ぬくもり「棘には自分が主人公になるっていう発想がないんだ」
いつだったか、パンダ先輩に言われたセリフを思い出していた。
「恵なら棘の家の方針は知ってるな。棘は生まれたときから、脇役であれ、と叩き込まれてる。ひっそりと、独り生涯を閉じろ。ってな」
そこで、バシン!とひとつ、背中に喝を入れられる。
「恵から伝えないと、棘からは絶対に動かないぞ」
朝方、突然俺の布団に潜り込んできた、愛しい人。
何も言わず、ただ子猫のように俺の肩にぐりぐりと額を押し付けている。脅かさないように、ゆっくりと体勢を変えて、体の下に腕をまわして抱き寄せた。
お互い起きていることは承知の上で、寝たふりを続ける。
ふわりと消毒液の匂い。
誰にも口外したことのない、俺の、秘めた思い。
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