【つむあん全年齢】聖夜のサプライズ?「め、メリークリスマス……です」
あんずは勢いで飛び出たはいいものの、言葉尻がどんどん尻すぼみになっていく。
「はい、あんずさん、メリークリスマス~」
つむぎはいつも通りにこにことした様子だが、あんずの格好をみて目を丸くした。
「あんずさん、なんでトナカイの衣装なんか着てるんですか?」
――――――――――――
つむぎとあんずが付き合い初めて幾度目かのクリスマス。
アイドルはクリスマスに働くもの……という業界の不問律のもと、つむぎもあんずも忙しく過ごしていた。
しかし、恋人同士ならばクリスマスプレゼントは必要なものであり、お互いが忙しくても毎年その機会はつくっていた。…ただ、毎年となると今年は何をあげようか……とあんずは頭を悩ませていた。
つむぎに直接聞けば済む話だが、本人は気持ちだけで嬉しいとかそんな面白くもないことを言いそうで、あんずはどうにかこうにか考えあぐねていた。
スマートフォンで「クリスマス プレゼント 恋人 長年」等と検索をし、片っ端からサイトを開いていく。
こういった検索で引っかかるのはやはり恋愛指南系のサイトであり、関連記事には恋人同士の夜のセクシーな話題も繰り広げられていた。なんだか雲行きが怪しくなってきた。
「いつもと違う格好で彼を驚かせちゃおう!私がプレゼント♡」といった、何万回も何かで見たようなアドバイスがずらりと並び、あんずは半目になりながら読み進めていく。
関連した通販サイトには可愛らしいサンタやトナカイを模した衣装が載せられており、あんずは女装企画で使えるのでは?と職業病が加速する。
「あ、これとか結構かわいい……かも」
あんずの目にとまったのはトナカイのケープが可愛らしい、パーティー用の衣装だった。フード付きのケープにトナカイのツノが生えており、ミニスカートではあるがケープで上半身は覆われるため、心許ない印象は無い。
いつの間にか自分が着る方向性で考えていることに、あんずは驚いて頭を振る。
当日のつむぎのスケジュールを確認すると、タッチの差であんずがつむぎよりも早く帰宅するようで、この記事がいうサプライズは可能なことが分かった。
ただ、つむぎにこのサプライズを行ったところで、せいぜい反応は予想の範囲内で、不完全燃焼に終わるだろうとあんずは考えた。
しかし、たまにはこういうのもいいのではないか。
――ええい、ままよ。
あんずはわざわざつむぎが受け取らないよう最寄りのコンビニに配送先を指定する徹底ぶりで、密かな計画を進めることとなった。
あんずはこの時三徹目の頭で考えた計画に頭を抱え当日を迎えた。忙しさにかまけてこれ以外のプレゼントを用意出来なかったあんずは、鏡の前で立ち尽くした。
届いた衣装は通販なこともあり、どうやらイメージ画像よりも若干タイトに作られていた。ケープで何とか隠せてはいるが、その下はノースリーブで胸が開いた形のデザインになっており、心底心許ない。
付属品のふわふわのアームウォーマーとレッグウォーマーでなんとか手足を隠し、フードを被って全体を確認している最中に、ガチャリと玄関のドアが開く音がした。
――――――――
「――……サンタだと、ちょっと恥ずかしいかな、と思いまして……」
「うーん、俺はサンタもトナカイも対して変わらないと思いますけどね~」
つむぎのあっけらかんとした言葉に、あんずは今まで何をしていたのかという恥ずかしさで我に返る。
――なにが、「私がプレゼント♡」だ!ネット記事のバカバカバカ!いや、三徹の私がいちばんバカ!!
「――き、着替えてきますっ、」
あんずは踵を返して寝室に戻ろうとすると、つむぎがその手を掴んだ。
「いま恥ずかしくなっちゃったんですか?あんずさんもさっき帰ってきたばかりなのにこの格好をしてるってことは、もしかしなくても、俺に見せるためですよね?」
にこにことした笑みで、何もかも見透かされてることにあんずはきゅっと俯く。
つむぎはそのあんずの頬を優しく撫で、俯いた視線を上げさせる。
「あんずさんの気持ちが嬉しいんです。せっかくだから沢山見せてください」
あんずは頬を赤らめながらも、こくりと頷いた。
「へぇ~、このケープはくっついてないんですね!」
ふたりで寝室へと向かうや否や、つむぎは無遠慮にあんずのその衣装をべたべたと触り、細かいところまで隅々と眺めている。
「テレビとかイベントとかで、こういう衣装とかみたこと沢山ありますよね……?」
あんずが遠慮がちにそういうと、つむぎはうーん、と首を捻った。
「まぁありますけど、女の子の衣装をあんまりまじまじと見るのは良くないじゃないですか」
男性アイドルとしての至極真っ当なセリフにあんずはプロデューサーとして納得しながらも、少しむっとする。
「――もちろん、あんずさんも女の子ですけど、その前に俺の大事な恋人ですから」
つむぎはそのトパーズのような瞳をゆるく細め、あんずの着ているケープのリボンをゆっくりと解いた。
パサりと床にケープが落とされ、あんずのささやかな胸の谷間が露わになる。
お互いに忙しく、こうした恋人としての時間を過ごすことも久しぶりなあんずは、つむぎの突然の行動にドギマギする。あんずは気恥ずかしくなって、両手を胸の前で隠すようにした。
なんとなく、長年の付き合いもありながらつむぎはこういうアプローチに疎いのではないかと予想していたあんずだったが、どうやら違ったようだ。
胸を隠すあんずの両手を優しく絡め取りながら、つむぎはあんずへの距離を詰めていく。
「――俺、据え膳は頂く主義なんです」
ゆっくりとあんずを押し倒しながら、つむぎはにっこりと告げる。
――どうやら、つむぎにはまだまだあんずの知らない部分がありそうだ。
迫ってくる唇を受け止めながら、あんずは幸せそうにゆるりと微笑んだ。