落とし物◆鈴さんの部屋にて◆
僕が鈴さんの部屋にわざと落とし物をしていたのは、いつの頃だったろうか……。
彼女が東京の音大へ進学して、一人暮らしを始め、高校生の僕は時折、学校帰りに立ち寄るようになった。
ただ顔を見たいだけ……。
ただそれだけだったから、それをそのまま鈴さんに伝えて、変な顔をされるのが正直怖かった。
次に会う正当な口実が欲しかった。
思い付いたのは、彼女の部屋にあがった際、宿題をするふりをしながら、消しゴムやシャーペンを落として帰る事だった。
鈴さんから『また忘れ物してるよ』と連絡を貰い、取りに行く約束をする。
素直に嬉しかった。
ただずっと落とし物をし続けるのも限界がきた。
…さて今日は、何を落としていけばいいだろう?
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