二時間だけのvacances 喫茶店で、二人でアッサムティーを飲み終わってから外へ出た後、腕時計を見るとアルバイトの時間迄まだ3時間ほどあった。
「恵君、今日アルバイトなの?」
「あっ、うん。鈴さんの方は?」
「今日はこの後は何も。ずーっと試験の課題をこなすのに寝不足だったから、ゆっくり過ごすつもり。ふあっ……あっ!」
彼女があくび混じりの返事をしたと同時に、目の前にあったビルの街頭モニターから、先日始まったばかりの映画の予告が流れ出した。
興味深々な様子で足を止めて見上げているので、一緒になって見上げた。
「鈴さん、この映画見たいの?」
「うん、気になってて」
「ふーん……。なら、今から見に行く?」
「えっ!?」
スマフォで検索をかけると、15分後に近くの映画館で上映が始まる回があった。今から見れば、バイトにも間に合う。
「行こう!、鈴さんっ」
…
……
………
「す、……鈴、さ…ん…??」
……何て事だろう……鈴さんを喜ばせたくて、映画館に飛び込んだのも束の間、館内の照明が落とされると、隣から「寝息」が聞こえてきてしまった……。学校の課題とやらが相当大変だったのだろうか?
最初は、そっと肩を揺らして起こしてみたものの、もう3回目となると、今日はもうこのまま寝かしてあげることにした。
カクンと彼女の頭が垂れたと同時に、右手に握られていたペットボトルがスルッとこぼれ落ちた。慌てて落ちきる前にキャッチして座席のドリンクホルダーに差し込む。
ボトルを落とした彼女の手は、無防備に開かれたままで、先ほど喫茶店で、カップに添えられていた白い指先が、暗がりの中、目に入った。
…最初は、ちょっとした好奇心だった。
そっと手を伸ばし、彼女の手に指先を触れさせてみる。寝顔を確かめながら、そのままソロソロと自分の指をすべらして、彼女の指へとゆっくりと絡め合わせていった。触れ合う指の感触はしっとりと柔らかくて温かく、自分の乾いた手の肌触りとは全く違い、なめらかだった。
……もっと、触れてみたい……。
起こさないように、ゆっくりと指を折ってそっと握ってみる。手のひらとひらが重なり合った時、ピクリと彼女の指が動いて、飛び上がりそうになったが、そのまま寝息は途切れないままだった。
胸を撫で下ろして、そのまま絡めた彼女の細い指と柔らかな肌触りの感触を味わいながら、上映時間2時間を過ごした。
照明が館内を明るく照らし出し、隣の鈴さんを両手で優しく揺すって起こすと、すぐさま『やってしまった!』とオロオロとした表情になった。
「わ……私、寝ちゃってた…!?」
「うん。もう、それはぐっすりと」
「ご、ごめんなさいっ!!」
慌てて取り繕おうとする彼女の顔をもっと見たいとは思ったけれど、さすがに時間がおしていた。
「ゴメン、鈴さん!バイトに間に合わなくなるから、行くね! 見送れなくてゴメン。また今度一緒に映画見よう!」
「えっ!?あっ!う、うん!」
「バイト終わったらすぐ連絡いれるからっ」
駆け足でバイト先に向かう。
ギリギリ間に合う、大丈夫。
それよりも、彼女の指に絡めた時の滑らかな感触が、まだしっとりと手に残っていた。
次に映画を観る時も、また寝息を聞かせてくれたらいいのにと思った。
また彼女の温もりに触れたいと思いながら。