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    Iam_unendurable

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    Iam_unendurable

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    先日ヌンティをキメに天才字書きの友人と大阪に赴いた際に友人が天才的なシチュエーションを提供してくれたのでそのネタを使わせてもらいました。
    「飲み物にエディブルフラワーを入れて飲まない事でお前との会話を拒否するという意思表示をする」
    オーター・マドルでお送りします。

    #オタレイ

    ガルデニアは咲かず、立葵は燃えるぽちゃり、ぽちゃり、ぽちゃりーー
    とりどりの色彩が艶やかな飴色の上に落ち、みるみるその表面を覆い隠していく。無機質な白い陶器の皿から移されたいくつもの花。まるで再び土壌に根を下ろし花開いたように。デザートのバニラアイスに添えられたエディブルフラワーを、どこか繊細なつくりの長い指が一つ一つ摘んではティーカップに"植え替えて"いく。レイン・エイムズは、その様子を内心ハラハラしながら見守っていた。
    まさに今、レインの隣でティーカップを寄せ植えの鉢に仕立て上げている男は、先ほどから話し相手に一瞥もくれずにごく短い適当な返事を口にするのみである。新たな土壌に花を咲かせながら、相手との会話に花を咲かせる気は毛頭無い様子だ。
    男、オーター・マドルは現在レインと共に上流貴族との会食の場にいる。魔法局にそれなりの額の出資を申し出た御礼の為に催されたものだ。レインにとっては神覚者となって初めての貴族の社交場であり、経験も兼ねてという事で今回オーターと共にこの任務を任され、赴いたのである。正直面倒だと思ったが、命じられたからにはやるしかない。
    端的に言うと、この貴族の男は愚かだった。神覚者となって日も浅く年若いレインを見下し、その出自を蔑み、終始慇懃無礼な態度を取ってくるような思い上がりの甚だしい愚か者だ。それはレインの一番嫌う人種でもある。あまつさえ、レインの纏う少年と青年の狭間に仄めく特有の色香にあてられ、その整った見目を好色の眼差しで舐め回した。低俗にして下劣。この男には貴族というよりケダモノという言葉が相応しい。この会食は、レインはもちろんオーターにとっても実に不快極まる時間であった。
    先に切れたのはオーターの方だ。
    レイン自身はと言えば、何処にでも湧くどうでも良い人間として慣れた様子で男をあしらっていた。どうせいずれ己の志す世界の礎となるであろうくだらない人種だ。相手にする価値もない。だが男の「神覚者を辞めたら私の秘書にでもどうかな?君のような優秀で美しい子なら大歓迎だ。」という言葉を聞いた途端隣のオーターが纏う雰囲気がガラリと変わったのだ。レインは表面上は特に表情を変えず「光栄です」と返しながらも、内心では隣からのあまりの殺気に冷や汗を流していた。
    ーーこれはまずい、死人が出るかもしれない…。
    そう本気で思うほどに凄まじい殺気を、オーターは放っていた。幸いそれは命のやり取りを知る者にしか感じ取れない類のもので、それを向けられている張本人には気付かれていない。しかしながら、このただならぬ雰囲気を誰でも察せる程度にはオーターの纏う空気は一変していた。貴族の男は目の前から発せられる絶対零度の圧に怯み、それでも何とか持ち直そうとぎこちない笑顔を貼り付け話を続けた。その根性だけは認めてやっても良いだろう。そんな地獄のような空気の中、デザートと紅茶が運ばれてきて現在に至る。
    気のない相槌を打つたびにティーカップに注がれた花は、あと一輪ほどの隙間を残すのみ。目の前の男は尚もめげずに巧言令色を続けている。その中身の無い言葉に対し、感情の無い「そうですか」を返しながら残り一つ分の隙間を埋め終えたオーターは、突如立ち上がり言い放った。
    「貴方と話す事はもう何もない。せっかくのご好意を申し訳ないが、今回の出資の件は辞退させていただく。貴様のような下衆がうちの優秀な若者をどうこうできるなどと思い上がるな。」
    そうして短くレインに行くぞと声をかけ、スタスタ歩き出してしまった。突然の事にレインは戸惑いつつも貴族の男に一礼し、慌ててオーターの背を追う。背後で男が何か喚き散らしているが気にも止めず、オーターは追い付いてきたレインを庇うように肩を抱き、店を後にした。
    往来に出て肩を抱く手を離し、二人並んで歩く。レインはまだ店のあった方とオーターの顔をチラチラ見比べて戸惑った表情を浮かべている。
    「良かったんですか?あんな、勝手に…」
    相手も相手だったとはいえ、上から命じられた任務に対して私情の混じった自己判断で申し出を断ってしまって良いものか。生来真面目なレインは自分が貶められた事よりもそちらの方を心配していた。だがオーターは気に留めた様子もない。
    「構わん。どうせライオのやつも元々そのつもりで我々を向かわせたのだからな。そもそも魔法局は出資が必要なほど金に困ってはいない。善意でなければ受ける必要もない。」
    レインの心配を些事とばかりに一刀両断したオーターは、したり顔のライオでも思い浮かべているのか、忌々しげに鼻を鳴らす。その様子を見つめながらレインは何事か決心したように立ち止まり、不機嫌を顕にする端正な横顔に声をかけた。
    「あの、すみませんでした。ありがとうございます。今後ああいう場面で誰にも迷惑かけないように、いずれ自分の力で黙らせてみせます。絶対に。」
    澄んだ淡黄色の奥には、静かな口調とは裏腹に燃えるような強い決意が宿っている。レイン・エイムズという人間は折れない。強くしなやかで、真っ直ぐに伸びる美しい花のように。彼は一度口にした事は絶対に成し遂げる男だ。そしてそれを可能にする実力も申し分ない。それらはあらゆる人を惹きつける彼の素養であり魅力でもあった。彼のこういうところを目の当たりにするたびに、本当に美しい人間だとつくづく思う。オーターは眩しいものを見るように、一瞬目を細めた。
    知っている。お前はそれが出来る人間だと、信じている。その性根が何よりも美しくて尊くて愛おしい。そんな万感の思いを込めて一言、「当然だ」と口にした。
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