クリームメロンソーダ 現実世界(リアル)で鈴さんに出会って間もない頃、二人で喫茶店に入った事がある。
わざわざ僕のいる東京の地へ、彼女が再び夜行バスを使って、会いに来てくれた時だ。
席に案内され、メニュー表に目を通す。そこには、メインの珈琲以外にも、好物の『クリームメロンソーダ』があった。
目の前で、何を頼むか悩んでいる彼女との年齢差は、どうやっても縮まる事は無いから、メニュー表にあるソーダに惹かれつつも、無理に背伸びをして、苦味の良さがまだ解ってもいないブラックコーヒーを頼むことにした。
「恵君、決まった?」
「ブ……ブラックで」
「えっ? 飲めるの?」
「うん、大丈夫」
「ふーん、……そっか……」
鈴さんが店員に手を振り、オーダーを聞かれると、すかさず彼女は、
「クリームメロンソーダを2つ」
と、注文した。
「えっ? 僕、コーヒーを!?」
「…何となく…サイダーをね、飲みたい気分なの。付き合ってくれる?」
「う、…うん……」
運ばれてきたソーダの、口に広がる溶けかけたバニラアイスの甘味と、爽やかな炭酸が喉を通る度に、ホッとしている自分と、多分また彼女に本音を『見透かされてしまった』だろう事に、恥ずかしくなっている自分がいた。
……これから先も、何度も心の中を見透かされてしまうだろうから、もういっその事、彼女の前でくらいはどんな時も素直な自分でいてもいいのだろか?……。
そんな事を考えながら、「恵君、美味しいね」と、同じクリームメロンソーダのグラスに手をかける、彼女の白い指先に見とれていた。