えっ、」
「何言ってるか全然わかんねー」
そう言って尊はくっくと笑う。
場所は市香の部屋。珍しく休みが重なった今日であったが大粒の雨が降り続いているからこそ市香の部屋でデートをすることになりウキウキとそれはもうウキウキと市香は作り立てのドーナツと淹れたてのお茶をお盆の上に乗せて自分の部屋で待つ尊の下へと行ったのだが…そこで尊が市香の部屋にあるうちの一つの少女漫画を手にしていたから声にならない声が出てしまった。お盆をテーブルに置いた後きっと市香は尊の方に向き直った。
「なんで読んでるんですかっ!」
「そこにあったから。」
「そんな登山家みたいなセリフ…!」
「いーから答えろよ、お前こういうの好きなの?」
そう言って尊が見せたページは少女漫画のヒーロー、主人公の意中の男の子が主人公に鈴のついたチョーカーをつけ、束縛まがいの事を言っているシーンだった。
「あ、あはは…」
正直、当時の市香も今の市香も好きだった。身動きが取れなくなるのは困るが自分のことを案じて好いてくれるがあまりこんなことをしたり言ってくれるのは嬉しいのではないだろうか。ただ、市香の場合あんなことがあった後だからこそ尊にお前の性癖なのか、なんと誤解(実際誤解ではない)されてしまうのが嫌だった。
「で?」
「う、うぐぐ…」
「答えないのは許さねえ」
「わ、分かりましたよ!言います!好きですよ!こういうの!」
満足ですか!と言わんばかりにふん、と尊の顔を見ると満足げに笑っていた。
「さ、笹塚さん…?」
「お前、俺がやったネックレス持ってたな?」
「は、はい…」
「じゃあ、それ持ってこい」
「ええっ…?」
「この、俺が、お前の彼氏サマがお前の夢を叶えてやるって言ってんだから俺の気が変わらないうちにさっさとしろ」
「は、はい!」
そそくさとネックレスを持ってきて、市香は尊に渡した。
「お前、にやけすぎ」
「す、すいませんっ…」
「いや、悪かねえけど…」
コホン、と咳ばらいをすると尊はそっと市香の首に腕を回しネックレスをつけた。
「……――お前には鈴つけておかなくちゃな。お前は俺の、猫なんだから」
カチリ、とネックレスがしっかりとつけられた音がしたと同時にちゅ、と市香の頬に尊の唇が触れた。
「漫画ではキスしてないですけど?!」
「自己流だ自己流。つーかお前は縛られてるとか似合わねえだろ、お前はポチだからな、騒がしく駆け回ってフリスビー持って俺のところに来るのがお似合いだ」
「笹塚さん!」
「はは、まあでも…あんな言葉一つでときめいてるお前はよかったぜ?」
そう言ってにやにや笑う尊に、そのまま自分の頭をご褒美を与えるように撫でる尊に市香は何も言えず口を結んだ。
以前、尊に言われた【色ボケ】という言葉も否定できずにただただ心の内でまた一つと尊に対する好意を積み重ねていく。
「い、言っておきますけど…」
「ん?」
少女漫画を元に戻した尊はドーナツを一つ口に運んだ。
「確かに好きな少女漫画のシーンですけど、けど…私がときめいたのは笹塚さんだからですからねっ?!」
「知ってる。つーか、俺以外にあんな顔見せるとか許さねえから」
「う…」
反撃の一手のつもりだったが逆に尊に反撃を喰らってしまい、へなへなと市香は尊の隣に座り込んだ。
「もう降参か?」
「笹塚さんに勝つなんてもとから無理だったんですよ…」
「そりゃ、懸命な判断だ」
そう言ってくっくと笑うと尊はまた一つドーナツを口に運んだ。
「うめえ」
「…お粗末様です」
-Fin-